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Category: 明けない夜の向こう側 第一章  1/3

16日から連載開始いたします(`・ω・´)

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タイトルは「明けない夜の向こう側」です。お盆近くになりますと、戦争の話や、空襲の話、原爆の話が、一過性の話題のように連日メディアで流れてきます。書いてみたい素材ではありましたが、きちんと書くには調べることが多すぎて、ちょっとハードルが高くて二の足を踏んでおりました。***着地点は、とうに決まっておりますが、そこまで到達するのに手間取りました。毎日更新は、ちょっと無理があるので二、三日に一度の更新に...

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明けない夜の向こう側 1

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上野にある地下道で、高い少年の声が響いた。「逃げろーーーっ!」「刈り込みだーー!」逃げ惑う小さな影と、彼らに襲い掛かる捕獲者たちの足音が入り乱れて響く。怒声と泣き声が、地下道の中で騒々しく共鳴していた。「刈り込み」というのは、捕まえた浮浪児を、トラックに放り込み各収容施設に送り込むことだ。まるで野犬狩りのように、一匹二匹と数えながら荷台に放り込まれた子供たちは、この先、劣悪な環境の収容先に放り込ま...

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明けない夜の向こう側 2

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櫂の背嚢(はいのう・背負う鞄)の中には、母親が持たせてくれた、わずかな食料が入っていた。少量の米と小豆、芋が、独りぼっちになった櫂の命を救った。母に貰った財布は肌着の中に隠し、誰かに荷物を奪われないように、細心の注意を払って櫂は、鞄を枕にして眠った。集まってきた子供たちは、不屈の精神力を発揮した。そうしなければ生きていけないと、本能で知っていたかのかもしれない。昨日までそこで生きていた子供が、次の...

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明けない夜の向こう側 3

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折角、親が迎えに来ても劣悪な環境で、すでに命を落としていた者も大勢いた。盗んだ残飯が腐敗していて、何日も腹痛と激しい嘔吐に苦しみながら死んだ一郎。「小父さん……一郎は……二週間くらい前に死んだんだ」「死んだ……?」「ああ。病気になったんだ……」何も食べる物がなくて、三日も何も食べられなくて、犬も食わなかった古い残飯を食ったんだとは言えなかった。「もう少し、早く捜せたら生きていたのか……あぁ、一郎……父ちゃんが...

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ま……間違えました~(´;ω;`)ウゥゥ

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火曜日の九時に上がるはずが、月曜日の九時にあがってました。さっき、確認して気が付きました。とうとう……予約投稿もまともにできないあんぽんたんに……(´・ω・`)←前から~すみません。次回は木曜日更新予定です。(`・ω・´)...

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明けない夜の向こう側 4

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上野に立ち戻った櫂と陸は、隠し持った食料と銭でなんとか暮らしていた。時々、買い出し帰りの通行人から、芋を安く売って貰って、拾った空き缶で煮てみたりもした。「今日も、固煮えだな。もう少し、水を入れればよかったな」「にいちゃ、平気。食べれるよ」陸は食べ物があるだけで嬉しそうだ。大抵は、生煮えで美味くはなかったが、腹が満たされればなんでもよかった。だが、平穏な日々は長くは続かない。何度目かの刈り込みに遭...

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明けない夜の向こう側 5

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櫂たちは、自分たちで飯を作り掃除をし、近くの農家の草取りをした。夕暮れになると、僅かばかりの食料を日当代わりに貰い、それを施設の子供たちみんなで食べる自給自足のような日々だった。櫂は他の子どもたちに比べると、体も大きかったので、自然と大人がするような重労働を強いられていた。施設長は、すまないねと櫂をねぎらってくれた。施設長自身も子供らと共に、農家で飼っている馬や牛の為に、近くの川から何杯も水を汲み...

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明けない夜の向こう側 6

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出かけていた施設長が、ある日、帰宅すると大声で櫂を呼んだ。「櫂!学校に行けるぞ!」「え?本当」「ああ。皆揃って村の小学校に通ってもいいそうだ。校長先生が約束してくれた」「やったあ!」学校に通うのは、櫂達の望みだった。三万人を越える戦争孤児を、そのままにしてはいけないと、政府の教育に携わる者も考え始めていたらしい。厚生省内に孤児の為の部署が設置され、福祉上の観点からの対策に取り組むことになっていた。...

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明けない夜の向こう側 7

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施設の子たちの学力は、めきめきと上がった。そればかりか、徒競争や掃除さえも村の子には負けなかった。歯を食いしばって努力した結果、やがて施設の子を見習えという声が、周囲や校長からも出るようになった。施設の職員も驚いていた。どの子も普通の子で、とりたてて優秀なわけではない。しかし、どの学年の子供もほかの子たちと比べると、際立っていた。他の子よりも努力しただけだったが、自分たちにもやればできると自信につ...

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明けない夜の向こう側 8

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翌日、県知事の前に立った櫂の挨拶は完ぺきだった。「県知事閣下。本日はご多忙の中、お時間を作ってご訪問してくださり、ありがとうございます」県知事は黒い礼帽の端を抑えて、ふっと笑んだ。「君が新堂櫂くんか。話には聞いているよ。とても優秀だそうだね。先生方と話があるから、呼ぶまで少し向こうに行っていなさい」「はい。失礼します」県知事はその後、施設長の慇懃な挨拶を受けた。「新堂櫂をはじめ、施設の子供たちが優...

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明けない夜の向こう側 9

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泣きたくなるような幸せな夢を見た後は、苦しくなるほどの悲しみが胸を締め付ける。だから、櫂はいつしか幸せを夢見ることを諦めた。夢を見ながら、これは幻だと自分に言い聞かせた。こんなことが起きるはずはないこれは夢だしばらく目を瞑っていると、きっと誰かが櫂の脇腹をつついてこういうのだ。『早く目を覚ましなさい いつまで、夢を見ているんだ』……と。呆然とした櫂は、強張った顔を向けた。「……なんで今頃……?」父親だと...

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明けない夜の向こう側 10

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櫂は陸の父親に向かって、頭を下げた。「陸を連れてきます。待っていてください」「ありがとう」校長室を後にして、櫂は陸の教室に足を運んだ。陸にとって、これ以上に喜ばしいことはない。施設の暮らしも、今は最初の頃より改善されていたが、不自由なことも多い。例え陸と別れても、どこかで陸が幸せでいてくれたなら、それでいい。身寄りのない陸が、家族と一緒に暮らす夢を、見ないはずはないのだから。櫂は自分にそう言い聞か...

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明けない夜の向こう側 11

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父親が現れたというのに、陸は余り嬉しそうではなかった。付いてきたものの櫂の背中に隠れるようにして、一つ頭を下げたきり黙りこくっていた。「陸くん。どうしたんだい?恥ずかしいのかな。お父さんにご挨拶しないのかい?」「陸?」背中に張り付いた陸を引きはがして、櫂は顔を覗き込んだ。本心ではない綺麗ごとが、すらすらと滑り、口をついた。「おれは、陸に父ちゃんがいて、本当によかったって思うよ。陸も、いつか誰かが迎...

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明けない夜の向こう側 12

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零れ落ちる話から推測すると、陸の父親は大層な金持ちらしく、施設長にも沢山の寄付を申し出たという事だった。「これまでの陸にくださった、たくさんの愛情に比べたら、この程度の金などはした金です。何ほどのものでもありません。今後も継続して、この施設を援助したいと思っています。受け取っていただけるでしょうか」「ありがとうございます。正直言って、助かります。まだまだ国や県からの助成金には期待できませんから。子...

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明けない夜の向こう側 13

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櫂も珍しく饒舌に話をした。「先生は坊主のくせして、地獄に落ちてもいいから、生き延びろっていつも言うんだ。後悔などいつでもできる。生まれた以上、生きることが大切なんだって。今は誰も逃げたりしないけど、ここから誰かが逃げるたびに、先生はとにかく生きていてくれって本気で願っていた。……おれも陸も上野では毎日、転がった死体をたくさん見て来たよ。始末が追い付かないって、兵隊さんが言ってた。だから、陸はあまり話...

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明けない夜の向こう側 14

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翌日、施設長が陸の出所を告げた。家族と一緒に暮らすために、陸は今日、施設を出てゆく。身の回りのものだけを風呂敷に包んで、陸は何も言わずに見送る子供たちに頭を下げ、車に向かった。そこに櫂の姿はない。別れは部屋で済ませていた。「陸、いい子にして、父ちゃんに可愛がって貰えよ。それと、何でも必死でやれよ。誰にも負けるな。約束だぞ」「……にいちゃが見てないと、おれさぼるかもしれないよ」「陸はさぼったりしない」...

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明けない夜の向こう側 第二章 1

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戦後、上野で出会った御堂櫂、吉永陸の二人は、揃って陸の父親、鳴澤征太郎に引き取られ、鳴澤姓を名乗ることになった。陸の父親は、多忙なため、早々に二人を笹崎に預けると仕事に戻った。初めて、父親の屋敷に足を踏み入れた二人は、敷地の広さに圧倒され、内心すっかり怖気づいていた。鉄の門をくぐってから、車寄せのある大きな玄関に着くまで車はしばらく走り、ここまで広大な屋敷を想像していなかった二人は驚くばかりだった...

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明けない夜の向こう側 第二章 2

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前時代的な着物の中に埋まるようにして、少女は顔を上げた。「うふふっ……滑っちゃった」「郁人さま……おいたが過ぎます。お熱が出たらどうなさいます。苦いお薬を飲ませてくださいって、望月先生にお願いしますよ」胸を撫でおろした世話係の袖をつかんで、郁人は涙ぐんだ。「いや、いや。ばあやの意地悪……くっすん……」櫂は少女の愛らしさに、すっかり目を奪われていた。今まで生きて来て、これほど美しい子供に会ったことはない。施...

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明けない夜の向こう側 第二章 3

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借りて来た猫のように、二人は並んで腰を下ろした。「……郁人さまの事をお聞きになられたんですか?驚いたでしょう?」「あ、はい」笹崎は二人の手の中に、甘い紅茶の入ったカップを持たせた。「郁人さまには、姉上がいらっしゃいましてね。由美子さまとおっしゃって、とても気立ての良い利発な方でした」「ほかにもまだ姉妹がいたのか」「ええ、そうですよ」「初めて聞くことばかりだ……」「そうですねぇ。今生きていらしたら、由美...

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明けない夜の向こう側 第二章 4

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郁人の朝は、小鳥のように早い。空が白み始めた頃から、そっと部屋にやって来て寝台の上に跳躍する。ばふっ!「兄さま、朝ですよ~」「ん~……郁人?……まだ、早いよ。夜が明けたばかりじゃないか……」「櫂兄さまは、とっくに起きていらっしゃるのに、お寝坊さん」うふふっと笑う、いたずらっこの郁人は、相変わらず女の子のようで可愛くて、男児と知っていても時々陸は扱いに困ってしまう。「にいちゃは、受験勉強が大変なんだから、...

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明けない夜の向こう側 第二章 5

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出立の朝、櫂は大きなトランクを手にしていた。「少しの間の辛抱だ。休みには帰ってくる」背も伸び少し大人びた櫂を、見送る陸は眩しそうに見つめた。寝る間も惜しんで努力を形にした、自慢の兄だった。「元気でね、にいちゃ……あの、手紙書く」「おれも書く。じゃな。風邪ひくなよ」櫂は巻いていた襟巻を、陸の首に巻いてやった。櫂のぬくもりに、ふわりと包まれて陸は泣きそうになる。以前から、櫂は家を離れて進学する意を、陸に...

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明けない夜の向こう側 第二章 6

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「うわああぁあーーーっ……」「郁人さまっ!?」運転していた笹崎は、揉みあっているように見えた二人が、同時に窓から転落したと勘違いし、必死に現場へ急いだ。「陸さまっ!」「笹崎さん、だ、大丈夫。郁人は落ちてないから……っ」刈り込んだ背の低い植木が、屋敷をぐるりと囲んでいるのが幸いした。心配して覗き込む笹崎に、大丈夫だと応えたが、地面に叩きつけた足の痛みに呻いた。陸の体重と衝撃を、茂った庭木が受け止めてくれ...

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明けない夜の向こう側 第二章 7

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櫂は陸から手紙をもらった。部屋に戻る時間ももどかしく、中庭で手紙を広げた。「えっ」そこには郁人をかばって、二階から落ちた事が書かれてあった。驚いて読み進めてゆくと、生垣のおかげで、大した怪我もせずに済んだこと、父が驚くほど狼狽したこと。そして、鳴澤に向かって、初めて心からお父さんと呼べたことなどが書かれてあった。「……そうか。良かったなぁ、陸」「おや、鳴澤君。どうしたね、随分楽しそうじゃないか。大事...

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明けない夜の向こう側 第二章 8

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陸は、鳴澤の家に引き取られて以来、これまで自由だった。明るく快活に、使用人のいる生活にも少しずつ慣れながら、少年らしく日々を過ごしていた。引き取られた当初、郁人と同じように、家庭教師をつけて勉強させればいいと鳴澤は告げたが、一度に環境を変えるのは良くないだろうという、最上家令の意見を聞き入れて近くの中学に編入した。だが、郁人が貧血で倒れたあの日から、少しずつ周囲が変わり始めた。まず、足の傷が癒えて...

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明けない夜の向こう側 第二章 9

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笹崎は訴えた。「最上さん……あれでは、陸さまが余りに可哀想です。まるで陸さま個人には何の存在価値もないような物言いじゃありませんか。いくら、亡くなった奥様の弟だと言っても、人を人とも思わないようなあんな態度はない。何も知らない陸さまがお気の毒です」「陸さまに情が移るのも分かる。笹崎……あの子はとてもいい子だ。だが、今は望月先生の言う通りにすべきだとわたしは思う。由美子さまの哀れな最期を忘れたわけではな...

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明けない夜の向こう側 第二章 10

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思い余った陸はペンを握ったが、その内容は日常を切りとった取り止めのないものでしかなかった。櫂に心配を掛けたくない思いで、結局、陸は自分の置かれている状況を記せなかった。もしも、書いたとしても最上家令の指図で、手紙は櫂の手には渡ることのないよう回収されたに違いない。そういう意味では、屋敷の使用人全て、陸の敵だった。週に一度の尿検査は、郁人に一度蛋白尿が出てから三日に一度実施されることになり、郁人と陸...

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明けない夜の向こう側 第二章 11

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あれは、上野で暮らしていた頃だった。日々の生活と生きてゆく苦しさに負けて、櫂はたった一度、陸を捨てようとしたことがある。「にいちゃ、おれを捨てないで……」 そう言った陸の握りしめた拳は震えていた。口下手な陸の思いが何かわからないが、隠していることがあると、櫂は気づいた。「すみません。車を戻してください」「櫂さま。あいにく外泊届けは出されていません。寮の門限に間に合わなくなってしまいますよ」「忘れもの...

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明けない夜の向こう側 第二章 12

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櫂は、試験後、陸に伝えた通り鳴澤家には帰らなかった。以前から考えていたことを調べるために、誰にも言わず独り深川の地にいた。知り合った頃、母親は深川で芸者をしていると、陸が言っていた。物心もついていないような子供のいう事で、その頃には事実かどうか確かめる術もなかったが、今はもうおぼろげになってしまった記憶を手繰って、母親の事を確かめるしかないと、櫂は一つの決心を固めていた。空襲によって、深川の町は焼...

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明けない夜の向こう側 第二章 13

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おそらく芸者上がりなのだろう。30そこそこの、あか抜けた女だった。小股の切れ上がったと形容するべきだろうか。店と言っても、食べる物が不足している今、大したものは無い。馬や牛に食わせる飼料用のジャガイモを揚げて、商売をしていた。少し焦げた屑芋をいくつか小皿に取り分けて、五円だよと笑った。「男前の兄さん。辻光代はあたしのおっかさんだよ。出かけているから、帰るまで、ちょいと待っておいでな」「はい。待たせ...

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明けない夜の向こう側 第二章 14

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櫂の話を聞き、40半ばの女性はしばらくしてやっと口を開いた。時間があるなら、このまま店が終ってからゆっくり飲みながら話をしようと、誘ってくれた。勿論、櫂に異論はない。「あんたの弟の名前は、吉永陸……というんだね。そうだね。吉永という名の芸妓は、うちではないけど確かに深川の置屋にいたよ」「そうですか」思わず櫂は身を乗り出した。「吉永という苗字は、あたしの知る限り深川じゃ一人しかいなかったから、覚えていた...

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