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Category: 隼と周二  1/4

 純情男道 1

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ごつごつと骨ばった指が、頭上に降りてきた。「周二坊ちゃん。しばらくの間、お別れです。」逆光で顔は見えない大柄な男が、泣いているのは震える声でわかった。「門倉、血の匂いがする。これからサツに行くのか?」「はい。親父さんに背くような真似をして、申し訳ありません。若の事をお守りするのが、わたしの役目だったのですが、できなくなりました。後の事は、木本に頼んでありますから、若は……どうぞ、お元気でいてください...

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純情男道 2

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周二は、マンションの窓から、桜吹雪が盛大に舞いあがるのを見ていた。「すごい青嵐だな。桜ももうお終いだな、隼。」「今日、雨が上がってよかったね、周二くん。夜桜の下でパパの作ってくれたお弁当一緒に食べようね。のり巻きも、唐揚げもあるの。でっかいイチゴゼリーもね。」「おうっ。だけどな、俺はほんとは花よりも団子がいいんだ。お前のぱんつの中のさくら餅を食いたいぞ。」「や~ん、ぼくは、さくら餅じゃないです~。...

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純情男道 3

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満開の夜桜は、うっとりするほど綺麗だった。本来なら気心の知れた者同士、春の宴は楽しいものとなっただろう。だがその日、木本から聞かされた話は、周二にとって少しばかり厄介なものだった。「なんだ、木本。門倉の事だろ?盛大に迎えてやんねぇとな。」「そのことなんですが、親父さんは、どうあっても門倉の兄貴と会う気はないそうです。」「は……?そんなわけねぇだろ。元はと言えば門倉が実刑食らった原因は、親父じゃねぇか...

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純情男道 4

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そして門倉宗次は、出所日を迎えた。門倉は、恐らく迎えの者など一人も無いと思いながら、久しぶりの娑婆の高い太陽を見上げた。切り取られていない、広い空を眺めると風の中に春の香が混じっているのに気付く。「さて……と、どうしたもんかな。」これから一人、どうやって生きてゆこうかと思う。自首する前には、馴染みの女もいたが、結局何も告げずに捨てた形になってしまった。自分と関わって、迷惑がかかるのを恐れた。報復の代...

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純情男道 5

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門倉は笑っていなかった。膝を崩し、ゆっくりと、何杯も温燗を煽っていた。「そ……そりゃ、そういったけど、ちょっと待て。隼は物じゃないし、あいつを門倉にくれてやるわけにはいかない。」「それでは約束が違います。」「なぁ。これから金が要るだろう?俺はそのつもりで、バイトの金や小遣いをずっと貯めて来たんだ。ここに、200万ある。門倉の苦労を思えば足りないだろうけど、受け取ってくれないか。」傍にいた木本は、先代...

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純情男道 6

ぽんぽんと隼が周二の背中を宥めるように撫でた。「大丈夫だよ。周二くん。何が起きても、周二くんもぼくも何も変わらない。大丈夫。ぼくは、周二くんを守るよ。」隼は紙のように白くなったまま、唇だけを赤くして、自分に言って聞かせるように、もう一度、大丈夫と繰り返した。「でも、そばにいてね。ぼくが逃げ出したりしないように、ぎゅっと手を握っていてね。」「ああ。一緒に居る。」付き合っていくうちに、隼は周二の稼業や...

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純情男道 7

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隼はどこまでも健気に、顔をこわばらせる周二に向かって、微笑んで見せた。ぞわりと這い上がって来ようとする恐ろしい黒い影に怯えながらも、周二を守ろうとしていた。内に潜む昏(くら)いものに捕まってしまえば、隼は自分の白い部屋に逃げ込むしかなくなると分かっていた。誰の声も届かない、音の無い温かい白い部屋の壁だけを見つめて、幼い日、長いこと隼は精神の均衡を失っていた。傍目にはぽっかりと何も映さない瞳を見開いて...

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純情男道 8

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門倉は隼を抱き起こし、そっと着物を羽織らせてやった。「大丈夫かい?もうお終いだからな。」「はい……。」「怖がらせて悪かったな。お稚児さん、頑張ったなぁ……。ぴぃぴぃ泣いて、すぐに助けを呼ぶと思ったんだがな。おじさんは、ちっとばかりつまんねぇな。泣き喚いたら、本気でこれを挿れてやろうと思ってたんだがな。ほら……。」「わ……。」昔、極道内で流行っていた門倉の真珠入りの股間の変形一物に、隼は目を瞠ったが、そのう...

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純情男道 9

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門倉は、姐さんと呼ぶ女将と話をしていた。何処か晴れ晴れとして、これから郷里に帰るんだと語った。「あんたもつくづく、面倒くさい男だねぇ。全く。」「すみません。」「あたしが知らせてやってただろう。心配しなくても、性根は最初にあんたが育てたんだ。周二は大丈夫だよって。」「年を取ると、自分の目で確かめなきゃ気が済まないんですよ。でも、姐さんの言うとおりでしたね。あのお稚児さん、動じませんでした。あれなら、...

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純情男道 10 【最終話】

旅立ちの日、木本は空港で組長から預かって来たものを、そっと門倉に渡した。「なんだ?」「親父さんからの餞別です。」木本が渡したものは、門倉名義の通帳と印鑑。そして、門倉が昔一緒に住んでいた女が営業している店の住所だった。「いつか、隠居したら会いにいくそうです。「それまで、くたばるじゃねぇぞ」ってのが、親父さんからの伝言です。」「この住所は……?「門」……?料理屋?」「新しい落ち着き先です。出所するのを待...

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沢木淳也・最後の日 【作品概要】 

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沢木 隼(さわき しゅん)人と関わることが苦手で、口下手。年齢よりも幼く見える高校生。父親(沢木淳也(じゅんや)の職業は刑事、溺愛されている。同級生の木庭周二と恋人同士。ひどい近視と乱視で、ダサいメガネをかけているが、素顔は絶世の美少年。過去に誘拐されて、心身に深い傷を負った。木庭 周二(こば しゅうじ)沢木隼と子供のころに出会い、ずっと思っていた。高校で出会い、昨年秋にやっと恋人同士になった。隼...

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沢木淳也・最後の日 1

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付き合い始めて、二回目の秋がやってきた。相変わらず気の毒なほど進展の無い、隼と周二だった。去年の秋、病院からの帰り道、凪の水面で煌く金波銀波のように降る銀杏を、ふたり寄り添って眺めた。隼こそが自分の求める、かけがえのない永遠の半身だと、周二は心から思った。三角形の輝く落ち葉を手のひらで受け止めながら、隼と周二はおずおずとキスを交わし、愛を確かめ合った。何も知らない腕の中の隼が愛おしかった。もどかし...

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沢木淳也・最後の日 2

「ねんねさん、お風呂にお湯入りましたよ。」「あ。松本さん、ありがとうございます。」隼を大好きな松本は、いそいそと風呂の支度をしてくれた。隼の好きそうなお風呂グッズを色々揃えてくれている。いくら何でもと思うが、アヒル隊長の玩具まである。「一緒に風呂入ろうぜ、隼。」「ん~、二人で入るには、狭いよ?」「だから、いいんだろ?……くそ親父には内緒な。」「うふふ~」ばかっぷる丸出しの隼と周二が部屋から出て行った...

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沢木淳也・最後の日 3

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沢木は愛用の黒い鞄を手にしていた。「隼。」「あ、パパ。もうお仕事に行くの?」「ああ。今夜からしばらく泊まりで忙しくなるからな。いい子にしてろよ。」「ん~……パパ……さびしい?」隼は父親の元に駆け寄ると、触れた大きな手に頬を擦り付けた。「さびしいなぁ。隼は強いから大丈夫だけどな、パパは隼と離れると思うと、ここにどか~んと大きな穴が開いた気がするよ。隼は、パパが居なくても野獣がいるから平気だな?」「うん。...

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沢木淳也・最後の日 4

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優しく髪をかきやると、周二はことさら明るく告げた。「……きっとすぐに帰ってくるから、心配すんな。」「ん……。」「今までだって、俺といちゃこらしてたら、速攻で邪魔しにやって来てただろ。それに、くそ親父には木本すら太刀打ちできなかったんだ。そんな鬼みてぇな奴が出て行くんだから、でかい山もすぐに片付くって。男らしく待ってようぜ。」「ん……ぼく、漢(おとこ)だもん……平気。漢らしく待ってる。」「それよりさ。……隼。」...

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沢木淳也・最後の日 5

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沢木が木庭組のビルから出て来ると、待ちかねた様子の若い刑事が走り寄って来た。新卒で配属されてきた、鹿島雄一(かしまゆういち)という若い刑事だった。キャリア組なのだが、署長が直々に沢木を呼び出し、しばらく現場で傍に置いて勉強させてくれという。どうやら、断れない位、上からのお達しらしかった。現場で誰の下につきたいかと問われ、鹿島は迷うことなく沢木を選んだらしい。迷惑な話だった。「沢木さん。」「鹿島……?...

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沢木淳也・最後の日 6

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翌朝、木本と松本は気合を入れて、隼の為に朝食作りに励んでいた。大したものはないが、テーブルの上には心づくしが並んでいる。木本は沢木がしていたように、器用に弁当までこしらえていた。「お前、そろそろ坊ちゃんとねんねを起こして……あ、いい。俺が起こしてくる。」「兄貴、俺が起こしてきます!」「いい。俺が行く。」「あ~、兄貴、ねんねの寝顔見たいとか思ったんでしょ?蒼太がいるくせに~。」「やかましいっ。俺は沢木...

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沢木淳也・最後の日 7

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静まった警察の奥で、沢木は顔見知りの鑑識課員と話をしていた。「害者の身元なんだが……」「はい。残念ながら、西署の部長の息子さんでした。指紋と歯形で、すぐに判明したんですが、顔は前の害者と同じく作り変えられていました。どういう理由があって被害者の顔を変えるのか、犯人の意図がわかりません。一応、怨恨の線も当たってるらしいです。……これで、犠牲者は三人目になりましたね。」「そうだな。」「犯人の目的がわからな...

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沢木淳也・最後の日 8

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沢木と鹿島が参加した合同捜査会議は、早朝から行われた。捜査員をすべて班分けにし、それぞれチームを組んで捜査は進められる。捜査に関わる人数は、今回の殺人事件が広域捜査になったことで異例の多さになった。西署の沢木が連れた新人が実はキャリアで、その名前から鹿島警視監の息子だという事は、すでに知れ渡っていた。全国26万警察官のトップになるべき人物は、これまで例外なく警視監二十名の中から選ばれている。鹿島雄...

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沢木淳也・最後の日 9

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沢木は最後まで残り、今回の捜査で直属の上司となった班長に声を掛けた。「警察をかきまわして、喜んでいるように見えると言うよりは、俺には誰かの注意を引きたいだけのような気がしますね。」「なぜそう思う?」「こうすることで自分を見てくれと、存在をアピールしているような気がするんです。プロファイルを否定する気はありませんが、同じ手口で害者は皆、警察官の子息だ。それが、どうも気になって……。まあ、裏が無い以上思...

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沢木淳也・最後の日 10

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生徒会室で過ごす昼休みは、連日、蒼太と隼と周二で、盛大な昼食会となっていた。真ん中に木本が腕によりを掛けた、豪華な弁当が並ぶ。隼の父親の三段弁当に引けを取らない料亭顔負けの手の込んだものだった。「りんご、も~らいっ!」「あ!ぼくのうさぎさん~!や~ん。」「木庭。大人げない。沢木に返したまえ。君はそっちのみかんでも食べてなさい。」「ちっ。」うさぎりんごの争奪戦は、隼の勝利となった。「うふふ~、ねぇ、...

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沢木淳也・最後の日 11

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隼は周二を伴って、呼び出された会議室に向かった。「こんにちは。君が沢木隼くん?」初対面の相手には、気軽に返事をしないように隼は周二に言われている。後ろに立つ周二の恐ろしいほどの気圧(オーラ)に、相手はたじろいだ。「初めまして。沢木さんと一緒に働いている鹿島と言います。」隼を訪ねて来た鹿島は、隼と周二に警察手帳を見せた。勿論、正真正銘の本物だ。「パパの……同僚の人?」「そうです。捜査が長引いて、心配し...

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沢木淳也・最後の日 12

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沢木はいらだっていた。約束の時間を過ぎても、鹿島が戻ってこない。何度電話をかけても、つながらない。「くそっ。鹿島の奴、何をやってるんだ。」腹立ちまぎれに、沢木が何本目かの煙草を踏みつけた時、能天気な声がした。「すみませんーーー!遅くなってしまって……」息せき切って走って来た鹿島を、否応なく怒鳴りつけた。「ばか野郎っ!何が有っても時間は守れ。おまえが遅れたせいで、犯人を取り逃がすことだってあるんだ。恋...

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沢木淳也・最後の日 13

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沢木は、木本に、「もし何かあったら遠慮しないで連絡してください。裏の事はこちらの方が動きやすいこともありますから。」と言われていた。木本のような893くずれに手を借りるつもりはなかったのだが、用を足す振りをして、片手で携帯を通話にした。実際は本部に連絡を入れるべきだったのだろうが、鹿島に知られたくはなかった。ただ、刑事の勘で今誰かに伝えないとまずい気がする。ざっと濁った水が流れた。「そういや鹿島。...

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沢木淳也・最後の日 14

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空中に投げ出された沢木は、落ちながら目の前にあった床に手を掛けた。その位の反射神経はあるが、ぽかりと空いた空間に辛うじて指先だけでしがみつく格好になった。「すごいなぁ。沢木さんって、運動神経もいいんですね。落ちると思ったのに。」「……くっ!」頭上から鹿島が覗き込む。「返事してくれないんですか?冷たいなぁ。」「あ、そうだ、いいものがあるんです。聞かせてあげますね。きっと、僕に返事をしたくなりますよ。」...

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沢木淳也・最後の日 15

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沢木は朦朧としながらも、相手に掴みかかろうとしていた。必死に伸ばした腕を、相手は難なくすり抜けた。「な……にを使いやがった?」「ん~?薬品名で言うなら、パンクロニウム……?なんてね、冗談ですよ。そんなきついものじゃありません。怖いなぁ……そんな恐ろしい顔しないでください。雄ちゃん、なぁにこの人、薬が効かないの?まじこわいよ~。」「パンクロニウムだと……?」筋弛緩剤の一種、パンクロニウムはアメリカでは死刑執...

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沢木淳也・最後の日 16

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落ち着かない周二を尻目に、戻って来た木本は至極冷静だった。木本には沢木の流してきた情報で、ある程度の推理が出来ていた。「周二さん。こういう事は余り言いたくありませんが……。これまで、犯人は遺体を遺棄しちまっていますよね。隠そうともせず、まるで誇示するように。」「だから、なんだ?」「こんなことを言うのは、どうかと思いますけど、大抵、警察(サツ)の行う家宅捜索って言うのは拳銃(チャカ)と日本刀の一振り位...

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沢木淳也・最後の日 17

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ドアホンが鳴り、木本が相手を確かめた。「松本です。」「ただいま戻りました。」隼を迎えに行った松本が帰ってきた。「ただいま、周二くん……何かあったの?」「いや。腹減ってないか?隼。」隼はすぐに周二の腕の中に、すっぽりと抱かれて見上げた。無垢な瞳にじっと見つめられて、思わず視線を外しそうになるが、辛うじて笑みを浮かべた。感が良すぎて、時々周二は困るが、木本が助け舟を出してくれた。強面の木本は、カフェのギ...

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沢木淳也・最後の日 18

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画面に流れる文字を、隼はゆっくりと読み上げた。「本日未明、○○河川敷にて、30代~40代の男性の遺体発見、連続死体遺棄事件との関わり濃厚。身元を明らかにする目立った所持品などは発見されず……。木本さん。もしかして、これ……が、拉致されたパパ……かもしれないってこと?」「それはまだ、わかりません。」「隼。……まだ、確かな情報は何もないんだ。それに、行方が分からなくなってから、そんなに時間も経ってない。」驚いた...

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沢木淳也・最後の日 19

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所轄の警察署から、沢木淳也のただ一人の身内である隼に、遺棄されていた遺体の確認をしてほしいと周二の父親に連絡があったらしい。隼が、木本の方を見た。「木本さん……今の、周二くんのパパから?」「はい。」「面通しに来いって電話ですよね?署長さんから、ぼくに検死に来てくれないかって電話があったんですよね。」「隼。」周二は悲愴な顔で、最愛の恋人を見つめた。「その位わかるよ。ぼくは刑事の息子で、パパのただ一人の...

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