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Category: 若様と過ごした夏  1/2

小説・若様と過ごした夏・0

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作品概要お墓参りにいったら、ご先祖様が憑いて来た。小さくて可愛いお殿様・・・だと思ったけど、周囲は振り回されてばかり。かわいそうな若様には、お城落城、悲しい運命、色々な過去があった。※柄にもなく、青春物を書こうとしたのですが、当然のように時代物になってしまいました。個人的には好きなお話です。注目作品に選んでいただきました。...

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小説・若様と過ごした夏・1

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うちは、共稼ぎなのね。だから、一学期の終業式を終えたら、ママの田舎で両親が夏季休暇になるまで待ってた。一人で朝から晩まで、お留守番させるのはかわいそうって言うのが理由で、小学校の頃から、夏休みは毎年うんと退屈な田舎暮らし。今みたいに、学童保育もなかったしね。でも、田舎はうんと退屈なの。女の子はカブトムシとか、ザリガニにも興味ないし。・・・でも、今年は違っていた。中学二年生のあたしは、うんと可愛い若...

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小説・若様と過ごした夏・2

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「良いなぁ、真子はこれからおばあちゃん家か~。」終業式の帰り道、ともだちの麻友が盛大にため息をついた。「あたしは、夏休み中ママと家庭教師に付きまとわれるんだよ、やだな~・・・。」「そっか~、麻友は頭良いから、ママも期待してるんだよ。」麻友には言えないけど、麻友ん家みたく、口うるさいママが、朝から晩まで勉強しなさいって繰り返す生活なんてあたしにはとても我慢できない。パパがお医者様で、子供が麻友しかい...

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小説・若様と過ごした夏・3

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そのまま、麻友は有名進学塾へ行き、あたしは田舎のおばあちゃん家に行くために電車を乗り継いだ。最近できた、「ジャスコ」が9時まで開いているのがおばあちゃんの「こっちの方も都会になったのよ」ということらしい。おばあちゃん、コンビニが10時に閉まるなんて、普通は考えられないんだよ・・・まあ、コンビニもあるだけマシと思わなきゃ・・・田舎の夜は、信じられないほど暗い。真夜中まで、がんがん音のするゲームセンター...

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小説・若様と過ごした夏・4

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「真子ちゃん、叔母さん早めに仕事終わらせるから、帰ったらお墓参りに一緒に行っとく?」「そうします。」もうしばらくたてば、もっと打ち解けるんだけど、着いたばかりは、毎年照れくさくて何となくぎこちないあたし。あ、そういえば佳奈叔母さんには、あたしより一つ上の息子の宗ちゃん(従兄弟)がいるんだよね。佳奈叔母さんに似て、惚れ惚れするほど顔だけは美人さんだったけど・・・残念なことに、性格が悪かった。よく言え...

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小説・若様と過ごした夏・5

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「うつけものめが。・・・頭が高いと言ったのじゃ。」「はあ・・・?」こちらに向けた顔だけがとりえの宗ちゃんは、脳みそをこの暑さでやられたに違いなかった。「今年もお世話になります。よろしくね。」・・・さっさと、そこからどいてくれないかな。あたしは、汗かいた服を着替えたいの。「女中。名は何と申す?」従兄弟の宗ちゃんは、どうやら完璧におかしくなったみたいだった・・・後ずさったあたしは、階下に向かって叫んだ...

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小説・若様と過ごした夏・6

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「女中、名は?」「きゃ!・・・びっくりした。」不意に声をかけられて、驚いた。「あ、宗ちゃんもお墓参りに来てたの?」「そうだ、水入れにお水あげてくれる?」「・・・わたしがか?」気が付いた、佳奈叔母さんが血相変えてやってきた。「若様。それをこちらに。」「うん。」何?親子で時代劇ごっこ・・・・?若様って・・・苦笑だよ、もう。夕立が来るのだろうか。西から急に、黒い雲が湧き上がってきた。ゲリラ豪雨って、都会...

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小説・若様と過ごした夏・7

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「誰が女中だ、こら~!」目を開けたら、心配そうな顔がいくつものぞきこんでいた。・・・一部不適切な、今の暴言は忘れてください、ごめんなさい。おばあちゃん、心配かけてごめんね。佳奈叔母さん、あたしは大丈夫。脳みそやられた綺麗なだけがとりえの従兄弟の、宗ちゃん。そして、その横に、宗ちゃんが子供の頃の顔した男の子がいた。「え~と・・・?あれっ?」「・・・佳奈叔母さん、宗ちゃんの弟いたっけ?」全員が顔を見合...

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小説・若様と過ごした夏・8

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「あいつ、篠塚家の6代目の息子らしいぜ。俺と同じ名前で宗太郎ってんだ。ほら、落城して死んだ城主のせがれだって。」そこに姿が見えるから、頷くしかないけど何か不思議な感じ。「女中、苦しゅうない。そちの名を申せ。」佳奈叔母さんが目配せした。「篠塚真子です。・・・て言うか、何ではなっから女中呼ばわりされてるのか、意味わかんないんですけど。」宗ちゃんが、こっそり耳打ちした。「今年は篠塚家の区切りの大法要があ...

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小説・若様と過ごした夏・9

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軽い脳震盪だったあたしは、すぐに帰宅を許された。大きなこぶはできたけど、宗ちゃんが途中で草むらの方に押し倒してくれたので、命拾いしたらしかった。確かに、あのまま石段を転がっていたら、わたしもご先祖様と同じ場所に、丁重に葬られていたかも知れない。「ありがとね、宗ちゃん。」「礼には及ばぬ。」がっくり・・・ちびの宗太郎が憑いてた。「あんたじゃないって。」もう、面倒くさいので宗ちゃんと、ちび宗ちゃんって分...

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小説・若様と過ごした夏・10

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強引に納得したところで、あたしは向き直った。「ちょっと。」「なんじゃ、女中。」な、なんだとぉ~このちび侍が・・・・と切れそうになるのを押さえてあたしは言った。「もう、家の者には視えてるんだからさ、宗ちゃんに憑かなくてもいいんじゃないの?」「でてきて、ここに座れば?」「女中の分際でわたしに、指図いたすな。何度も、頭が高いと言っておろう。」ちんまりとしたちび宗ちゃんが、悪態ついて離れたとたん宗ちゃんは...

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小説・若様と過ごした夏・11

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「方々には、重々お詫び申し上げる。」「これまでの失礼の段は、この通り。」両手で綺麗な三角を作って、ちび宗ちゃんはお行儀よく頭を下げた。「突然、周囲の様子が変わって驚きのあまり、宗太郎殿に取り憑いてしもうたのじゃ。」「余りに取り憑きやすかったので、居心地が良く。つい何度も入ってしまった・・・」「わたしは、これからどうすればよいのであろう・・・」「じょちゅ・・・真子とやら。その方は大層な法力の使い手の...

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小説・若様と過ごした夏・12

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「若様。ちょっと、お茶にしませんか?」そういって、部屋に佳奈叔母さんが麦茶とアイスクリームを持ってきてくれた。「かたじけない。」「食べれば?」「・・・この姿では、ままならぬ。」確かに、霊は食事をしない。体がなくなると、大方の「欲」というものは消えるらしかった。強い思いだけが、身体をなくしても残るのだから幽霊になるのも結構根性と力がいるのだ。ちび宗ちゃんは、お利口に待っていた。なんだか、「よし」と言...

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小説・若様と過ごした夏・13

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あたしは、ぼんやりと考えていた。若様、篠塚宗太郎正英のこと。どうやって調べればわかるんだっけ・・・?でも、あの若様、気になる一言を言ってたよね。座敷の格子がどうのこうの・・・「おばあちゃん、格子のある座敷ってなんなの?」年の功だよね、そういうのは「座敷牢」っていうんだって。さっそく携帯検索してみた。『格子などで厳重に仕切り、外へ出られないようにして、罪人・狂人などを押し込めておく座敷。 』『・・・...

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小説・若様と過ごした夏・14

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さてと・・・。田舎の夏祭りは、結構盛大なのね。きっと他に、何のイベントもないせいだと思うけど。どこからこんなに人が沸いてくるのって言うほど、大勢夕方から集まってくる。とうの昔に、財産は切り売りして、他所に土地もない貧乏な篠塚本家なのに、近くの神社の名前も篠塚神社だし、やたらと名前だけは通っているみたいだ。おばあちゃんなんか、土地の古老からなんて呼ばれていると思う?「篠塚のお姫様(おひいさま)」よ。...

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小説・若様と過ごした夏・15

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取り合えず、りんご飴だの、東京カステラだのを買い込んで、あたしは帰り道だった。「そうだ、宗ちゃんに会って帰る?」「いいの?真子ちゃん。」「平気、休んでいって。」宗ちゃんはあたしの持ち物じゃないけど、顔だけは男前の従兄弟が、彼女達に好かれているのはいい気分だった。この子達、いい子だもん。「はい、こんばんわ~」似合いもしない、タトゥを腕に入れた男の子たちが通せんぼした。「か~のじょ。こんばんわのご挨拶...

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小説・若様と過ごした夏・16

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そこらへんに落ちてる木っ端で、宗ちゃんは見事に暴漢を追い払った。・・・ことになるんだろうな~・・・あ~あ、彼女達の目がハートになって、若様の宗ちゃんを見つめてる・・・ある意味、正真正銘、本物の王子様なのは、違いない。「すごいね、宗太郎君!」「かっこいい~、さっきの隣の中高一貫校の、高校生の剣道部だよ。」高校生・・・ということは、さっきのタトゥはシールだな。宗ちゃん・・・後は口先三寸でがんばってくれ...

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小説・若様と過ごした夏・17

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「真子~!」「あ、ママ。」ママだ。今回は不景気で仕事が減ったとかで、休みが増えたらしかった。「パパは?」「パパの来るのは、大法要に合わせてだから二、三日向こうね。」あたしはママに、若様の話をしようとしたのだけど、もう佳奈叔母さんから聞いた後だったみたい。「ずいぶん、可愛らしい殿様みたいね。」「うん。何かね、毎日がリアル時代劇みたいなの。」ややこしいことを説明しなくても良いって言うのは、超便利。・・...

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小説・若様と過ごした夏・18

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霊媒師といえば、東北の恐山にいるイタコさんという霊の口寄せをする巫女さんとかは、強い守護霊や神仏に守られているから平気らしい。うちの家系ってどうなのかな。篠塚の家のものは、昔からこんな風に、霊と交信できたのだろうか。若様の心残りは、どうやら座敷牢で亡くなったのが絡んでいるらしいのだけど・・・。そこの所を、小さな若様に聞くのは、可哀想な気がして、ちょっとためらってしまう。テレビに出ているような霊能者...

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小説・若様と過ごした夏・19

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よく、教科書に載っている「下克上」で領主は殺されたらしい。家臣の中に野心家が居て、殿様から預かったどこか遠くの国に出すはずの援軍を連れて、城に立ち戻り夜襲をかけたらしかった。何だか、歴史で習った明智光秀の話みたいね。戦国時代には、よくある話だったそうだけど、家臣を疑って夜もおちおち眠れないなんてあたしはいやだな・・・平和な小藩、篠塚は温暖な気候に恵まれ、小さな港も栄え、周囲からは豊かな藩と羨ましが...

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小説・若様と過ごした夏・20

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「真子。」あたしを見つけて、若様が駆け寄ってきた。きゅんきゅんしっぽを振るのが見える気がする。やっぱり豆芝みたいで、可愛い。ただ今日、光の中で薄く透けた若様は、なぜかとても心もとなく見えた。「ここに、皆は居たのじゃな・・・」大きな石を見上げる若様は、懐かしそうにそういった。「わたしは、本来ならここに皆と共に埋葬されるはずであったのじゃ。」「どうしてそんな話をするの・・・?」「真子の顔に、聞きたいと...

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小説・若様と過ごした夏・21

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「宗。」おばあちゃんは、若様の気持ちを知りたいからと言って、先に宗ちゃんを自分の部屋に呼んだ。宗ちゃんは、後の髪を暑いからとひっ詰めて居て、どこかお侍風に見えた。「あなたには、どこまで視えているの?」「あたしも、若様が宗に憑くのを面白がっていたけど、いずれ大法要までだと思っていたので、これ以上はよくないと思うの。」篠塚のお姫様は、きちんと居住まいを正し、次の当主となるはずの宗ちゃんを見つめた。「若...

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小説・若様と過ごした夏・22

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「あ、真子。」「何かあったの?二人して・・・」「うん、後でね。」二人の視線は、小さな若様に注がれていた。あたしが帰った後、お寺で何を聞いてきたんだろう・・・?篠塚家の大法要は、例年通りの日程で行われるらしい。近隣の元家臣とか、領民とか今更そんなことまだ言ってるの?と言いたくなるけど、その人たちにとっても、先祖の命日が同じなので、集まりはちょっとしたお祭りのようになる。今までずっと夏休み中に有ったは...

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小説・若様と過ごした夏・23

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「ごめんください。」玄関で、誰かの声がする。取り込み中のおばあちゃんの部屋が一番近いはずなので、あたしは大急ぎで玄関に向かった。「あ・・・っ。」小さく漏れてしまった不満の声。「先日は、失礼しました。」夏祭りで、絡んできた高校生の剣道部・・・?剣道部は室内練習なのに、あなた色黒すぎでしょ・・・と、ちょっと思った。「謝りに来た。」手土産に、冷えた大きなスイカを持って、少年は夜に出会った人とは同一人物に...

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小説・若様と過ごした夏・24

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「あの時おれには、先輩が酔っ払っているように見えましたけど?」爽やか高校生は、赤面した。「親父のチューハイが、回ってたんだ。申し訳ない。」気の毒なほど、恐縮する。「ああ、それで足元ふらついていたんだ。」「それで、やっと判りましたよ。やっぱり、昨日のは、まぐれですね。」「県代表に、勝てるわけないですって。」「従姉妹のこいつ真子っていうんですけど、一応預かってるんで何かあったら俺の責任というか・・・」...

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小説・若様と過ごした夏・25

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おばあちゃんの話は、あたしを驚愕させた。それを思いつかなかった、鈍感なあたし。「篠塚宗太郎正英は、双子だったのよ。」「どうやら、長い間子ができなかった、篠塚の領主は大層喜んだそうなんだけど、当時武士の社会では双子というのはお家騒動の火種になるとして歓迎されなかったのね。」そんな話は、どこかで聞いたことがあった。「ご重役は、「畜生腹」として生まれて間もない、篠塚家の嫡子をどうするか何日も相談したけど...

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小説・若様と過ごした夏・26

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「向坂(さきさか)が、謀反を起こして攻め入ったとき、余りに急だったので城代家老は兄上と母上を縁者に届けるのが精一杯だったのじゃ・・・」あたしより一こ上の宗ちゃんの顔をして、若様は大人びて語った。「座敷の格子の錠前は、決め事として城代家老にしか開けられなかった。父上や母上さえも、わたしに会うのは家臣に問うてからではなくては許されなかったから・・・。」「情が湧くのを怖れての事だと思う。まこと、兄上とわ...

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小説・若様と過ごした夏・27

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宗ちゃんは、ひどく咳き込んでいた。「・・・若様が離れた・・・」そういう宗ちゃんの顔は蒼白で、とても疲れて見えた。若様は、宗ちゃんに不意に憑いたり離れたり、どこか落ち着かない様子だった。きっと精神的に(霊にもそれがあるなら)不安定になっているのだと思う。「宗ちゃん、あたしお蒲団敷いてくる。ちょっと横になった方がいいよ。」「顔、真っ白だよ。」行きかけたあたしの手を、宗ちゃんが掴んだ。「待って、真子。・...

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小説・若様と過ごした夏・28

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「は、母上・・・兄上・・・」あたしの胸で泣きじゃくるのは宗ちゃんなのか、若様なのか・・・もう、どっちでもいいと思った。あたしは若様をぎゅうっと抱きしめて、一緒に泣いた。今、あたしの見た(あたしに見せた?)落城の風景は、きっと若様が見たこの世での最後の場面だと思う。佳奈叔母さんとママが、お寺で聞いて帰った話も、きっとこれだった。宗ちゃんの強い霊媒体質が、あたしにそれを霊視させた。そのご家老様という人...

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小説・若様と過ごした夏・29

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気合を入れて、あたしは青石の前に立った。手を触れると、目には見えない何かがまといつく気がする・・・「あなたは、誰ですか?」おばあちゃんはすぐ横で般若心経を唱えてくれていたけど、あたしの鼓動は隣に伝わりそうなくらい、大きく打っていたと思う。「我が名は、芳。お芳と呼ばれておる。」おばあちゃんに、お芳さん・・・とささやくとかぶりを振った。どうやら奥方様の名前ではないらしい。残念だけど。「そなた、影様をど...

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