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Category: 禎克くんの恋人  1/4

さだかつくんの恋人 1

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幼稚園の頃の禎克は一つ上の姉に泣かされて、いつもぴいぴい泣いていた。その頃の記憶の中で輝いているのは、今も心に残る鮮烈な一つの出会いだけだった。***禎克には一つ年上の活発な姉がいて、毎日同じ幼稚園に通っていたのだが、いつも朝一で禎克の青いスモックは奪われて、残された女の子用の桃色スモックを着るしかなかった。日々禎克は、べそをかいた。「おねえちゃ~ん。ぼくのスモック返してよ~。男の子はみんな青いス...

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さだかつくんの恋人 2

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その日のひよこ組は、どこか浮き立っていた。時期外れの転入生が来るのだという。女の子たちは、かっこいい子だと良いね~、でも、湊くんよりかっこいい子なんていないよね~と話をし、男の子たちはサッカーチームに入ってくれるといいなと待ちわびていた。奇数だとパス練習をするのにも一人余る。チームにとってメンバーが少ないのは、切実な問題だった。「先生。女の子が来るの?男の子が来るの?」「はい。静かにしてね。発表し...

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さだかつくんの恋人 3

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「湊くん!大変、ひよこ組でさあちゃんが、新人に襲われてる~!」隣のクラスがにぎやかなので覗きに行った子が、湊にご注進してきた。「は?どゆこと?」「さあちゃんが、転入生にぱんつ取られて泣いてるって。」「また女の子と間違えらて、証拠見せろとか言われたんだな。仕様ないな~。」こまどり幼稚園を仕切るみんなの湊くんが、可愛い弟の為に腰を上げて、年中さんのひよこ組にやってきた。転入生が来るたびに、こういう事に...

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さだかつくんの恋人 4

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川俣先生が背後から抱き上げ、懐にぎゅっと抱きしめてくれなかったら、禎克はそのまま自分を止められず、ずっと大二郎を殴りつけていたかもしれなかった。禎克が離れたとき、粘土板で思い切り叩かれた大二郎の顔は、既に何か所も青紫になって腫れ、唇の端は切れていた。和風のきりりとした顔が台無しだった。「おとなしい禎克くんが、こんなに怒るなんて……。あなたたち、一体何をしたの?」「えっ……と~。ぱんつ脱がせちゃった。」...

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さだかつくんの恋人 5

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こまどり幼稚園でのそんな事件は、それだけでは終わらなかった。その夜、大二郎の父親が川俣先生に話を聞き、菓子折りを持って自宅に謝りに来た。禎克の母はかかってきた電話に丁重に断りを入れたのだが、気が済まないので謝罪にお伺いします、と向こうは食い下がった。住宅街の禎克の家に長いリムジンに乗って現れた、その人物のインパクトはかなりのものだった。「夜分に恐れ入ります。本日二回公演だったものですから、お伺いす...

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さだかつくんの恋人 6

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子を持つ親同士の気安さからか、初対面だと言うのに、意外に話は弾んだ。柏木醍醐は柔らかな笑みを浮かべて、勧められるまま盃を重ねた。「柏木さん。お聞きしてもいいですか?」両親は、やはりどこか雰囲気の違う柏木醍醐に、興味津々だった。「はい。なんなりとお聞きください。」「あの、柏木さんって、ずいぶんお若く見えますけど、おいくつなんですか?」「はい。現在21歳になります。大二郎はわたくしが17歳の時にできた...

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さだかつくんの恋人 7

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「やあ、こんばんは。君が禎克君かい?なるほどなぁ……、これは大二郎がよろめく美人さんだ。あの子は、あれで中々の面食いだからね。」「よろめ……?」禎克の持っているボキャブラリーの中に、それらの単語はなかった。「あの……あのね、大二郎くんは来なかったの?」「ああ、今日は二回公演だったのでね、本当は一緒に行くってぎりぎりまで頑張ってたんだけど、疲れて眠ってしまったんだよ。大二郎には踊りのお仕事があってね、お花...

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さだかつくんの恋人 8

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思いがけず長居をしてしまいましたと言って、柏木醍醐は腰を上げた。「もしよろしかったら、これから一ヶ月公演しますので、ご家族様でいつでもホテルの劇場へお運びください。お席を準備しておきます。」「ありがとうございます。是非、お伺いします。」「これに懲りないで、お二人とも大二郎と遊んでやって下さいね。しばらくは、こまどり幼稚園に御厄介になりますから。」「はい。」「楽しいお時間を頂戴しました。では、これに...

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さだかつくんの恋人 9

「だ、大二郎くん。きのう……、お仕事があったんじゃないの?」「ん?さあちゃんは、舞台の事知ってるの?」「うん。大二郎くんのお父さんに、聞いたもん……。」大二郎はにこにこと笑った。「昨日は舞台をお休みすることになって、お師匠さんに思い切り怒られちゃった。役者が自分の不手際で勝手に舞台に穴をあける位なら、死んでしまえだって。仕事にはすごく厳しいんだ、お師匠さん。」「お師匠さん……って何?」「三代目、柏木醍醐...

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さだかつくんの恋人 10

やがて、事態はあっさりと好転する。ある日曜日の朝早く、母はおめかしをして子供たちを呼んだ。「さあちゃん、湊ちゃん。今日はお出かけするのよ。支度してね。」「なぁに?どこ行くの?」何処か華やいだ母の様子に、お出かけなんだと二人もわくわくと浮き立つ。「お買いもの?デパートに行くの?」「おばあちゃんちに、お中元?」「ううん。お芝居観に行くのよ。この前頂いた柏木醍醐一座の招待券使わないともったいないでしょう...

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さだかつくんの恋人 11

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「御来場の皆様。柏木醍醐でございます。本日は、劇団醍醐一座公演にお運びいただきまして、誠にありがとうございます。これからの一時、どうぞこの世の夢とお思いになって、ごゆっくりお楽しみください。」場内アナウンスが終わると、期せず割れんばかりの万雷の拍手が沸き起こった。大量のスモークが舞台の両端から客席に溢れだし、夢想の舞台が始まった。紅柄格子の背景に、雪洞が揺れる。極彩色の打掛の裾を引く、艶やかな花魁...

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さだかつくんの恋人 12

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「ほら。さあちゃん、花魁になってた大二郎くんのお父さんもお元気でしょ?さっき、格好良くお歌を歌って、踊ってたのも見たでしょ?」「うん……。」禿の扮装のままオレンジジュースを飲んでいた大二郎が、禎克に気が付いた。大急ぎでぱたぱたと、長い袖を振ってやって来る。「さあちゃんっ……来てくれたの?うれしいっ!」舞台ではずいぶん頼りなく小さく見えた大二郎が、傍によると、いつも通り自分よりも頭一つ分大きかったのでち...

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さだかつくんの恋人13

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湊は、大げさに肩をすくめた。「良かった~。さあちゃんたら、やっと大二郎くんと仲直り出来たみたい。」「え?まだ、仲直り出来てなかったの?そんな風に見えなかったけど。手をつないで行ったわよ。ほら……大二郎くんがお振袖だから、小さな恋人同士みたい~、可愛い。」「お母さんて、呑気すぎ。さあちゃんなんて、思ってることを中々外に出せない特別ややこしいタイプだよ。湊、喧嘩したままお別れになったら、どうしようって本...

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さだかつくんの恋人 14

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母も帰り道、何度も大二郎が次の興行地へ向かうことを伝えようとしたが、できなかった。家に帰ってきても、紅潮した頬で、父にどれほど大二郎が上手に踊ったか、醍醐と揃って踊った人形振りが本物の人形のようだったか、一生懸命語っていた。禎克が湊とお風呂に行った隙に、母は切り出した。「困ったわ~、わたし、大二郎くんが行ってしまうこと、さあちゃんにとうとう言えなかったの。」「そうか、それは困ったね。言わないわけに...

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さだかつくんの恋人 15

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幼稚園に着くと、禎克は朝一番に競争率の高いレゴブロックの消防自動車のパーツを見つけ、握り締めると、小さくやった~とガッツポーズをした。それからすぐに、多くの園児がやって来る門の所まで大二郎を迎えに行ったが、なかなかやってこない。待てども待てども、どういうわけか大二郎はこまどり幼稚園に来なかった。「おそいな~」禎克は門扉にもたれて、じっと長いこと遠くを見つめて大二郎を待っていた。「もうすぐ朝のごあい...

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さだかつくんの恋人 16

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川俣先生は、すぐさま教員室に駆け込んだ。「大変ですっ!禎克くんがどこかへ行ってしまいました。園を出て行ってしまって……。」「どういうことかしら?あのおとなしいさあちゃんが、そんな大胆なことするなんて。何かあったの、川俣先生?」「あの、実は……。」川俣先生は、園長にあらましを説明し、すぐさま禎克の家に連絡を入れた。「金剛さんですか?禎克くんが園を抜け出してしまいました。きっと大二郎くんに会いに行ったんだ...

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だいじろうくんの事情 1

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さあちゃんこと金剛禎克(こんごうさだかつ)は、その夜から熱を出した。大好きな大二郎がいなくなった哀しみと空しさがごちゃごちゃになって、小さな身体には受けとめきれなかった。熱にうなされ、時折り「大二郎くん……」と求めるのが、なかなか素直になれなかった禎克の本心だったかもしれない。大二郎くんと呼びかければ、夢の中で紅いお振袖を着た禿も、頬を濡らして「さあちゃ~ん」と泣いた。悲しくて悲しくて、たまらなかっ...

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だいじろうくんの事情 2

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「羽鳥、忘れるなよ。大二郎の母親が亡くなって、生きながら死んでいたようなおれが、ここまで何とかやってこれたのは、お前が諦めずに毎日励ましてくれたからだ。柏木醍醐の相手役は、お前以外に務まらない。お前じゃなきゃ駄目だ。」醍醐はぽんと、持ってもいない長煙管を煙草盆に打ち付けるような仕草をした。見えない花魁のまな板帯をぐいと持ち上げ、台詞を続ける。「わっちは、腹を決めんした……。この命の尽きるまで、どこま...

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だいじろうくんの事情 3

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救急車で運ばれた母親は、医師が思わず息をのんだほど、ひどい状態だった。浮腫が酷く足がぱんぱんに腫れていたのを、緩いジャージで隠していたようだ。救急病院の当番産科医は顔をしかめ、母体の安全は保障しかねます、直ぐに、お身内を呼んでくださいと告げた。「こんなになるまで、ほおっておくなんて……。一体、ご家族はどうしていたんです?」羽鳥は言葉を無くし、横たわる醍醐の妻に縋った。毎月、興行する場所が変わる暮らし...

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だいじろうくんの事情 4

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羽鳥は、そんな命がけの思いには叶わないと思ったが、託された思いに応えるように必死に一座を盛り立てた。子育てなど関わったこともなかったが、夜中に起きてミルクを作り、周囲の力も借りて懸命に大二郎を育てた。最愛の妻を失って、落ち込む醍醐を叱咤し、決して舞台に穴をあけさせなかった。だからこそ劇団醍醐は持ちこたえたし、今があると醍醐自身も思っている。いつも影のように寄り添って、羽鳥はずっと傍に居た。****...

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だいじろうくんの事情 5

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「大二郎。」緞帳の向こうから声を掛けられて、振り返る。「ちょいと外へ出るぞ。散歩に行こう。」「はい。」派手なロゴが入った外国製のジャージを着た醍醐が、息子を誘った。「ちゃんと回れるように、おさらいしたか?」「はい。もうできます。」「泣いたのか?涙の跡が付いてるぞ。」「あ……。」ごしごしと目許をこすって、大二郎はゴミが入ったからと言い訳をした。醍醐は父親らしい優しい目を向けた。「同じ嘘を言うのなら、も...

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だいじろうくん

上手に踊れなかったので、一人練習している大二郎くん。涙がぽろり……。こっそり、ⓒくるみさんからのいただきものです。かわゆす……(*ノ▽ノ)キャ~ッにほんブログ村...

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だいじろうくんの事情 6

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日々の暮らしの中で、一度口にした台詞は、体の中に似染み込むように、大二郎の物になっている。打てば響くようにすぐに台詞が出てくるのが、天才子役と言われる所以だった。滑り台の狭い台の上で、大二郎は母を恋う「番場の忠太郎」になった。やっと探し続けた母親につれなくされて、身をふり絞る場面だ。「おっ母さん。いや、お浜さん。……どうしてもおいらを、倅(せがれ)の忠太郎とは呼んで下さらないんですかい。」醍醐が答え...

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だいじろうくんの事情 7

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禎克と別れた後、こんな風に大二郎は、旅から旅の舞台三昧で忙しく日々を暮らしていた。毎日の演目に追われ、覚えることはいっぱいあった。本格的な日舞の稽古、殺陣の練習も小学校に上がる前の年から始まった。時おり、遠くのさあちゃんを思い出すことはあっても、仕事に支障をきたすような我ままは言わない。周囲を困らせても仕方のないことだと、大二郎は十分に理解していた。働かない者は、おまんまを食えない。そんな暗黙のル...

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だいじろうくんの事情 8

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ある日、子役を探していたテレビ局のプロデューサーが、大二郎の噂を聞いて公演先に足を運んだ。年末大型時代劇に出演する子役を捜していたと言うその人は、その日の演目を見て迷わず大二郎に白羽の矢を立てた。板の上では小さな大二郎が、三度笠に合羽姿で、いなせな渡世人、番場の忠太郎となり多くのご婦人を涙に誘っていた。舞台がはねた後、大二郎を傍に呼びつけた醍醐が、満面の笑みを向けた。「大二郎!テレビに出られるぞ。...

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禎克君の恋人 1

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金剛禎克、柏木大二郎、離れ離れになったまま、共に16歳になっていた。偶然の再会なんてものは、ドラマの中だけだと思っていた。******どこにでもあるような、繰り返される朝の風景だった。「ほら、さあちゃん。急がないと、合宿に遅れちゃうわよ。」「うん。大丈夫~。」「寝癖付いてるわよ。」「こういう髪型なんだよ。」さあちゃんこと金剛禎克は、高校生になっている。ずいぶんと、身長が伸びた。小学校5年生からスポ...

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禎克君の恋人 2

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自転車で風を切る。通いなれた道の反対側の坂の上には、温泉施設付きのホテルがある。周囲はもう忘れていると思っているようだが、幼稚園の頃の出来事を、禎克は薄く覚えていた。勿論、余りにちびだったので、詳しいことは忘れてしまったが、当時貰った卓上カレンダーと、その時に仲良しだった(らしい)友人と、並んで写した色の変わったポラロイド写真を大切に持っていた。今、どうしているんだろうかとか、どこにいるのだろうかと...

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禎克君の恋人 3

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上谷に声を掛けられたのは、三月前の、入学式後のことだった。「よお、来たな。金剛は、てっきり城聖高校に行くんだとばかり思ってたよ。この辺だと、あそことうちがいい勝負だからな。」「あの……?」「あ。ごめん、バスケット部二年の上谷彩(かみやひかる)だ。監督に金剛が入るって聞いて、すっげぇ楽しみで、待ってたんだ。」「ありがとうございます。見学したとき、ここがチームワーク良いと思ったんで……。」「まあ、部員が少...

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禎克君の恋人 4

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高校の練習は思っていたよりはるかにハードだった。インターハイへ向けて、暑さ対策を考えた練習は死ぬほどきつかった。体育館を締めきって蒸しぶろ状態にし、身体を虐めぬく。夏の試合は、半分は体力勝負と言ってもいいくらいだ。「おらっ!のんびりインターバル挟んでいる場合じゃないぞ。そのまま行くぞ。死ぬほど走って足腰鍛えておくんだ。熱中症にならないように、水分だけは取っておけよ。」「はい!」覚悟はしていたが、長...

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禎克君の恋人 5

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初日は散々だったが、それでもやがて禎克は、激しい練習に次第に慣れはじめた。合宿も終盤の頃には、試合形式の紅白戦でも、少しずつ思い通りのパスが出せるようになっていた。二人がかりでガードされながら、相手の隙をつきバックステップを入れてフリーになり、ついにパスを通した。「先輩!」「よっしゃ!ナイスパス!」綺麗な放物線を描いて、禎克のパスを受けた上谷の3Pが決まった。「ナイシュー!」紅白戦相手の先輩から、...

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