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Category: 流れる雲の果て……  1/1

流れる雲の果て……1

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大衆演劇一座「劇団醍醐」は、座長の柏木醍醐が、国営放送の大河ドラマに出演して以来、日々、満員御礼が続いている。民放の出演や週刊誌の対談なども舞い込み、人気者となった柏木醍醐は多忙を極めていた。その為、座長が留守の間の地方公演は、中学生になったばかりの大二郎が中心になって務めるようになった。幼少時から毎日、柏木大二郎は休むことなく舞台の上で踊ってきたが、近ごろは「流し目若さま」と二つ名を持つ父親の姿...

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流れる雲の果て……2

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留守の間も舞台に足を運んでくれるお客さまの為に、帰ったばかりの醍醐も急いでこしらえをして、お見送りの列に加わった。「きゃあ。本物の柏木醍醐~~。」「大ちゃんのパパ、素敵。」大二郎のファンも、思いがけず近くで柏木醍醐に逢えて喜んでいた。妙齢のご婦人方が少女のように頬を染めて、醍醐と握手するために並んでいる姿は、どこか微笑ましく可愛い。「やっぱり、お師匠さんはすごいな。お客さまの顔が、おれの時と違う。...

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流れる雲の果て……3

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慌ただしく、楽屋にありあわせの布団が持ち込まれた。「お師匠さん、ねぇ、お医者さまを呼ばなくてもいいかな。」「意識はあるから、様子を見よう。」「すみ……ません。少し休めば、大丈夫ですから……。帰って薬を飲めば落ち着きます。ご迷惑をお掛けして、申し訳ないです……。」「いいから、寝てなって。」青年は、しばらく横になって休んだ後、やがて、もう大丈夫だからと丁寧に言って頭を下げ劇団を後にした。白蝋のように青ざめた...

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流れる雲の果て……4

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「お兄さん。美千緒さんって呼んでいい?」「いいよ、何とでも。」「あのね、相談してもいいかな?」「なんだろう?」「……おれ、学校の勉強できないんだ。」「うん?勉強?」尾関は訝しげな顔を向ける。唐突に何を話し始めたのだろうとでも思っている風だ。「美千緒さん。思い切って言うんだけど……、おれの家庭教師してくれない?あの、空いた時間に、夜遅くとかに少しだけでもいいんだけど。」「仕事は最近辞めたんだ。だから、時...

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流れる雲の果て……5

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ある日、学校からものすごい勢いで走って来た大二郎は、劇団の中を走り回って美千緒を探した。「ねぇ、美千緒さんは?」「昼前から、アパートに帰ってるんじゃないか?今日は、まだ見てないぞ。」「そう。ありがとう!」「どうしたんだ。何かえらく急いでるんだな。今日は夜公演だけだから、夕方になったら来るだろう?」「数学のテストが返って来たんだよ。美千緒さんに早く見せたいの!」「出来が良かったのか?」「70点だった...

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流れる雲の果て……6

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大二郎は、ふと美千緒の持った携帯に目を留めた。「だれかと電話してたの?」「目ざといね。う……ん、再婚した母親からだった。」「美千緒さんのこと、心配してた?」「そんな人じゃない。それに、もう連絡しないでくれって言ったから、いいんだよ。」「お母さんにそんなことを……?」「一緒に暮す人が居るから、いいんだ。」じっと見つめる大二郎から、視線をそらすようにして美千緒は話を逸らした。話したがらないことは、詮索しな...

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流れる雲の果て……7

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大二郎は泣いた。泣きながら乱暴に、美千緒のシャツを裂いた。「あっ。だ、大ちゃんっ。待って。」「やだっ。おれは美千緒さんが好きなのに、美千緒さんはおれの前から消える事しか考えてない。美千緒さんがおれから離れるって言うのなら、絶対離れられないようにする。おれ、美千緒さんの恋人になる。絶対、忘れられないようにする。美千緒さんを苦しめる人を、心の中から追い出すっ。」一途な大二郎の思いは激しく、とうに忘れた...

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流れる雲の果て……8

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BL的表現の行為の描写があります。閲覧にご注意ください。滑らかな大二郎の白い双球が、入って来る西日に染まる。張りのある肌を、ゆっくりと美千緒の手のひらがなぶってゆく。「大ちゃん……、女の子みたいな可愛い顔なのに、ちゃんと徴(しるし)が勃ちあがってる。何か、淫らだねぇ……。何も知らない子に、こんなことして、ごめんね。」「あ、あやまっちゃ、やだ~……。」対等で居たいと大二郎は訴えたかったが、言葉にはできなかっ...

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流れる雲の果て……9

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労わる言葉も忘れ、大二郎は美千緒に夢中になっていた。静かに伏せる耳元に、囁く。「美千緒さん、ねぇ……もう一回挿れてもいい?」「う……。」無理をさせてしまったと、大二郎が気が付いたのは、動けなくなった美千緒が白い横顔を向けた時だった。「……ごめんね。無理みた……い。ちょっと休ませて、聡(さとし)……。」口にしてしまった名前に、驚いたのは大二郎よりもむしろ美千緒の方だった。「あ……、大ちゃん、ごめん。」「誰?」「...

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劇団醍醐一座のポスター描きました

本当は連載前にトップページとしてあげるつもりでした。間に合わなかったのですけど。(´・ω・`) 近松文楽の心中ものの演目「冥途の飛脚」に扮した二人です。飛脚屋の養子、忠兵衛が柏木醍醐、身請けした女郎梅川が、大二郎です。歌舞伎や宝塚でも、度々演じられている人気の演目です。この絵のポーズは宝塚のポスターを参考にしました。今後の話の進行上、二人のビジュアルが出てきますので、ここで挿絵が一枚あったほうが良いと...

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流れる雲の果て……10

残された美千緒は、後ろ手に閉じられた薄い扉を、じっと見つめていた。振り向かないで去った大二郎が、どんな顔をしているかわかるような気がした。「大ちゃん……ごめん。ごめんね。」呆然と座り込んだ美千緒の頬を、静かに涙が伝う。こんな時に未練がましく、もう忘れたと思っていたかつての恋人の名前を口にするなんて……。のろのろと、美千緒も衣類を拾って身に着けた。「ぼくには、人を愛する資格なんて、なかった。大ちゃんがあ...

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流れる雲の果て……11

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拍手は鳴りやまなかった。醍醐は大二郎の演じた梅川を見て何かあったに違いないと踏んだが、良い方に回っているのなら大二郎のすることに口を出す気はなかった。「うっ……うっ。」大二郎は役にシンクロし過ぎて、幕が下りた後、涙が止まらなくなっている。「お師匠さん。何で二人は生きようと思わなかったのかな……。」「そうだなぁ。時代が違うと言えばそれまでだろうが、恋を全うするのに他に方法がなかったんだろうなぁ。お前は、...

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流れる雲の果て……12

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醍醐もまた、父親の顔になっていた。「本気で恋をしろよ、大二郎。情や艶ってのは、経験を重ねて育つもんだ。手練手管は習うよりも慣れろって言うしな。まぁ、大概の色事は、年上の相手と枕数をこなしゃ……」「醍醐さんっ!大二郎はまだ中学生ですよ。」傍で話を聞いて居た羽鳥が話がそれかけたのに気付いて、思わず声を掛けた。羽鳥の目が怒っているのを見て、醍醐は慌てた。「いや……え~と、まあ、そういうことだ。しっかりやんな...

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流れる雲の果て……13

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月明りの下を、二人は手をつなぎ並んで歩いた。「明日はお休みだから、ゆっくりできるね。大ちゃん。」「うん。やっとお休みが貰えるよ。梅川は膝を曲げっぱなしだから、おれ、あちこち筋肉痛なんだ。」「そうか。お客さんに綺麗に見せる格好って、結構きついものね。」「身体はお師匠さんにくっつけて、顔はお客さまの方に向ける箇所多いからね。テレビとかに出始めて、お師匠さんの演出、前よりもきつくなったから大変。殆どアク...

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流れる雲の果て……14

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BL的性行為の描写があります。閲覧にご注意ください。部屋に入ると美千緒がすぐに抱きしめて来た。そのまま、すぽんとシャツを脱がされてしまう。美千緒の性急さに、どこか意外な気がして、大二郎は慌てた。「み、美千緒さん……?どうしたの?」「舞台を見てたら、綺麗な梅川に欲情しちゃったんだよ……」「あ……っ。」誘うように濡れた瞳が、これまで見たことの無いほど扇情的だった。激しく打つ鼓動が、美千緒に聞こえる気がする。深...

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流れる雲の果て……15

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BL的性行為の描写があります。閲覧にご注意ください。このまま弾けてしまうのは嫌だったが、思い通りに制御できない。寄せ来る放出の誘惑に他愛もなく陥落した。「だ……めっ、ああっ、あっ……」震える腰が数度固く痙攣したようになって、大二郎は美千緒の口中に吐精した。ごく……と嚥下して微笑む美千緒を、大二郎は精一杯抱きしめて身体の下に引き込んだ。「どうしよう、美千緒さん……。美千緒さんがすっごくやらしい顔するから、おれ...

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流れる雲の果て……16

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薄く目を開ければ、何度か腰を打ち付けた大二郎の、のけぞった喉元が汗で白く光るのが見える。何て、可愛いんだろう……と美千緒はぼんやりと考えていた。覚えのある質量が、やがてぐんとかさを増して、そこがいっぱいになる。「あ……あ……、大ちゃん……」動きを合わせてやろうと思ったが、身体が思うように動かなかった。ふと、脳裡に医師の冷ややかな声が横切った。「いいですか?この際、はっきりと言いますが、身体に負担のかかる性...

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流れる雲の果て……17

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くすん……と、背後で洟をすする音が聞こえた。「美千緒さん。痩せてるね。」「そうだね。昔から食べても太らない性質なんだよ。貧相で嫌なんだけど、仕方ないね。」美千緒は、結局大二郎に後始末を任せて、そのまま布団に包まった。「大ちゃんは、もう劇団に戻った方が良いよ。遅くなったら明日の打ち合わせに間に合わなくなるだろう?」「でも……美千緒さんが心配だもの。」「今日は、ぼくはここでこのまま眠るから、明日又会おうね...

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流れる雲の果て……18

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美千緒が毎日、劇団醍醐の芝居を見に来た理由は、きっとこの男の持つ切れ長のくっきりとした目許にあるのだろう。「あの……もしよかったら、美千緒さんの話をおれも聞きたいから、劇団の方に来ませんか?美千緒さんは何も話してくれないから……おれ、何も知らなくて。それに、明日の朝、いつも通りご飯食べに来ると約束したし。」「あいつはちゃんと飯を食ってるのか……。そうか、良かった。」男は腰を曲げて両膝に手をつき、大きく息...

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流れる雲の果て……19

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尾関美千緒と松井聡は、大学時代の同級生だった。学部は違ったが、ゼミで出会った当初から不思議と話が合った。ある日、明治大正の頃の建物に興味があるんだと、打ち明けた美千緒に運命を感じた聡だった。友人は多かったが、ここまでウマの合う相手は初めてだった。静かな声で話す美千緒は、線が細くとも女性的なわけではなかったが、同期生の中でも端整な容貌で目立っていた。もっとも本人にはそんな自覚はなく、本当かどうかわか...

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流れる雲の果て……20

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幸せな大学時代を過ごした後、二人は別々の仕事に就いた。聡は外資系の会社に。美千緒はゼミの教授の紹介で、学芸員の職を得た。「一緒に住まないか?」言い出したのは聡だった。「離れていても、美千緒の事ばかり考えてしまうんだ。正直に言うと、傍に居ないと不安でたまらない。自分でもこれほど独占欲が強かったのかと、驚いているくらいなんだ。」「ぼくを好き……?本気でそう言ってるの?ぼくは、君の子供なんて産めないよ?」...

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流れる雲の果て……21

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静かに聞いて居た醍醐が、話の腰を折った。「本当のところは、どうだったんです?」「そんなことで、松井さんは先生の手を放しちまったんですか?そういうお人には見えませんが……。」「おれの気持ちは、美千緒と出会った時から変わりません。むしろ美千緒の抱えていることを聞いても、どんどんあいつが愛おしくなるばかりで、離れたいとか一度も考えたことはありませんでした。」「そうですか。安心しました。」「じゃあ、なんで美...

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流れる雲の果て……22

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「でも……」と、松井聡はうなだれた。「それからしばらくして、美千緒の具合が悪くなりました。先ほどお話した通り、二人で闘病してゆこうと相談して決めました。おれも働いていますし、美千緒が職場で入った保険もありましたから金銭面で困ったことはありません。」「ただ、おれのいないときに美千緒に、疎遠になっていた母親から電話があったみたいです。」「それは、金の無心ですか?」松井は驚いたようだったが、世間をわかって...

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流れる雲の果て……23

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かたかた……と階段を昇る音がするのに気付く。「聡……?」……のはずはない。あれほど愛してくれた恋人を裏切って、何も言わずに捨てて来たのは自分だった。具合の悪くなった時も、ずっと傍で励ましてくれた優しいかけがえのない恋人を、棄てた。自分の甘さに気付いて薄く笑ってしまう。「あぁ、大ちゃん……どうしたの?」 「美千緒さんはおれに言ったよ。言わなきゃわかんないよ……って。おれにしてほしいことを言葉にしろって言った。...

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流れる雲の果て……24

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顔を上げた美千緒は、はじめて見る穏やかな表情をしていた。その顔に、もう愁いは無い。「また明日ね、大ちゃん。」「明日の朝ごはん、おみおつけの実は、美千緒さんの好きなわかめと油揚げと豆腐だよ。二人で一緒に来て。みんなで待ってるから。」「ありがとう。楽しみにしてる。」美千緒は、語る大二郎の背後に視線を向けた。するりと身をひるがえし、大二郎は松井と入れ替わった。大衆演劇の演目の最後は、いつも大団円と決まっ...

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流れる雲の果て……25 【最終話】

次の日二人は、約束通り朝食の時間に現れた。大勢で食べる食事も、これで最後だと皆わかっていたが、誰も何も言わない。慌ただしくも和やかな風景だった。「大ちゃん。早くしないと学校遅れるよ。ほら、小学生達はもう出発したよ。」朝に弱い大二郎は汁椀を持ったまま、白河夜船でこっくりこっくりと舟をこいでいる。「大ちゃん。夕べも遅かったの?」「う……ん。帰ってから、一時間くらい要返しの練習した……から。」「頑張ってるね...

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