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Category: 凍える月「オンナノコニナリタイ」  1/4

小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・作品概要

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<作品概要>炎の中に全てを失った男は、辿りついた町で幼い少年海広(みひろ)と出会い共に暮らすことになる。落ち着いた暮らしを手に入れたかのように見えたが、少年の心はいびつだった。凍える月・(オンナノコニナリタイ)この作品は、性同一性障害を扱っております。一部BL表現と性表現があります。自分らしく生きようとする主人公を取り巻く環境の表現等が、外せない必要箇所ではありますが一部公序良俗に反し、一般的ではな...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・1

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最愛の妻と息子の面影を、思い浮かべぬ日はない。あの冬の日から、俺の時間は止まったままだ。あの日、見上げた目に映ったのは、俺の全てを奪い焼き尽くす、天を突く紅蓮の焔だった。にほんブログ村にほんブログ村...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・2

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身体の不自由な俺の母親を引き取って以来、妻はパートの仕事を止め、一切の介護を買って出た。長男夫婦から聞かされる、毎日の愚痴にいささか参っていた俺は、まるで渡りに船とばかりに妻の好意に甘え、世話を押し付けてしまった。年を経て住居を移したにも関わらず、少し痴呆の始まった母親は、幼い子どものように妻になついた。お袋は言った。「この家に来て、幸せだねぇ。みんな、優しいねぇ。」目尻に浮かぶ涙を見たとき、引き...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・3

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暖簾をくぐって、親父に「ご馳走さん」と声をかけ、ふと見上げた東の空が、赤く染まっているのに気付く。何台もの消防車と救急車とパトカーが、忙しなく赤色灯を回転させながら横を駆け抜けて行く。その時、俺は何となく胸騒ぎがしたのだ。携帯で妻に電話をかけたが、呼び出し音が尽きても、彼女は出なかった。やじうまでごった返す歩道を避け、俺は車道を走った。火の上がった方向には、新築したばかりの自宅があった。燃え盛る火...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・4

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気が付いたのは、総合病院の寝台の上だった。喉に包帯が巻かれ、声は出ない。頭と喉が酷く痛んだ。上げた手にも、白い包帯が巻かれていた。「松原さん、気が付きましたか?」遠くで看護師の声がする。「すぐに先生をお呼びしますから・・・」同情と哀れみ。憐憫の表情に、俺は失ったものの重さを知った。全てが俺を残して、手の届かぬ場所へ行ってしまったのだ。同じ病院の遺体安置所で、俺は最愛の家族に別れを告げた。御遺体は、...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・5

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覚えているのは、止める手を振り切って、玄関に辿り着き、扉に手をかけたところまでだ。一気に酸素が入り込み、密閉された空間はバックドラフトを起こし爆発した。爆風を吸い込み、一瞬で気管と上半身の出ている所を焼いた。そのまま車道まで飛ばされて、アスファルトで頭を打ち気を失ったらしい。「しばらく入院していただきます。」遠くで医師の声がする。「右側のこめかみから後頭部にかけての火傷は、お気の毒ですが痕になるで...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・6

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目に付いた駅前の不動産屋に入り、家を探してくれるように頼んだ。 「しばらく、この町で暮らそうと思ってね。」 不動産屋は、火傷の癒えていないこめかみの大きな絆創膏と頭部に目をやって胡散臭い目で、しばらく見つめていた。 仕方なく、自宅の土地を処分してもらうはずの不動産屋の名刺を出したら、ころりと態度が変わった。 どうやら系列の業者同士で、すぐに確認し、家賃滞納の心配などないと思ったらしい。 マンションを買...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・7

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まだ、まともな会話すら成立しない。幼い子ども相手に、意思の疎通を図るのはもう止めた。頭に包帯を巻いた、変なおじさんに声をかけられたと、誰かに言われるのもどうかと思う。開いたエレベーターに、乗り込もうとしたとき、入れ違いに降りた金髪の若い男が、子どもを捕まえた。ジャラジャラと、耳や、鼻や、唇にまでピアスをした、整ってはいるけれどどこか不潔な印象の青年。「こら、みぃ、抜け出すんじゃねぇって言ってるだろ...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・8

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迷子の迷子の、子猫ちゃんに繰り返して問うてみた。「あなたの、おうちはどこですか?」大きな黒い目が、悲しそうに光る。「みぃくんのおうち、どこかなぁ?」単語の羅列はおぼつかなくて、会話にすらならない。時間は有り余っているが、相手にするのは億劫だった。大体、何故勝手に人の家に上がりこんでいるんだ?その時、俺はやっと思い出した。あ、夕べうっかり鍵をかけずに寝てしまったせいだな・・・。迷子の子猫はベッドサイ...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・9

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小さな訪問客が帰った後、ふと時計を眺めれば既に昼前だった。どんなに空虚な心を抱えていようと、悲しみに溺れていようと腹は空く。生きている限りついて回る欲求は、驚くほど残酷だ。腹の空く自分を恥じた。真新しい位牌を三柱、取り出して、日の差すテーブルに並べた。「しばらくここで暮らすんだ。」誰に言うとも無く、告げた。「居心地は良くないかもしれないけど、しばらく辛抱してくれよ。」「さて。病院へ行ったら、飯でも食...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・10

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少し性的表現が入ります、苦手な方はご注意下さい。隣室から聞こえるのは、忙しなく人の出入りを感じさせる気配と物音。最低限の防音はされているようで、会話の類などは一切聞こえない。キィと何かが軋む音に気が付けば、わらわらとベランダに出たらしく数人の話し声がする。薄い防火扉一枚で仕切られたベランダで、男達の声がする。「ここでいいか?」「そう。後から抱えて、こっちに広げて。」「ちゃんと当てろよ。陰ができない...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・11

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性的表現ありです。一応18禁でお願いします。男が借金をする。AVによくある陳腐な設定だ。膨らんだ借金の利子を、身体で払えと数人の高利貸しが詰め寄っていた。男達は、初めから豊満な妻の身体が目当てだった。妻は泣く泣くゆっくりと服を脱ぐ。豊かな乳房が、小さな手から零れ落ち、巧みな言葉攻めに諦めと恐怖に包まれてゆく。夫は固く縛められて、愛する妻の側に転がされている。夫の目の前で陵辱される妻が、あなた許してと言...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・12

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俺は半信半疑で話を聞いた。 「あいつの泣き顔は、ぞくぞくするほど可愛いだろう?」 「写真を撮っていると、加虐性が疼くっていうか、もっと泣かせてやりたくなるから困るんだよなぁ。」 「でも、俺は他のやつにも写真を撮るだけしかさせてないから、安心して。」 安心・・・?小学校も上がっていないような子どもに、あんなことをさせて何を安心するんだ。 たぶん、向けた俺の視線は険しかったはずだ。 金髪は言い訳をした。 「中...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・13

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「それでいい。」 俺は、きっぱりと告げた。 「交渉成立だ。金は明日用意するから、一日だけ時間をくれ。」 「いいのか?三百万も、そんな簡単に出せるのか、おっさん。」 ・・・途端に、拍子抜けした。 「ちょっと待て。おい・・・三千万じゃないのか・・・?」 短い沈黙の後、だれかれとも無く笑い始めた。 「俺、三十万かと思ったんだけど。」 忍び笑いが響いた。 「貧乏人は、黙ってろ。」 「見かけによらず持ってるんだな、お...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・14

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腕を伸ばした、小さな温かい生き物をきゅと抱いて、俺はいつしか静かに泣いていた。 ぼろぼろと、いい年をしていつまでも涙が止まらなかった。熱い涙が、ぱたぱたとみいくんのうなじを転がって行った 。もう二度と手に入れることなど叶わないと思っていた、愛おしい温かい存在・・・ 懐の中の小さな顔が、不思議そうに俺を見上げた。 「みぃくんの、パパ?」 「・・・うん、そうだよ。」 「毎日、一緒にご飯食べような。」 パパにな...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・15

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いびつな親子関係が成立した翌日。俺は銀行に行くついでに、お袋を引き取って以来、疎遠になっていた長男夫婦を訪ね、深々と頭を下げた。「詫びが遅くなって、申し訳なかった。」「お袋のこと、なんと言っていいか・・・最後までちゃんと預かって面倒を見るといったのに、こんなことになって本当にすまなかった。」深々と頭を下げて謝る俺に、「どうか、お手を上げてください、周二さん。」と兄貴の嫁が言う。 「こちらこそ。本当...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・16

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「いや、いや。誤解しないでくれ、兄貴。その子と俺は、血がつながっているわけじゃないんだ。」俺は慌てて、みぃくんについて知っている情報を、言い訳がましいかなと思いながら並べてみた。「その子は、母親独りで育てていたんだが、今、母親はくも膜下で倒れて植物状態になっていてね。」「籍の入っていない恋人がいて、面倒を見ていたんだが、子どもを育てた経験の無い若い男でさ。」いつになく、饒舌に一気に報告した。「思い切...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・17

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「みぃくん。」「・・・パパ?」「ただいま、みぃくん。」出会ったときと同じように、素肌に大人のシャツをまとってくしゅっと洟をすすった。ずっと、ここで俺を待っていたのか?足元も、やっぱり裸足だった。「風邪引いちゃうぞ。ほら、おいで。」ふわりと掬って抱き上げて、懐かしい柔らかい子どもの匂いに酔った。「だっこ・・・?」「パパ。きゃあ。」細い腕が、頭の傷を避けて首にかき付いた。「金髪のおじさんは、お部屋かな...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・18

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「はい、カットー。」「里奈ちゃん、お疲れさま。休憩ね。」金髪が、女優にお絞りを渡した。「可愛い声で熱演だったね~、成瀬さん、疼いちゃったよ。」「や~ん、成瀬さんったら。」先ほどまでの、狂態が嘘のように見えるほど、女優は清々しい顔をしていた。「実は、彼女の方が圭さんよりも、芸歴長かったりするんすよ。」「ロリータからやってるから、結構長いよ、あたし。」うふふっと、こちらに笑顔を向けて、なまめかしく笑う。い...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・19

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少し性表現有りです、苦手な方はご注意下さい。俺は、何も分からず感情で怒鳴った自分に、赤面した。みぃくんが過ごす場所には、いつも女の乳房がそこにあった。みぃくんにとって、女の胸に触れるのは、眠る前に必要な儀式で、自然な仕草だったのかもしれない。いつも「えっちのお仕事」が終わらないと、みぃくんは金髪のおじさんにご飯が貰えなかった。おなかが空いても、みぃくんが「お仕事」をがんばらないと、ママの病院代が払え...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・20

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18禁です、苦手な方ご注意下さい。「今ならまだ、ちゃんと全部忘れられるよなぁ、みぃ・・・」その言葉は、まるで自分に言っているように聞こえた。そういいながら、本当は忘れないでいて欲しいとでも言うような、哀切の気配が漂っていた。互いをむさぼるような、深いキスを交わしていた二人が思い出されて、つきんと胸の奥が痛んだ。「父親になりそこねたのは、こっちの方っすよ。」「まじで可愛いからなぁ、こいつ。」「手放すタイ...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・21

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18禁です、苦手な方ご注意下さい。「裏の事情は、どこにでも転がってるんですよ。」「これも、立派なお金儲けの「お仕事」ですからね。」成瀬が少年を励ました。「さぁ、がんばろう。もう一回、うまいこと勃つかな?」「目を瞑って。先輩、キモチイイって、言って縋ってみて。」金髪が近寄って、手を伸ばして、少年の中心を緩く扱いた。ゆっくりと立ち上がる、男のしるし・・・「あっ・・・ん・・・せんぱ・・・きもちいい・・・」「せ...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・22

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「みぃく~ん。ほら、これ見てみな、格好いいよ。」「みぃくんは、こっち。」「パパは、これ好きだけどな。」「ん~?」俺が好きだと言うと、側に寄ってきた。「パパ、これ好き?」「うん、好き。だから、みぃくんのはいた所、見たいな。」みぃは黙って、子供用のブリーフに細い足を通した。後で聞いたら、当時のみぃは、相当無理して俺の期待に応えようとしていたらしい。「だってパパが、大好きだったから。」その時は何も、気付い...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・23

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「違うよ。」「そうじゃなくてさ、ちゃんとしたフルネームだよ。」「愁都は、松原愁都ですって、ちゃんとお利口に言えたけどなぁ。」「言えないの?」「同じ年なんだろ?愁都と。」「しゅうと?」子供達は、顔を見合わせたが嘘はつかなかった。「周二叔父さんの、火事で亡くなった子どもだよ。」「知らないの?愁都のこと。」問われて頷いたみぃくんに、知らない話は次々と出てきたらしい。そして、三人から質問攻めにあった。「みぃ...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・24

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「あのね、みぃくんは、サッカーとかしたことある?」「さっかぁ・・・?」どうやら、みぃが困ってしまったので助け舟を出した。「翔。みぃくんはね、お母さんが重い病気でね、サッカーも他の運動も出来なかったんだよ。」「ふぅん。みぃくん、苦労したんだ。」「今度、ゆっくり来た時に、教えてやってくれないか。」「いいよっ!ちょっと待ってて、みぃくん。」翔は、走って自分の部屋からボールを持って来た。「これ、みぃくんにあ...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・25

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「ぼくがその荷物持つからさ、叔父さん、みぃくんを抱くかおんぶする?」自転車を転がす洸を、みぃくんはじっと見つめていた。「それか、みぃくん。お兄ちゃんがおんぶしてやろうか?」みぃの目が輝き、俺を伺うように見る。年上の優しいお兄ちゃんに、みぃは興味深々だった。「よぉし。みぃ、お兄ちゃんにおんぶして貰え。」背中を向けた洸の上に、みぃをぽんと乗せるとうれしそうに声を立てて、みぃは笑った。「きゃあっ・・・」「...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・26

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「今すぐ、みぃを連れて中央南病院へ来てくれ。急変した。」「急変?」脳のでかい血管が切れて、人事不省になったまま二年以上も入院していた、みぃの母親の命が尽きようとしていた。俺は慌てた。「みぃくん。ママの病院へ行くよ。」目を開けずに夢の中で頷くみぃくんを、抱き上げそのままタクシーで飛ばしてきた。病院の玄関先で、見覚えのあるカメラマンの青年が待ちかねた様子で手を振った。「松原さん!こっち!」「間に合ってよ...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・27

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もう、手の施しようのないのは、誰の目にも明らかだった。両足は、紫色に変色している。「みぃくん。ママはね、もういっぱいがんばったから、痛いお注射はやめてあげようね。」ちらと、計器を見て医師は酸素マスクを外し、みぃの方にその小さな顔を向けてやった。「ママの顔、ちゃんと覚えておくんだよ。」ピーと空気を裂いて、ハートレイトが沢口祥子の心音停止を告げる。「・・・2時19分、ご臨終です。」極めて事務的に、脈を確認...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・28

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「なぁ、松原さん。今なら、まだ引き返せるけど、いいの?」火葬場で所在無さげにしていた俺に、喪服の成瀬が声をかけてきた。一夜の内に髪を染め替え、髭をそった成瀬は、こう見ると意外に作りの整ったいい男に見える。ジャラジャラつけていた、ピアスもみんな外し、まるで違った真面目な印象だった。「まだ、養子の件もそのままだし。」「なんなら、みぃは義務教育の間、施設に預けてもいいと思ってるんすよ、俺は。」仕事の合間に...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・29

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眠るように亡くなった母親に瓜二つの顔で、みぃくんは健気に涙を拭いた。元来、男の子は皆、母親に似るのだ。息子の愁都もそうだった。妻に似て、笑うと片側の頬にだけ、深い笑窪のできるところまで、そっくりだった。海広は、特に少女のようだった母親によく似ているような気がする。男の子にしては白すぎる肌も、茶色の柔らかく細い髪の毛も、男の子だと言うと周囲が驚くほど、繊細な顔の作りは女の子のようだった・・・葬儀のあ...

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