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Category: 風に哭く花  1/2

風に哭く花 【作品概要】

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更科翔月(さらしなかつき)と荏田青児(えだせいじ)は幼馴染だった。翔月は華奢で、体も弱くクラスでも微妙に浮いた存在だった。青児は隣りのクラスで、生徒会長、野球部のエースとして周囲からの人望も厚い。高校二年の春、赴任してきた柏木という教諭は、翔月の秘密を知っていた。翔月の秘密、それは決して気取られないように、秘めて来た同性の幼馴染に抱いた劣情。白衣を着た淫魔が翔月を襲う。二人の恋は成就するのか……**...

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風に哭く花 1

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内向的……更科翔月(さらしな かつき)を一言で表現するなら、この言葉が適切だろう。「おはよう係」という別名を持つ、登校してくる生徒たちへの声掛け係に推薦されて、翔月は断りきれなかった。小学生ならともかく高校生にもなって、朝の挨拶運動なんてかったるいにもほどがある。目立たないし、生徒会ともクラス役員とも縁がないのに、なんでぼく……?……と心の中で思っていても、翔月は嫌ですとはっきり口に出来なかった。「よっ...

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風に哭く花 2

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何故こんな風に、青児にそっけなく言ってしまうのか。理由は簡単だ。投げやりに見えるのは、もうとっくに諦めてしまっているからだ。誰かに期待するような子供っぽい感情は、とうに捨てたんだと、翔月は必死に自分に言い聞かせていた。なぜなら……翔月には、誰にも言えない秘密がある。それは青児だけでなく、決して誰にも打ち明けてはならない秘め事だ。口にはしないが青児は今も、翔月の事を何も知らない清らかな子供だと思ってい...

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風に哭く花 3

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しばらく一人で泣いた後、重い足を引きずるように、翔月は教室に帰ってきた。喧騒の中に空いた自分の居場所を見つけ座り込むと、ほうっと深いため息をつく。「……更科。ほら、先生が呼んでるぞ。」「え?」小突かれて気が付き、顔を上げた、ぴリ……と怖気が走る。そこに居たのは、理科の柏木だった。「先生……」「更科君。明日の実験準備があるから、放課後、準備室に手伝いに来てくれるかな。」白衣を着た教師が教室を覗くとそう言っ...

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風に哭く花 4

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とんと柏木に背後から肩を押されて、翔月は生物実験室に入った。誰もいない生物実験室は、全ての窓に白いカーテンが引かれて、ほの暗い。まるで学校の中ではないみたいな気がする。儀式が行われるにふさわしい静寂がここにはある。「荏田くんは、君のことが本当に大好きなんだねぇ……」背後から、恐ろしい声がする。「先生、君らの会話を聞いて、すっかり妬けちゃったよ……そして、少しだけ悲しくなった。まるで、二人の仲は特別なん...

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風に哭く花 5

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翔月の身体の上に屈みこんで、あちこちもて遊んでいた柏木が、何かを思いついて顔を上げた。しっとりと薄い汗をかいた翔月の胸に、一つ痕を残してキスを贈ると、肌けていたシャツのボタンを留め直し始めた。ぺリ……と、ガムテープをはがされて、もう気が済んだのだろうか……許されるのだろうか……と、ほっと翔月が息を付いたのも束の間、頭上に上げた手首も下ろされる。どっと熱く血が通うのを感じた。「つまらないね。更科君は、早く...

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風に哭く花 6

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翔月はまるで覚えていないが、柏木との出会いは数年前にさかのぼる。柏木は大学時代、教員資格を取る為、翔月と青児の通う中学校に教育実習生として赴任して来た。中学校でも翔月は、青児と当たり前のように、いつも一緒だった。小柄で幼く見える翔月は、その頃、既に青児のことが大好きで、吐露できないくすぶる思いに気付き始めたばかりだった。決して気取られてはならない幼馴染の青児に向けた感情は、翔月の胸の奥に静かに秘め...

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風に哭く花 7

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柏木は震える翔月の肩を、この上なく優しく抱いた。「そんなに驚いたの?嬉しいな……」ごきゅと翔月の喉が鳴る。「僕はね……学力が違うから、君達は高校で別れるだろうと思っていたよ。彼は君のレベルに落として受験したんだね。明晰な頭脳なのに、勿体無い。今は生徒会長だっけ……?一緒に入学して来るなんて、思いもよらなかったよ。」図星かもしれない。青児は進学校への推薦受験の誘いを蹴って、野球をするからと言い訳をして、翔...

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風に哭く花 8

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いつかあの子を、自分のモノにしよう……翔月を見つめる柏木の激しい思いは、人に好かれる容姿の下に見事に隠されて誰も気づかなかった。柏木は教育熱心な優秀な教師として、内外の信頼も厚い。放課後、翔月を呼び出して、柏木の思いは半分遂げられたかに見えた。だが更科翔月の思いは、酷く扱えば尚更、荏田青児へと向かっているようで、それが無性に腹立たしい。固く目を閉じて耐える翔月は、脳裡に荏田青児を思い浮かべていた。風...

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風に哭く花 9

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男にしては華奢すぎる線の細さも、小さな顔も、翔月はずっと変わらない。青児にとって、翔月はいつも守ってやりたいと思える愛おしい存在だった。ただ、これまで青児は翔月に向けた想いを、一度も口にしたことはない。口にしなくても、翔月には全て判っていると思っていた。それが青児の誤算だった。「……なぁ。柏木先生って、昔会ったことあったっけ?」「え?」「陸上部の坂崎ってやついるじゃん、二組の。あいつが柏木の事、中学...

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風に哭く花 10

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久し振りに足を踏み入れた青児の部屋は、いつか来た時とまるで変わっていなかった。シンプルな机とベッドと本棚だけが置かれた殺風景な部屋だった。とんとベッドに腰掛けて、翔月は口にした。「あのね……青ちゃん。ぼくも言おうと思ったことが有るんだ。」「何?」「高校生にもなって、いつまでも青ちゃんに頼ってばかりじゃいけないと思ってるんだ。」「それって……?誰かに言われたのか?……例えば、柏木に?」「違うよ、違う!ぼく...

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風に哭く花 11

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しゃくりあげながら翔月は、大好きな青児に優しく背中を撫でられて、束の間の幸せに酔っていた。いつか、こんな風に好きだと言ってもらえる日が来ればいいと思っていたが、決して叶わぬ夢だと思っていた。翔月にはお日さまの下に居る青児を、遠くから眺めていることしかできなかった。「ありがとう、青ちゃん。両思いなんて夢みたいだ。」「夢なんかじゃないぞ。でも、おれも勇気なくて、今まで言えなくてごめんな。」「ううん……青...

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風に哭く花 12

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まるで嵐のようだった。青児から迸る激情は、炎のように翔月を翻弄し焼いた。柏木に付けられた吸痕に重ねて、青児がきつく吸い上げ痕をつけてゆく。「あぁ……っ。青ちゃぁん。」痛みに耐えかねて呻く翔月が、精いっぱいの力で青児を押しやろうとしても到底かなわなかった。「翔月……こんなもの、全部消してやる。翔月はおれのだ。」耳朶に低く、青児の声が聞こえる。被さってきた背の高い青児を、不思議と怖いとは思わなかった。いつ...

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風に哭く花 13

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青児はじっと翔月を見つめた。「……翔月……おれがもっとちゃんとしていたら、こんな目に遭わなくて済んだのに……」腫れた胸と、泣いて厚ぼったくなった目許。きっと繰り返されたはずの、柏木の悪戯に傷付いた大事な幼馴染。見つめ返した翔月の瞳に盛り上がった涙が、ぽろ……と転がった。*****ささやかに反り返った翔月の分身を緩く扱くと、甘い声が漏れた。「……はふっ……んんっ……あっ……」「……翔月。あいつにもこうされた?言って。...

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風に哭く花 14

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放課後、いつものように柏木に呼び出された翔月は、強い意思を持った目を向けた。青児の思いに応えるためにも、きちんと拒絶するつもりだった。だが、翔月は自分の甘さを思い知ることになる。柏木のカードはそれ一つではなかった。「もう、放課後、ぼくを呼び出すのは止めてください。」「……おや。昨日まで震えていた可愛いうさぎさんが、たった一日でずいぶん強くなったものだね。自転車で仲良く帰ったと思ったら、お互いの絆を確...

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風に哭く花 15

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どこかで蝉が鳴いている。気が付いた翔月の目に映ったのは、保健室の白い間仕切りだった。貧血を起こしてしまったのだろうと、ぼんやり考えた。指先が冷たい。養護教諭が点けてくれたのか、扇風機の温い風が髪を弄っていた。「翔月!大丈夫か?」日に焼けた顔が、扉から心配そうにひょいと覗いた。ゆっくりと翔月は身を起こした。「ちょっと立ちくらみしただけ。平気。」「地区予選の相手決まったぞ。いきなり、第二シードと当たる...

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風に哭く花 16

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あれから時々、青児の家に寄って二人は甘い時を過ごしていた。青児の母はスーパーでパート勤めをしていて、7時半を回らないと帰ってこない。二人にとっては好都合だった。「なぁ、翔月。おれの家、寄って行くだろ?」「ん……」互いに思い合っていたことを知って、青児は有頂天になった。ひたすら翔月を求め、翔月もまた一人になると青児の体温が恋しかった。翔月の心の中には、柏木のことが暗い澱となって沈んでいたが、かけがえの...

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風に哭く花 17

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翔月と交わした約束通り、その後の青児の活躍は目覚ましかった。緒戦敗退必至と言われていた青児の野球部は、驚いた事に甲子園常連有名私立の第二シード校に勝利してしまう。校歌を歌った後、一目散に応援席に向かって来てぶんぶんと帽子を振った青児に、周囲は狂喜し拍手喝さいを送りどよめいた。翔月は汗を拭くふりをして、何度も目許をぬぐった。青児の活躍が誇らしかった。「翔月ーーー!!ほら!」夕方、やっと解放された青児...

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風に哭く花 18

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全校応援が続き、校内には交代で数人の教師が残っているだけだった。柏木は自分の場所にパソコンを持ち込んで、作業をしていた。画像を加工して、昏くするのは容易い。昏い画面の中で、少年が苦悶の表情を浮かべていた。「やっぱり声はまずいな。可愛い声なんだけどねぇ、身バレしちゃ元も子もないから、背後も消そうか……っと。」画面の中で、蟻地獄に引き込まれた羽虫のように、張り付けられた翔月が自由を求めてもがいていた。柏...

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これまでのあらすじ

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更科翔月(さらしなかつき)と荏田青児(えだせいじ)は幼馴染だった。翔月は華奢で、体も弱く小さくクラスでも微妙に浮いた存在だった。青児は隣りのクラスで、生徒会長、野球部のエースとして周囲からの人望も厚い。高校二年の春、赴任してきた柏木という教諭は、翔月の秘密を知っていた。翔月の秘密、それは決して気取られないように、秘めて来た同性の幼馴染に抱いた劣情のまま、眠る青児にキスをしたことだった。中学時代、た...

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風に哭く花 19

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そして、ベスト4を決める準々決勝。連投でここまで善戦してきた青児は、ついに力尽きた。祈るように見つめる翔月の目の前で、金属バットの小気味よい音が響き、白球は外野スタンドに吸い込まれていった。しばしの静寂の後、敗者へのねぎらいの拍手が沸き起こった。「終わった……」翔月と青児は同時に空を見上げ、呟いた。同じ言葉だったが、同じ意味を持たない。*****その日の夕刻、約束通り翔月は柏木の元を訪ねた。にこやか...

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風に哭く花 20

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柏木は直も意地悪く、言葉で翔月を弄った。「荏田君も知らない本当の君を見せてあげるよ。ほら……一人で、ここにおいで。場所は分かる?」翔月は柏木の住所が書かれたメモを受け取ると、ポケットにねじ込んだ。自分が考えるよりも常に先手を打つ柏木に、どう対処すればいいのだろう。もしも、柏木の言うのが事実ならば、投稿しているサイトを知らねばならない。動画を削除するには、そこに入るパスワードがどうしても必要だった。パ...

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風に哭く花 21

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狭い風呂の扉を開けて、二人に注視されながら、翔月は湯を使うしかなかった。絡みつく視線に冒されながら、身体を洗う翔月の心は既に疲れ切っていた。罠にかかった小動物のように、翔月は二人に向かって怯えた視線を向けていた。「可哀想に。せっかくお風呂に入ったのに、もう汗ばんでいるね、うさぎちゃん。」「ちゃんと洗えた?」バスタオルを与えた支配者の長い指が、あちこち確かめるように翔月の上を滑ってゆく。「う~ん……何...

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風に哭く花 22

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ふと翔月に呼ばれたような気がして、青児は振り返った。「ん?翔月……?」青児は地区予選の打ち上げで、駅前の焼き肉店に来ている。先輩たちの父兄、野球部ОB等と共に、何度めかの乾杯が行われた。創部設立以来の快挙に、グラスを何度も上げながら、青児は輪の中心にいたがやっと抜け出した。「青児?」「すみません。ちょっとトイレっす。」「早く戻れよ。主役なんだからな。」「はい。」弱小野球部にとって、ベスト8はお祭り騒...

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風に哭く花 23

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青児が心配している頃、翔月は柏木の腕の中でしゃくりあげながら震えていた。「うさぎちゃん?」「せんせい……こわい……こわい……あぁんっ……」このまま何か違うものになってしまう気がすると言って、翔月は泣いていた。「早熟な子はとうにセクスなど済ませている、こんなの何でもないことだよ。」「いつかは、誰でも経験するのだからね。」普通の生活が出来なくなるようなことはない、何も変わらないと、柏木は翔月を励ましたが、焦燥...

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風に哭く花 24

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左右の膝をそれぞれに折り曲げて緩く結わえられただけで、勃ちあがった翔月のモノを見て柏木は、ほら……と俊哉に指さした。「見て、俊哉。うさぎちゃんは、こうされるのが好きなんだよ。だから、かまってあげないと……。ねぇ、俊哉は知ってる?うさぎってね……寂しいと死んじゃうんだよ。」それは誰かの作り上げた嘘っぱちだ。そう言いかけて、俊哉は言葉を飲み込んだ。俊哉の知る柏木直樹は、過去に大切な人を失って自暴自棄となり、...

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風に哭く花 25

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登校日は、青児にとっても翔月にとっても忘れられない辛い日になった。互いに求めていながら、二人は互いの手を振り払ってしまう。これまでも二人は、些細な喧嘩を何度もしてきた。いつも青児が翔月を一方的に叱っているようにも見えた。それでも少し時間が経てば何事もなかったように、元通りに翔月は寄り添った。部活に入っていない翔月は、教室かグラウンドでじっと野球部の練習が終わるのを待って、帰宅はいつも二人仲良く一緒...

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風に哭く花 26

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翔月をなじる青児の言葉は尖っていた。「……おれは翔月とはずっと変わらないで一緒に居られると思っていたけど、翔月はそう思っていなかったんだな。翔月にとってのおれは、一週間顔も見なくてもいいし、声も聞かなくてもいい軽い存在だったんだ。おれの思いは、翔月にとっちゃ重荷でしかないって良く、わかったよ。望み通り離れてやるよ。もう翔月が何をしようが構わないから、好きにすればいい。」翔月の俯いた口の容が「そんな……...

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風に哭く花 27

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青児は、大人げない自分に腹を立てていた。翔月が自分から離れようとしているのが理解できず、無性に腹立たしかった。本当は泣かせるつもりなどなかった。抱きしめて優しく話を聞いてやるつもりだったのに……生徒会室を後にして、握ったボールを思い切り自販機に叩きつけた。ガン!!……自販機に当たって派手な音をさせたボールを、驚いたような顔をしたクラスメイトが通りかかって拾った。「危ないなぁ。何やってるのよ、荏田。」「...

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風に哭く花 28

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柏木だ!何故か確信が有った。校舎裏の職員駐車場に、青児は駆けた。「くそっ……」いつか柏木は、翔月を捕らえて虐めた。初めて翔月と思いが通じた日、めくったシャツの下に、赤くぷくりと腫れた痛々しい胸の小柱を見つけた。仰天した青児が相手は誰だと詰め寄った時、ごめんね……と、翔月は俯いて小さな声で打ち明けた。とうに終わった話だと思っていた。自分の腕の中で、赤く染まった目元で見上げた翔月は、何が有っても青児が好き...

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