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Category: 朔良咲く  1/1

朔良咲く 【作品概要】

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一応タイトルだけは決まりました。(〃゚∇゚〃)「嘘つきな唇」の 番外編となります。作中、第三番目の登場人物として書いていた、織田朔良のお話です。男児でありながら、目を引く美貌を持った朔良にとって、周囲は余り優しくはありませんでした。幼いころ、近くに住む高校生に乱暴された朔良は、どこかいびつな少年として成長します。彩の後を追って入学した高校でも、思わぬ災禍に見舞われた朔良は、ますます彩だけを追ってしまいま...

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朔良咲く 1

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織田朔良は、誰もが目を瞠る美しい少年だった。清浄な佇まいは、決して誰にも穢されない潔癖さを見せていた。しかし無垢な雪原に誰しも最初の一歩を印したいと思うように、朔良の美貌は一部の嗜好を持つ者の邪な劣情を刺激した。被虐心をそそる美を持って生まれたのは、朔良の悲劇だった。一人でいると、誰かがいつも声を掛けてきた。それは朔良にとって、決まって良いことではなかった。だが、幼い朔良には、事の良し悪しは分から...

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朔良咲く 2

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朔良の記憶はそこでぷつりと消えている。思いだそうとしても思いだせない。深いところにある記憶を無理に手繰ろうとすると、恐ろしい夢魔が淵から現れて朔良を喰らおうとし、パニックを起こした。学校に馴染めない高校生に何をされたか、心配する親と質問する警察官に朔良は何も言えなかった。ママに言っちゃ駄目だよ……という強い暗示が、朔良を捕らえていた。公園裏で乱暴された朔良を、最初に見つけたのは彩だった。あちこちに、...

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朔良咲く 3

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運悪くと言うべきか、運良くというべきか。同じ高校へ入学したものの、朔良は彩の傍にはいられなかった。学年が違う上に、彩は相変わらず部活動に夢中だった。そればかりか、彩の傍らには自分と同じ年の少年、片桐里流が現れて朔良を苛立たせた。凛とした眼差しを持った野球部の後輩は、朔良が居たいと望んだ場所に何の苦労もなく平然と立っていた。その視線は、朔良と同じ熱を持って彩を見つめている。「おにいちゃんの隣は、ぼく...

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朔良咲く 4

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ひっそりと遠くから彩の姿を見て居たいと願っただけの朔良を、悪魔が蹂躙する。陸上部部室に入部届を持って足を踏み入れた時、朔良はいきなり誰かに襲われた。ぐるりと天地がひっくり返る。成長した朔良は、社会と隔絶された高校という狭い世界では、何も起こらないだろうと油断していたのかもしれない。だが、朔良の容姿は思春期を超える頃には、本人の思いとは裏腹に爛漫と咲く華美な枝垂れ桜のようにどうしようもなく際立ってい...

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朔良咲く 5

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最近、朔良は医師に勧められて、リハビリのため近くの温水プールに通っている。そこには、主治医の友人で、健康運動実践指導者と理学療法士の資格を持ったインストラクターが居る。一般客が少ない空いている時間に、僕の患者を入れてくれないかという友人の言葉を訝しく思っていたインストラクターは、朔良が入会申し込みに訪れた時、「なるほどね」と口にした。今は、その言葉の意味が解るようになっている朔良は、小さく頭を下げ...

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朔良咲く 6

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それから二か月余り、朔良は毎日通い水中歩行訓練を続けた。*****疲れた帰り道、朔良は路上で途方に暮れていた。午後から、前が見えないほどの叩きつけるような雨が降っていた。車道に飛び出した猫を避けようとしてハンドルを切り損ね、縁石の角に乗り上げてしまった。「あ~!もう~。」傘も差さずに車から降りた朔良は、縁石でバーストした前輪を認めた。「タイヤ交換しなきゃ、駄目か……」一応教習所でタイヤ交換は習ったが...

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朔良咲く 7

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それは朔良にとって、思い出したくもない忌わしい過去の夢魔の名前だった。「あのさ、朔良姫。島本さんの事なんだけど、今何をやってるか知ってる?」「知らない。聞きたくもない。」「まあ、そう言うなよ。気持ちはわからないでもないけど……。あの人はさ、朔良姫のこと本気だったんだ。ガキだったから、言葉に出来ないし酷いことしかしなかったけど、今になってみたら方法がわからなかっただけだと思うぜ。」「……あんた、日本人だ...

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朔良咲く 8

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朔良は直った車に乗り込むと自宅に向かった。途中、コンビニの駐車場に入り父親に連絡を入れた。「パパ……?うん、朔良だけど。車がバーストしてしまったんだ。ロードサービス?ああ……調度知り合いが通りかかって、タイヤは交換してくれたんだ。それでね、パパの会社に請求してくれるように言ったんだけど、いいかな?」「それはいいが、朔良は何ともないのか?バーストした原因はなんだ?」「うん。相手もいないし僕は平気……。猫を...

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朔良咲く 9

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朔良の通う総合病院は、地域でも有数の医師数を誇り、それと共に付属の設備も充実している。新卒の看護師や、インターンが緊張した面持ちで、医師の後に付き従うのも良く見る光景だった。廊下で主治医に出会った朔良は、話しかけられ肩を並べて歩いていた。「話は聞いているよ。頑張っているようだね。もう杖が無くても、ゆっくりならほぼ健常者並に歩けるようになったじゃないか?」「ええ。温水プールの成果かもしれません。先生...

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朔良咲く 10

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朔良の様子のおかしいことに気付いた理学療法士……島本の行動は迅速だった。伸ばされた手を、一番触れてほしくない男が掴んだが、すでに朔良は意識を手放しかけていて気付いてはいない。床に叩きつけられる前に、島本は素早く朔良の身体を拾い上げた。一目でパニックの発作だと見抜くと、すぐに食事療法指導室が空いていることを確かめて、抱き上げた朔良を運んだ。パニックの症状は、本人の苦しみに反して、数値に出る事は少ない。...

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朔良咲く 11

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朔良は髪をかき上げた。何気ない動作に、思わず目が行く。主治医がこれまで見たことのない艶めかしい仕草だった。「あの、ちょっと。」去りかけた島本が、足を止めた。「一つ聞きたいことが有るんだけど?」「……何だ?」「あんた、何で理学療法士になったの?答えてよ。」「……ん?君達、知り合いだったのか?」驚いたように医師が言う。「ええ。同じ高校なんです。僕は陸上部の後輩で……先輩には、ずいぶんお世話になったんですよ。...

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朔良咲く 12

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島本は、何故か彩の事も知っていた。「織田は朔良姫のリハビリにも、付き合ってくれていたんだろ?卒業前も学校に来ていなかったから、ずっと病院に付き添っているんだろうと思っていた。」「あんたはおにいちゃんの何を知っているの?」「……朔良姫の父親の会社に入社したことくらいは、聞いているよ。同級生だから、その位の話は入って来る。良かったな。」「なにが?」「何がって……好きな奴が父親の会社に入社したってことは、ず...

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朔良咲く 13

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朔良は冷ややかな眼を向けた。「自分勝手な事言うね。そんなの自分満足で、あんたが楽になるだけだ。」「うん、都合の良い詭弁かもしれないな。だけど、信じられないかもしれないけど、俺には朔良姫に会う気はなかったよ。本当に二度と会わないつもりだったんだ。それが朔良姫に酷いことをした自分への罰だと思っていたからな。」「ふ~~~~ん……」「やはり信じられないか?この病院で会ってしまったけど、これは偶然だった。俺は...

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朔良咲く 14

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いずみという名の少女は、殆ど病院で過ごしているせいか、年齢よりもっと幼く見えた。小学校も入学以来、ほんの数日しか通えていないという。「せんせい。王子さまは、いずちゃんに会いに来たのかなぁ。」「どうかな?お話してみようか。」「いずちゃん、王子さまとお話するのはじめて……。どきどきする。」島本が手を上げて自分を呼んでいるのに、朔良は気付いた。出来る限りの不機嫌そうな表情を作り、渋々傍に行く。「……なに?」...

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朔良咲く 15

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朔良は、病院からスイミングへと移動した。いつものように水中歩行訓練をした後、朔良はマッサージを受けながらインストラクターと話をしていた。どこか飄々としていて、側に居ても圧迫感がなく、二人きりの空間は心地よかった。主治医の友人と聞いて、余計な垣根が出来なかったのかもしれない。彩と家族、主治医以外の人間の前で、朔良が打ち解けて饒舌になる事は余り無かったが、この男とは不思議なことに自然と会話が続いていた...

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朔良咲く 16

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その夜、朔良は彩の帰宅を待っていた。父親から、明日は会社の休日だと聞いて、メールを入れていた。「おにいちゃん……お帰りなさい。」「ああ、朔良。ただいま。寒いのに、家に入っていれば良かったな。」「ううん。僕が上がり込むと、叔母さんに気を使わせてしまうから……」「そうか。じゃ、このままちょっと外に出ようか。寒かったんだろう?鼻の頭が赤くなってる。ほら。」彩は巻いていたマフラーを外すと、冷えた朔良の首に巻い...

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朔良咲く 17

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朔良の下げた頭を、ぽんぽんと彩は撫でた。「もっと早くに、朔良と話をすればよかったな。そんな風に思ってたのか。俺は叔父さんにはとても感謝してるんだ。正直、大学に行かないで働くって決めるまでには葛藤もあったけど、今は毎日が大切だって思えるようになった。仕事も余暇も、とても充実してるんだ。朔良が俺に負い目を感じる事なんてないんだぞ。」「ほんとに?無理してたり負け惜しみ言ったりしてない……?」「俺が、そんな...

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朔良咲く 18

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朔良が思わず引くほど、はしゃぐ彩には酒も入っていた。だから、余計にテンションが上がったのかもしれない。「すごいな~!甘ったれの朔良が自分で進路を考えるなんて、思いもしなかったよ。さあ、飲め。酔ったら負ぶってやる。」「十分飲んでるよ。……あのさ、おにいちゃん。僕だって少しは考えるんだよ。」「いや、それはないだろ。」言い切る彩に、さすがに若干むっとする。「何それ。僕だって、いつまでもこのままじゃ駄目だっ...

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朔良咲く 19

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「朔良?あなた、何してるの?」「ん?あ、ママ、お帰りなさい。……確かこのクローゼットの中にあったと思ったんだけど……」「探し物なの?なに?」「ママが作ってくれたスーツ。ほら、ママの趣味満載の薄い色の。」朔良が捜している物、それは成人式に母がオーダーメイドで作らせたスーツだった。上質な灰紫色のスーツは、デザインがまるで新郎みたいだから嫌だと、朔良は袖を通した事は無い。「あるわよ。ほら、確かこれね。……箱に...

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朔良咲く 20

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母の用意したもの。花飾りのついた白いふわふわのニットの帽子、これは病気で髪の毛が抜けた子供がかぶれるようにと配慮されたものだ。クリスタルビーズの煌めくカチューシャ、ボビンレースのシュシュ、女の子の好みそうな白や薄桃色の小物がぷりきゅあの紙バッグに、ぎゅうぎゅう詰めに入っている。パジャマの上に羽織るガウンも、それぞれにおしゃれなものだった。院長に電話した母は、仕入れた情報を元に病児学級に通う5人の女...

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朔良咲く 21

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「いずみちゃんが、頑張れますように。」「さくらちゃんが、がんばれますように。」*****互いに送りあったエールは、ぎこちなく幼稚なものだった。それでも大切な儀式のような気がして、朔良はいずみの触れた額をそっとなぞってみる。「いずみちゃん。そろそろ、お部屋に戻ろうか。ママが心配するといけないから。」「はい。」いずみの手を引いて、朔良は病室の前へと戻った。「いずみちゃん、またね。手術頑張って。」「さく...

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朔良咲く 22

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朔良が来ていることは知っているはずなのに、島本は顔を出さなかった。本気でなるべく顔を合わせないようにしているのだろうか。扉を開ける音に、島本は振り返った。「朔良姫……?」午後の誰もいないリハビリ室に、島本はいた。半分灯りの消えた薄暗がりの中で、器具の点検に熱中していたようだ。「もう帰ったのかと思っていたよ。」「あんたさ、会いたくないときには、その辺りにいるのに、用がある時には何でいないわけ?」「俺に...

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朔良咲く 23  【最終話】

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成長して青年になった朔良と再びめぐり合い、こうして話が出来るようになるなどとは、思いもよらなかった島本だった。高校の頃、乱暴に踏みつけにした下級生は、真っ直ぐに首を上げて自分を見つめている。塵に汚れた床の上に、蹂躙された挙句に気を失って倒れた少年の、成長したしなやかな背には、傷の癒えた神々しいまでの白翼が見える気がした。「やっぱり、うっとりするほど綺麗だな……朔良。」「懲りないね。馬鹿みたい。それは...

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朔良咲く 【後書き】

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「朔良咲く」完結いたしました。長らくお読みいただきありがとうございました。前作のチョイ役だった朔良ですが、今回は主役になりました。作中で、朔良のパパが言った「どんなカードが配られても、それが人生。毎日を大切にしたい。」というのは、映画のタイタニックに出てくるジャックの台詞です。その言葉は、ジャックに恋するローズだけではなく、同席した他の客も感動させました。どんな人生を与えられても、誇りを持って今を...

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