嘘つきな唇 55 【最終話】
大好きな人に言われた、信じられない酷い言葉。
彩に促されても、里流はどうしても口にできなかった。もう一度口にしてしまえば、やっとふさがった疵口が開く気がする。
「……済んだことは、もういいんです。それにどんな彩さんも……おれは好きです。」
「里流……それは嘘だろ?」
「え?」
「今日尋ねて来た時、泣いた跡があった。里流はごまかしたつもりだろうが、いくら鈍感な俺にもその位は分かる。俺はもう、里流が目が腫れるほど泣いた事実を知ってる。きっと、里流は俺の言葉で酷く傷ついた。……だろ?」
嘘をついたと言われて、一瞬、里流の目が泳いだ。
「ごめん、里流。覚えてないからなかったことにしてくれなんて言えないけど、それでもごめん……。俺はもう二度と里流を泣かせるようなことはしないから。誓うから……」
泣かせるようなことはしないと彩は言ったが、一度決壊してしまった里流の涙腺を緩ませるには十分すぎる優しさだった。
「……ふっ……ふぇっ……」
俯いた里流の頭を抱きしめ、寝台の縁に腰掛けて、彩は涙が止まるのを待った。
困ったな……という風に彩は頭を掻くと、両頬に手を当て自分の方を向けると、じっと顔を覗き込んだ。
大切なものを扱うように、そっと触れるだけのキスを落とす
「泣くな、里流。もう一度、あの日から始めよう……な?俺はもう、お前を失望させたりしないから。」
「彩さん……」
ため息のような甘い吐息が漏れた。
*****
抱きあって微睡んだ明け方、二人は同じ夢を見た。
地方球場は満員の観客で溢れ、ピッチャーマウンドには彩が立っていた。
一塁の里流は手を上げ、声を張り上げた。
「彩さん!」
構えたファーストミットに、まっすぐに届けられた白球を受け取った里流は、ボールを握り直した。
眩しい笑顔が逆光に弾ける。
*****
遮光カーテンの隙間から、冬の朝日が漏れて入って来ていた。
「里流。」
ずっと追い続けた背中が、すぐそこにあった。
懐かしい大きな背中だった。
― 嘘つきな唇 完 ―
本日もお読みいただきありがとうございました。(〃゚∇゚〃)
一応、これでお話は完結です。
長らくお読みいただきありがとうございます。
ほったらかしの朔良の話は、しばらくして書きたいと思います。
思いがけず朔良にコメントをいただき、びっくりするやら、うれしいやらでした。
BL歴が浅いせいか、他の作品を知らないせいか、此花には初めての経験でした。
小悪魔……というらしい___φ(。_。*)めもめも……
拾い切れていないエピソードもありますし、彩がなぜ躊躇なく里流を抱けたのか、説明不足だと自分でも思います。
ファンタジーなので曖昧なのです。■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノきゃあ~
たくさんのコメント、拍手をありがとうございました。
とても勇気づけられ、日々の励みになりました。 此花咲耶
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