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Category: 平成大江戸花魁物語  1/2

平成大江戸花魁物語 作品概要

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澄川財閥の直系、澄川東吾は11歳になったばかりである。祖父に言われて、東京の地下にあるという、広大な遊郭へ行儀見習いに行くことになった。その場所は、限られた物だけが通行証を持って入ることのできる、夢のような場所だった。江戸吉原に似た、男だけの遊郭へ入る澄川東吾の運命は……。*****このお話は、此花が以前、別名別場所で書いておりました遊郭の設定を使用しております。(登場人物の名前等)内容は違っており...

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平成大江戸花魁物語 1

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洋館の螺旋階段を駆け上り、澄川財閥の直系、11歳の澄川東呉(すみかわとうご)は当主の部屋を訪ねた。「じいちゃん!ただいま~!」「おお……東呉。小学校の帰りか?どら焼きがあるから、柳川に茶を入れて貰っておあがり。」「うさぎやの?美味いよねぇ。お茶位自分で淹れるからいいよ。柳川さんも飲む?」「ありがとう存じます、東呉さま。お相伴になります。」慇懃に腰を折った柳川に、座っててと言い置いて、東呉は隣室の簡易...

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平成大江戸花魁物語 2

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祖父はついと指を指した。「通行手形が寝台の引き出しに入っているはずだ。捜してみなさい。」東呉は言われた通り、がさごそとサイドテーブルの引き出しを探った。大量の服用薬の袋の奥に絵馬のような木札がある。これかとかざしたら、祖父は肯いた。「これはまた、時代がかった代物だねぇ、じいちゃん。色も褪せてるけど、これって今も使えたりして?」「使えるぞ。柳川に連れて行ってもらうと良い。そろそろお前も、禿になるには...

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平成大江戸花魁物語 3

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ざわめきと鼻腔に微かに香る甘い匂い……「うわ……」目隠しを取ると、光の洪水が網膜を襲った。太陽が無いはずの広い地下の街には、紅い格子が前面に施された家々が立ち並び、軒先には丸い提灯を模した人工の燈が煌々と灯っていた。「えと……楼……菱、花?」「花菱楼です。この町では文字は右から読むんですよ。東呉さまは、こちらで学んでいただきます。」「学ぶって……学校の勉強じゃ足りないの?おれ、そこそこ頑張ってると思うんだけ...

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平成大江戸花魁物語 4

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男が綺麗に着飾って、身体を売る。詳しいことは東呉には良くわからないが、どうやらここはそんな場所だ。東呉は、ぽんと「湯殿」と書かれた風呂に放り込まれ、湯を使うように言われた。「い、いいですっ。自分で洗います~!」抗っても無駄ですからね、と、柳川に言われた通り、まるで野菜を洗うような毛際の良さで頭のてっぺんからつま先までごしごしと磨き立てられた。男衆の手で、シャツもぱんつも奪われた後は、刷毛で背中や胸...

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平成大江戸花魁物語 5

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ねぇ……と初雪が六花をつつき覗き込んだ。「六花はどこの子?現(うつつ)での暮らしぶりを教えてよ。名前とかさ。」「あ……の。」「初雪、およし。ここでは現の世界の事は詮索しない決まりだよ。わかっているだろう。」「あ~い。」叱られても初雪は屈託がない。「そうだ、雪華兄さんにも聞きたいことが有るの。油屋の王子さまに落籍(ひか)されるって本当なの?雪華兄さんがいなくなったら、大江戸一番の花菱楼はどうなるんだろう...

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平成大江戸花魁物語 6

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六花が行儀見習いで入った娼館・花菱楼は、実に変わった場所だった。男相手の岡場所ならば、江戸の昔、歌舞伎俳優崩れが春をひさぐ陰間茶屋が有名だが、花菱楼のシステムはどちらかというと江戸吉原の物に酷似している。花魁と呼ばれる美しい男たちが、秘密裏に現実世界とかけ離れた一つの世界を作っていた。彼らは古来から伝わる手練手管を守り、床入りした相手にだけ儀式のように、その技を披露する。その相手も俗世に居れば、な...

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平成大江戸花魁物語 7

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油屋(中東の石油王)の申し出た金額に、廓中は大騒ぎになった。雪華さんが一生楽して遊べる金を用意します、決して御苦労をお掛けするようなことはありません、と、使いの者ははっきりと口にしたらしい。「や~ん、雪華兄さん~、遠くに行っちゃやだ~~~。」「…初雪。大丈夫だよ。ぼくは花菱楼が気に入っているから、まだしばらくはここにいる。それに所作を教えて、きちんと花魁にしてやりたいからね。初雪の父親はお前を売る...

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平成大江戸花魁物語 8

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六花の見た所、娼館・花菱楼は、働く者にとっては、かなり自由な女郎屋のようである。花菱楼がよそと違うのは、高級娼館ゆえに、下っ端の娼妓にも客を選ぶ権利があるところにあった。広い大江戸の中にいくつもある廓には、項目ごとに順位がつけられ、常に最高位の花菱楼では気にそまない床入りの無理強いは、誰もしない。祖父が自分を預けた理由がわかるような気がしたが、ここに来る前に、密かにパソコンで調べたこととかなり違う...

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平成大江戸花魁物語 9

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六花の先輩禿の初雪が、とんでもない事をしでかした。その日の夕暮、大門が開けられてしばらくしたころ、大事を知らせる半鐘が鳴り始めた。誰かが足抜けだ~!と叫んだのが聞こえた。物々しい雰囲気に、人が増え始めた表通りは騒然としている。直ぐに触れがまわり、招集された楼主が検番に登る。「雪華兄さん!大変です~っ!あ、違った、大事(おおごと)でありんす~。」六花が転がるようにして部屋に飛び込んできた。支度前の湯上...

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平成大江戸花魁物語 10

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「雪華兄さん……」「言い訳する気は、毛頭ございんせん。足抜けしたのは確かでございんす。逃げも隠れもいたしんせん。」「初雪、話しやすい言葉でいいよ。兄さんにわかるようにきちんと説明してごらん、何が有った?おまえはこうまで分別の無い子じゃなかっただろう。辛いこともたくさんあったが、これまで辛抱してきたじゃないか。」「ご……ごめんなさい。雪華兄さんには良くしていただいたのに……父親が……今日、おれを連れに来るそ...

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平成大江戸花魁物語 11

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しかし、例え恋心の暴走でも、年季の明けていない者が、楼主の許しもなく大門を超えてしまったら、それは花街で働く者にとっては一番の禁忌を破ることになる。決して有ってはならないことだった。見習いの禿が、店出しするよりも早く誰かと筆下ろしを済ませ、兄様花魁の目の届かぬところで清らかな紅肉を晒すなどあってはならないことだった。まして、足抜けなどされては禿の面倒を見ている雪華の面目も丸つぶれだった。それでも、...

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平成大江戸花魁物語 12

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楼主の顔に喜色が浮かぶ。「ほ……そうかい。初雪禿の足抜けの罪を花魁が被ると言うんだね。腹立ち紛れに、いっそ忍び込んだらしい相手も捕らえて、重ねて晒してやろうと思っていたんだが、そういう事なら条件を飲もうか。」だがね……と、続けられた楼主の言葉は冷たかった。「油屋の旦那の身請け話を勝手に断った上に、今度は禿の不始末だ。ちっとばかり、その澄ました玲瓏な白面を歪めてやろうじゃないか。ちょうど、桜の季節の花見...

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平成大江戸花魁物語 13

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盛りの枝垂れ桜の周辺に、提灯が提げられ庭のアーク灯にも火が入った。不夜城と言われる娼館花菱楼で、夜目にも眩い夜桜の宴が始まる。上客だけを招いて行われる今宵の出し物は、誰もが認める大江戸一の花菱楼娼妓、雪華大夫が禿に代わって受ける公開折檻だった。雪華太夫は、禿の初雪が足抜けをした罪を、その身で代わりに償う。二本の八重桜の真横に張った枝に、きりりと赤い麻縄が掛けられ、小さな輪が吊り下げられる。足元には...

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平成大江戸花魁物語 14

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ふっと喘いで前髪がはらりと落ちると、まだ10代の雪華太夫は新造と同じくらいに若く見えた。縄師が呼ばれると手慣れた様子で、片足に縄目が掛けられ胸に付くように曲げられる。哀れな雪華のすべてが、どこからでも見えるように晒された。つま先ひとつでひどく不安定に、雪華は風に弄られる(なぶ)ようにして緋毛氈を掴んでいた。「ゆ……雪華兄さん……どうしよう。初雪が馬鹿なことをしたばっかりに、あんな目に……えっ……えっ……。」誰...

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平成大江戸花魁物語 15

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余りに酷い折檻を見ていられず、六花の手を振り切って初雪が叫んだ。「や、やめてーーーっ!雪華兄さんを許して、雪華兄さん、初雪のせいで、もうやめて……ぇ。誰か、雪華兄さんを助けてーっ!」「初雪が好いた人に逢いたくて逃げてしまったばっかりに、雪華兄さんをこんな目に合わせてしまった。罰なら、初雪が受けますから……どうぞ、そこのお道具も、わっちの後ろをご自由にお使いくんなまし……。兄さんを助けて、お父さん。」初雪...

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平成大江戸花魁物語 16

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「こんな形でおまえを抱こうとは思わなかったけど、兄さんはうれしいよ。強く生きるんだよ、初雪。決してお前は一人じゃないのだからね。一人ぼっちで死んじまうなんて愚の骨頂だよ。」「あい。雪華兄さん……では……どうぞ、……初雪と契って……くんなまし……。」雪華太夫の両足のひざ裏を掴み、たどたどしい手つきでそっと開いてゆくと、初雪は意を決して腰を進めた。揃えた禿の短い髪が夜目に搖れる。抱えの禿に犯されて、雪華太夫が髪...

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平成大江戸花魁物語 17

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公開折檻の後、雪華太夫の元には馴染みの客から次々と見舞いの品物が届いた。離れの私室に、豪奢な品物が次々運び込まれる湯上りの雪華は、素肌に緋襦袢をひっかけて出窓に腰掛けて、禿の六花が楽しげに荷を解くのを眺めていた。どれほど汚され貶められても、決して染みになることはなく、雪華花魁の輝く玉の肌は変わらない。花菱楼の雪華花魁は、どんな目に遭おうとも、白蓮のように穢れなく清らかに大江戸に咲き誇る大輪の花だっ...

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平成大江戸花魁物語 18 【最終話】

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男姿となった雪華花魁が大通りを歩いていても、振り返る者は大江戸の中に一人もいない。この町に居るのは客と娼妓、ただそれだけだった。短い花の盛りを散り急ぐように大江戸に咲いた大輪の花は、雪華花魁という名前を天華太夫に譲って地上へと向かった。蝉の羽化に似ている気がする……と、長く伸びた影を見つめながら六花は思う。「雪華兄さん。」「六花。どうしたえ?」ふっと振り向いた新しい雪華花魁は、昨日まで天華と名乗って...

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平成大江戸花魁物語 番外編「再会」……と、あとがき

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東呉の祖父、澄川財閥の当主は、何とか小康状態を保っていた。今日は、大学を卒業後、挨拶に来るはずの孫の訪問を楽しみに待っている。窓辺で張り込む柳川に声を掛けた。「そろそろ約束の時間だな。」「はい、旦那さま。例の者は、すでに隣室に控えさせております。」「そうか。東呉には、いい卒業祝いになるだろう。」「どんな顔をなさるでしょうか。あ……、下にお見えになったようです。差し出がましいのですが、旦那さま、横にな...

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砂漠の赤い糸 1

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大江戸で「油屋の若旦那」と二つ名で呼ばれていた異国の青年は、今、機上の人となりながら水滴の走る窓に額を付けた。もう二度とこの国に降り立つことはないだろう。愛する人を残して一人国許に帰る、それだけのことが今はたまらなく悲しい。自分の心中を察した天が、共に泣いている気がしていた。「雪華……」誰にも祝福されることの無い、報われぬ恋が終わりを告げる。プライベートジェットのゆったりとした皮張りの椅子に、人払い...

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砂漠の赤い糸 2

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コンクリートの街の地下に、夢のような世界が広がっていて、蝶のような羽を持った美しい不思議な生き物が棲んでいるという話は、子供のサクルが大好きな話だった。病気がちだった息子のために、父が語った話に、彼は夢中だった。「それから?お父さま。そんなに高い履物を履いて、大江戸のオイランはどうやって歩くの?」「八の字という歩き方をする。ゆっくりと転ばぬように優雅に、滑るようにな。」「こうだ。」父は二本の指で、...

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砂漠の赤い糸 3

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そこでは、二十歳そこそこの寡黙な美しい男たちが、花魁、振袖新造と呼ばれ紅い着物を着た幼い禿を連れて宴席に侍っていた。サクルは誘われて、大江戸の大通りで生まれて初めて花魁道中というものを見た。「サクルさま。あれがこの大江戸で一番の花菱楼の雪華太夫です。」「……雪華……」両袖を広げると蝶の形になる不思議なキモノを着て、父王の言うとおり優美な歩き方をしていた。真っ直ぐに前を向いて八の字で歩く、美貌の雪華花魁...

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砂漠の赤い糸 4

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日めくりというカレンダーをめくって、ため息を吐く。小姓が言いにくそうに告げた。「サクルさま。そろそろ、国許へお帰りになりませんと……。既に二週間がたっております。」「そうか、時のたつのは早い。大江戸はわたしにはつれない場所だったな。諦めて帰国の支度をするとしよう。」立ち上がったサクルは、ふと窓際に置かれた一鉢の青い胡蝶蘭を認めた。「珍しい花の色だな……これは?」「一輪だけ花をつけたそうです。サクルさま...

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砂漠の赤い糸 5

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これ以上、雪華花魁が酷い目に遭わないようにしてやってくれないか……と、切りだしたサクルに雪華花魁を抱えている花菱楼の楼主が告げた。「御心配には及びません。大事な商品なのですから、傷付けないよう十分配慮しております。」「だが、雪華花魁は泣いたではないか。わたしの名を呼んで気を失ったと聞いて、どれほどの目に遭ったのだろうと思うと、哀れでならなかった。」「サクルさまにお教えしたら怒るかもしれませんが……雪華...

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砂漠の赤い糸 6

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降り立った故国の空は青く澄んでいた。昨日までのことが全て、眩い夢の世界で起きたことのようだ。変わらぬ強い陽光さえ、出かけた朝とまるで同じに見えた。機内で民族衣装に着替えたサクルは、つかの間の自由な身分を脱ぎ捨てて、今は王位継承権を持つ不自由な皇太子となった。「おかえりなさいませ。」「おかえりなさいませ、サクルさま。」宮殿の入り口に、召使いがずらりと並ぶ。「父上に帰国の目通りをする。」「陛下は、後宮...

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砂漠の赤い糸 7

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抗ったせいで、衣服は破れ髪も乱れていた。サクルはそっと自ら着衣を直してやり、血のにじんだ手の甲の傷が深くないのを確かめると安心したように、良かったとため息を吐いた。優しく労わるサクルを、雪華は見つめていた。「言っておくが、この国に嫁ぐ気はない。後宮にはあなた一人の為の美姫や美少年が大勢いるそうだから、伽の相手にはことかかないだろう?ぼくにはやりたいことが有るんだ。」「だれがこんな目に遭わせたのかは...

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砂漠の赤い糸 8 【最終話】

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「ラクダに乗った王子さま。ぼくの本名は樋渡由綺哉(ひわたりゆきや)というんだ。雪華の名前は大江戸において来たんだよ。今のぼくは、誰もが欲しがる大江戸一の花魁じゃない。大金持ちの油屋の若旦那が欲しかった華やかな花菱楼の雪華花魁は、どこにもいないんだ。ここに居るのは何も持たない樋渡由綺哉だけど、あなたはそれでも欲しいの?。」サクルは回した腕に力を込めた、異国の美しい蝶が何処にも羽ばたいてゆかないように...

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砂漠の赤い糸 ・おまけ 【文の秘密】とあとがき

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腕の中に居る恋人の髪を、優しく指で梳きながらサクルは口にした。「君に聞きたいことが有ったんだ。由綺哉。」疲れ切って朦朧とした由綺哉は、ゆっくりと視線を巡らせた。「ぅん……?」髪は短くなってしまったが、小さな顔も疲れて青ざめたまぶたも、あの日のままだった。緩慢な動きで、サクルの胸に預けていた頭を上げた。「何……?」「いつか、君に貰った箸についていた文の意味が知りたい。愛し合った日の翌日に、花のお礼だと言...

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落日の記憶 【作品概要】

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今回は、平成大江戸花魁物語の主人公、澄川東呉の祖父の若いころの話です。美老人、澄川財閥当主、澄川基尋が戦後、大江戸へ行った前後の頃の物語です。公家華族として何不自由のない暮らしを送っていた、柏宮基尋の生活は戦後一変しました。お金に困った多くの華族たちと同じように、苦労する父親(柏宮子爵)の窮状を見かねて、基尋は大江戸に行く決心をします。小姓の柳川浅黄を供に連れ、花菱楼の裏木戸をくぐった基尋の運命は...

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