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Category: 最愛アンドロイドAU   1/1

最愛アンドロイドAU 1

ロボット工学の分野では、一応かなりの有名人らしい兄の音矢(おとや)が、アメリカから電話をしてきた。向こうで結婚式を挙げて以来、ずいぶん長いこと帰国もせず顔も見ていない。仕事が忙しいと言う触れ込みだったが、かなり秘密裏なことにも関わっているようで、産業スパイの接触を恐れて、プロジェクトが完了するまで国外に出して貰えないと言うのが真相らしい。まあ、製薬関係でもそういう話は良く聞くから、身内にも漏らして...

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最愛アンドロイドAU 2

早速、直通電話へ掛けて、兄貴に文句をいう事にする。「何だよ、これ!ただの家事ロボットに何で、こんなビジュアルと下半身が必要なんだ?おかしいだろう!?」「あの……。博士はご自宅に戻られました。」受話器の向こうが音矢じゃないのに、やっと気が付いてどっとテンションが下がった。「せっかくのお手伝いロボットですから、お客様にも楽しんで戴こうと思いまして、当社もいろいろオプションを考えました。しばらくそちらでモ...

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最愛アンドロイドAU 3

電話口で思わず喚いてしまった。相手はまだ若い子供のような男の声だ。機械音のような気もするし、時差のせいか多少ちぐはぐなこともある。「……はい。失礼いたしました。当方では、クライアントとアンドロイドは、婚姻のように互いを思いあうような関係であるべきと思っておりますので、そのような契約書を作りました。婚姻関係を結ぶような深い愛情を持って、アンドロイドをお傍に置いてほしいのです。」「そうか。このふざけた内...

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最愛アンドロイドAU 4

背を向けたまま、ぱらぱらとマニュアルをめくった。音羽の持つ、分厚いマニュアルに書かれた「重要項目」はいくつもあった。名前を呼んで仲良くなってくると、出来る事が増えて、言葉と表情も豊富になるらしい。育成ゲームの高度な奴みたいなものだろうか。アンドロイドが何らかのトラブルで暴走したときには、機能を停止させるのだが、そのための方法の載ったページを読んで、音羽は脱力した。抱きしめて耳元でささやく機能停止の...

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最愛アンドロイドAU 5

バコーーン!!「ぅわ……っ!!何!?何……!火事か?」目が覚めた音羽は、一瞬自室にいるのを疑った。辺り一面、白い煙が立ち込めていた。煙の向こうにアンドロイドが呆然とした様子で佇んでいた。「AU……じゃない…あっくん!無事なのか?」「ご主人様……。すみません。」「何があったんだ?何か焦がしたのか、これ。」白い身体に薄いベビードールのネグリジェを身に着けたヴィーナス……あっくんは、どうやら何か失敗したらしい。「...

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最愛アンドロイドAU 6

緊迫した難手術が無事成功に終わり、音羽は祝杯をあげようと執刀した大学病院のチームに誘われた。誰もが近づきになりたいと願う、今の日本では最高峰と言われる面々だ。だが、音羽はあっさりと断りを入れた。「すみません。今日はずいぶん前からの約束事が有って外せないんです。次回は必ず参加しますから誘ってください。」「え~っ、秋月先生、いらっしゃらないんですか?縫合のコツとかピッツバーグの話を聞きたかったのに。彼...

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最愛アンドロイドAU 7

水浸しの原因が、発覚した。泡をまき散らしながら、洗濯機が激しく振動し、ありえない音を立てていた。グワングワンという音と、大量の泡に慌てて音羽はコンセントを抜く。「あっくん!これは……一体、どうしたの?」あっくんは、結露を拭き顔をあげた。うるうると瞳が濡れている。「ご主人さま。ごめんなさい。あっくんは、洗いものをしようと思いました。」「うん。全自動だよ?洗濯物を放り込んでスイッチ入れるだけだね。」失敗...

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最愛アンドロイドAU 8

あっくんの深く澄んだ緑の瞳には、一体自分はどんなふうに写っているんだろう。どんな理由にせよ、好ましいと思ってくれているのは確かなようだ。じっと、音羽を見つめたあっくんが、目許を染めて視線をずらした。音羽はあっくんに買って来た、婦人物の洋服の中からユニセクスなものを選んで着せた。ぱんつはなかったので、悩殺ぱんつそのままにしておいた。ゆったりとしたスウェットを着せたらずいぶん理知的に見える。見かけだけ...

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最愛アンドロイドAU 9

想像通り、吸い付くような肌だった。音羽が知る限り、付き合ったことのある白人の肌は皆、きめが粗くどこか乾燥した印象だったが、あっくんの肌はすべすべと指先に吸い付くようだった。もしかすると東洋系の血が混じっているのかもしれないと思う。両手をまとめて持ち上げれば、白い腋に少しの薄い金色の産毛がそよぐ。無機質なアンドロイドだと言われてみれば、確かにそう思える作り物めいた身体と顔だった。しかし人形の下肢には...

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最愛アンドロイドAU 10

朝。微睡(まどろみ)の中で音羽は隣りで眠っているはずの、あっくんに手を伸ばした。幸せそうに音羽の胸に頬を寄せ、大きなエメラルドグリーンの瞳を煌めかせていた。起き抜けの音羽に、ご主人さまの心臓の音が聞こえます……と、頬を染めて嬉しげに笑った。……昨日までは。「あっくん……?」伸ばした腕が虚しく空を切り、音羽は一気に覚醒した。「あっくん!どこだ!」隅から隅まで捜してみたが、狭いマンションの中、アンドロイドAU...

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最愛アンドロイドAU 11

いつも通り音羽が大学病院へ出勤すると、空気がざわめきどこかいつもと違っていた。興奮に鼻を膨らませた、医局の同僚達が駆け寄ってくる。「おめでとうございます。秋月先生。やりましたね。」「え?何かやらかしましたか?何もやっていませんけど……?」「違うよ、何を言ってるんだ。その手術の話だよ。デリンジャー博士からの直々のお声がかりで、秋月先生が後継者に選ばれたんだよ。日本の秋月音羽に、自分の持つ全ての技術を伝...

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最愛アンドロイドAU 12

デリンジャー博士への挨拶のあと、大学職員に部屋を案内してもらった。当たり前なのだが、以前、留学していたころとはまるで待遇が違っていた。部屋は続き部屋で小さなキッチンまで付いている。すぐに荷物を解こうとして、音羽はソファに掛ける兄の姿に驚いた。「兄さん。な、何で、ここに……?」「よう、音羽、久しぶりだな。そろそろ来るだろうと思って待っていたよ。おれの結婚式以来だから、7年ぶりになるか。」「良かった。す...

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最愛アンドロイドAU 13

男装の麗人のようだと言うので、近所の女の子は密かに金髪の兄貴の方を「オスカルさま」と呼んでいた。しかもご丁寧に黒髪の恋人が出来て、そっちについたあだ名は当然アンドレだった。確かに眺めているだけで、男装の麗人オスカルと従者のアンドレは、誰もがうっとりと見惚れるほど美しい恋人たちだった。あの綺麗な人は、どんな声で愛を語るのだろう。そう考えただけで、音羽の芯は放出したくなるほど熱を持った。「そういや確か...

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最愛アンドロイドAU 14

レシピエント……移植手術を待っている患者の事をそう呼ぶ。手当てを尽くし、移植手術が最終手段だとしても、簡単に手術というわけにはいかない。脳死患者からの移植には、驚くほどたくさんの待機患者がいたし、その順番を待つうちに果たせぬ希望に絶望したまま儚くなるものも多い。残された唯一の道は、生体肝移植という事になる。しかし、一口に移植といっても適合条件は多く、手術に至るにはいくつもの高い壁があった。デリンジャ...

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最愛アンドロイドAU 15

付添い用のベッドに浅く腰掛けて、あっくんは音羽に顔を向け泣きぬれていた。深く澄んだ海の色にも似た、濃い緑の瞳が涙で溺れそうになっていた。音羽を見るなり、小さく頭を振ってあっくんは脇をすり抜け、その場から逃げ出そうとする。音羽はあっくんを難なく捕まえ、やっと思うさま抱き締めた。どこかにぽかりと空いた喪失の感覚が、あっという間に満たされてゆくのを感じた。ほんの短い時間関わっただけなのに、とうに運命の半...

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最愛アンドロイドAU 16

「音羽。ここに印を付けて。前みたいに。」「でも、手術前だからなぁ……。見えないところならって言っても……ないんだなよぁ。」逡巡する音羽に、ゆっくりとボタンを外すあっくんは、音羽の前から去ったのち吸痕が消えてゆくのが悲しかったと語った。「自分でちゅっとしようにもね、音羽は……届かないところにいっぱい印を付けたから、駄目だったの。腕の内側だけ、ほら、ちょっとだけ薄く残っているでしょう?でもね、ここもモデルだ...

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最愛アンドロイドAU 17 【最終話】

手術の日の朝。あっくんとオスカル……隣でそう呼ぶと、ルシガという恋人が青筋を立てて怒るのだが、もうすっかり音羽の中ではそんな名前になっていた。「違う~!って言ってるだろう。全く、物覚えの悪い医者だな。こんなやつに可愛い弟をくれてやるのか、厚一郎。考え直した方が良いぞ。」オスカルは愛おしい黒髪のアンドレに手を伸ばし、束の間の別れを告げた。「ルシガ。オスカルは……最愛のアンドレより後から……死ぬ……んだ。今の...

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