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Category: 桃花散る里の秘め  1/2

桃花散る里の秘め 【作品概要】

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戦国の世。恭順の意を示した隣国の大槻家から、三男義高が人質として送られてきた。藩主はまだ元服も迎えていない10歳の大槻義高を哀れに思い、子供のいる国家老の家に預ける事にした。国家老の家には二歳年下の、大津という深窓の姫君がいる。二人は仲睦まじく日々を暮し、いつしか互いに深く思い合うようになってゆくが、大姫には誰にも言えない秘密があった……しばらく更新しておりませんでした。毎日覗いてくださった方、ありが...

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桃花散る里の秘め 1

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桃の木の紅色の蕾は、日差しを浴びてちらほらとほころびかけている。まだ風は冷たかったが、既に甘い春の香が混じっていた。侍女が切って差し出す花枝を、いとけない少女は次々に受け取り、きゅっと大事そうに胸に抱えていた。「大姫さま。もう、そのくらいに致しましょう。それ以上はお持ちにはなれませんよ。」「だいじょうぶ。それに桃の花は、蕾がまだ固いから、たくさんあったほうが綺麗……あっ!」「姫さま、危ないっ。」胸元...

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桃花散る里の秘め 2

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濡れ縁から様子を眺めていた、大姫の父、国家老が声を掛けた。「大津。義高殿を困らせてはいけないよ。」「困らせたりはしておりませぬよ、父上。転びそうになったのを義高さまに助けていただいただけです。床の間に活ける雛の節句の花は、このくらいもあれば足りましょうか?もう、すっかり蕾がほころびそうになっておりまする。」「そうだな。菜の花と共に、母上が活けてくださるだろうから、義高殿と一緒にそっと勝手の方へ持っ...

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桃花散る里の秘め 3

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8年前。流行病に倒れた愛児の遺骸を抱きしめ、大姫の母は慟哭していた。手当ての甲斐もなく、最愛の嫡男は熱に浮かされ、母の胸で息を引き取った。受け取った幼き骸を布団にそっと横たえると、国家老は父として脇差を守り刀として胸元に置いてやった。「もう泣くな、琴乃。この子は運が悪かったのだ。」「旦那さま……」妻は泣きぬれた顔を上げた。「わたくしがついて居ながら、やっと授かった二人目の男子までみすみす失うようなこ...

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桃花散る里の秘め 4

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国家老の娘は、こうして深く家の中に隠され、雛にも希な美姫に育っていった。病身であるからと、世間からは隔離していたが、隠せば隠すほど密かに噂は広まり、幼いながらに目を引く男子らしからぬその美貌は、父にため息を吐かせた。余り外へ出さない大姫の姿を見るものは少なく、まことしやかに噂に尾ひれがついた。国家老は大姫の秘密を、主の藩主にさえ話さなかったが、それがこの先の憂いとなる。いずれ、困った縁談が持ち込ま...

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桃花散る里の秘め 5

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ある日、藩校から急ぎ帰ってきた義高は、見つけた大姫に因果を含めていた。姿が見えぬと思い、こっそり抜け出したつもりが、振り向けばそこに姿がある。「あ。」「義高さま。大津も……」「姫さま。此度ばかりは、ご一緒はなりませぬ。」「どうして……?」「わたしはこの川の上流に鮎を取りに行くのですから、姫さまをお連れするわけには参りません。上に行くほど流れの速い川なのです。足を取られて転んだら、男でもそのまま一気に流...

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桃花散る里の秘め 6

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いつもは大姫に合わせ、ゆっくりと歩く義高であったが、今は大股で走るように歩く。川沿いをずんずんと進む義高の姿は、すぐに松の大木の向こうに見えなくなって、大姫は義高の名を呼びながら半べそをかき、必死に後を追った。川に沿ったままどこまでも歩いて行けば、道に迷うことはない。ただ夜半の雨で、足元の草は濡れ、苔の生えた小さな石橋は滑りやすくなっていた。***一方、別れたばかりの大姫が、後を付いてきているなど...

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桃花散る里の秘め 7

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「おっ!かかった!」「よし!でかいぞ。」釣果はなかなかのもので、義高は早くも5匹目の鮎を釣りあげた。バレないように(針がはずれないように)タモですくい上げ、魚籠に魚を移したとき、ふと何やら視界に動くものを感じて視線を上げた。「ん……?あっ!」「きゃぁーっ!」川を渡ろうとした大姫が、苔に覆われた石橋で滑り、落ちるのが見えた。「姫さまっ!?」水しぶきが上がるのよりも早く、義高は竿を放り投げ抜き手を切った。...

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桃花散る里の秘め 8

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「……うっ……」やがて……こぷりと口元から水を零すと、大姫は目を開けて激しく咽た。「姫さま!ああ、良かった。」丸くなって激しく咳き込む姫の背を優しく撫でた。やがて落ち着いた大姫は、ぬれねずみでしょんぼりとうつむいたまま、一言も言わない。きっと義高が怒っていると思って顔を上げられないでいた。付いていかないとげんまんしたのに、約束を反故にしたのを悔いていた。何より大好きな義高に嫌われるのが怖かった。「大姫さ...

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桃花散る里の秘め 9

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門番の知らせで、侍女が血相を変えて走って来た。「姫さま!大姫さま、いかがなされたのです!お怪我はございませぬか?」大姫はにっこりと、義高の背中から笑いかけた。「怪我はしておりませぬ。それよりも、橋から落ちた大津を助けてくれた義高さまにお礼を言っておくれ。」「……えっ!橋から!?」しかし、義高に向けられたのは、恐ろしいほどの激高だった。「義高殿っ!あなた様がついて居ながら、一体どういう事です。このよう...

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桃花散る里の秘め 10

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国家老は義高を呼ぶと、薄暗い行燈の元で、声を潜めて仔細を打ち明けた。「元々、大津には丈夫に育つよう願を掛け、元服までと決めて女子の形で育てるつもりであった。本来ならば、女子の姿をさせていても、いずれは我が家の男子として家名を継がせるべく、厳しく武門もしつけるはずであったのだ。だが、あの通り大津は男子としては余りにひ弱で、医師からも長生きしたければ滋養に勤め安静にするようにと言われていた。」「そうで...

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桃花散る里の秘め 11

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数日後、元服を控えた少年たちによる御前試合が行われた。残念ながら、藩籍のない義高はその場に参加できなかった。優勝は前評判通り、武芸指南役の嫡男、高坂一颯(かずさ)であった。*****優勝者が藩主にお目見えしたその席で、国家老は窮地に立たされる事となる。高坂一颯が藩主に大姫をめとりたいと言い出し、藩主もそれは良いと言い出してしまったのだった。元々、大津を姫として育てるのも子供時分だけのつもりであった...

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桃花散る里の秘め 12

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国家老は肩を落としていた。主君は、国家老が色よい返事をするものと思っているだろう。相手は安土から続く名門の家柄で、本来ならば断る理由がなかった。「四面楚歌か……」追い詰められていた。「旦那さま。お早いお帰りですのね。お城で何かございましたか?」浮かない顔をした主に気付いた妻は、そっと障子を閉めた。「大津の縁談を持ちかけられた。」「まあ……それで、なんと?」「病身ゆえ婚姻は叶いませぬと、殿に言上して参っ...

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どうやっても……

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ブログ村に記事が反映されません。新しいお話を更新してるのだけど……(´・ω・`) なので、お知らせするために一度この記事を上げてみます。どうしてかなぁ……...

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桃花散る里の秘め 13

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「高坂殿……大姫さまが、川に落ちたことをご存じか?」「仮死状態の姫に、大槻殿が必死で蘇生の術を施したところもな。見事であったな。あれは国許で覚えたのか?」「……わたしの国では、稲作が盛んで、大小いくつもため池があるのです。時折り幼い子らが落ちるので、おぼれた時には傍に居る者が、誰でも命を救えるようにと、班ごとに年長者が付いて教えるのです。そうして毎年、命を拾うものがおります。」「誰にも口外してはおらぬ...

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桃花散る里の秘め 14

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義高は仕方なく高坂と連れだって門をくぐった。いつものように、門の内側に大姫がいると困ると思いながらくぐると、そこには大姫の姿はなかった。ほっと安堵の反面、心配になる。まだ熱がひかないのだろうか。「義高さま。すぐにすすぎ(足を洗う水)をお持ちいたします。……そちらは?」「菊さん。こちらは藩校の友人で、高坂殿です。大姫さまの見舞にいらしたのです。」高坂は神妙に頭を下げた。「まあ、義高殿。奥方さまは、ご重...

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桃花散る里の秘め 15

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所望された茶を運んできた義高は、自分の部屋から高坂が忽然と姿を消したのを知り、急ぎ大姫の部屋へと向かった。「御無礼っ、大姫さまっ!高坂殿。」何時も大事に抱えている糸手毬もなく、血相を変えた義高が、門へと走り門番を問い詰めた。「大姫さまと高坂殿を見なかったか?」「義高さまのご友人と大姫さまなら、あちらの方へ向かって行かれました。大姫さまは、ご友人の御背に負ぶさっていらっしゃいました。」「何か言って居...

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桃花散る里の秘め 16

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ほんの一刻(約14分)前。「さあ、大姫さま。ここまで来たらお覚悟召され。諦めが肝要かと存じまする。」「……なんの覚悟をするのですか?大津はあなたが何をおっしゃっているのか、何をしたいのかわかりません。早くお家にお返しください。」「わたしは、姫さまの秘密を知っているのですよ。父上の御身が御大切なら、聞き分けて潔くわたしのものにおなりなさい。」ひなびた社の祠の中は、板は張っているもののざらざらと土埃で土間と...

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桃花散る里の秘め 17

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「意地悪を言っただけって……ほんとうですか……?」「……」高坂は黙したまま、視線を落としていた。「高坂殿は、この義高と同じように、きっと大姫さまと親しくなりたかったのです。ただ、方法を誤ったのです。」「安堵しました……」ゴト……と鈍い音がして、脇差が床に落ちた。「お二方……あの……大津は自分が普通ではないと、知っています。」「大姫さま……それは?」「大津には菊や母上のように、胸に丸いまろみがない……いつか、同じよう...

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桃花散る里の秘め 18

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大津を追わせないように、義高は内側からしっかりと刀でつっかいをし、高坂に対峙した。「貴殿の思うように、都合よくはゆかぬ。この上は、評定所(裁判所)に出向き、貴殿の行い、広く問う事とする。貴殿と大姫を追う前に家人に告げて、既にご家老さまには、つなぎを付けてある。」「……そのようなこと、されてたまるか。」じりじりと目線を絡ませた合ったまま、間合いを高坂が詰めて来る。傷口からの出血で義高の着物はしとどに濡...

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桃花散る里の秘め 19

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社の中で、義高はじっと高坂の動向を探っていた。対する高坂も思案を巡らせているようだった。出血は思ったよりも酷いのだろうか。じんじんと熱いだけで痛みはなかったが、目がかすむ。共に三すくみのように視線を絡ませ黙したままだったが、やがて義高が口を開いた。「まだ、大姫さまにはお話して居りませんが、わたしは……いずれは武士を捨て、国境の山中で暮らそうと思っております……」訝しげに見つめる高坂は、青ざめた義高の心...

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桃花散る里の秘め 20

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国家老が社の扉を開けた時、高坂一颯は必死に義高の止血をしているところだった。蒼白の義高が気を失っているだけと知り、思わず安堵のため息をついた。適切に布を当て、細く裂いて胴に巻きつけ手当てをしていた。「高坂殿、義高殿の負ったこの怪我は……?」「この一颯が卑怯なふるまいにて、傷を負わせたのです。仕置きは後ほど存分にしていただきます。今は御手当をお願いいたします。」かしこまって素直に首を垂れる高坂一颯は、...

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桃花散る里の秘め 21

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帰宅して直ぐに義高の元に駆けつけたかったが、侍女の菊に捕まって散々に叱られた。「でも、大津は……早く、義高さまの所に行きたいの……義高さまが心配……」「いけません。何をおっしゃっているのです。そのような格好で、怪我人の元に参っては駄目です。直ぐに湯を使ってお姿を改めていただきます。御髪も埃で真っ白になって……一体、何が有ったのか存じませんけれど、後で、きちんとお話して頂きますからね。」「それは……あの……父上...

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桃花散る里の秘め 22

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大きな父の胸に抱かれる大津に、床の義高は優しい眼差しを向けていた。国家老という藩の重責を担いながら、この男はとても若々しく見える。「大津は知っているだろうか。父上も母上も、お前を唯一無二のかけがえのない子供だと思っている。」「大津は……できそこないだと……前に中間達が噂しているのを聞きました。御家老さまも長く続いた由緒あるご家名を継がせるのが、あのような何もできないできそこないでは心苦しいだろうと言っ...

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桃花散る里の秘め 23

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翌日、大津は父に連れられ、初めて登城することになった。仔細はよくわからぬが、一度会ってみたいと藩主が呼んだのだと言う。必ず大津を連れて登城するようにという使者の言葉に、どこか腑に落ちない物を感じながらもそうしないわけにはいかなかった。「今更、男子の格好でもあるまいな。」国家老は思案の末、結局大津を女姿のまま連れて登城することにした。「お城にいくの?大津も父上とご一緒に……?」「そうだ。大津も殿さまと...

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挿絵 「大津の日記・父上とお城へ行きました」

大津でっす。(〃゚∇゚〃) 父上とお城へ行きました。おいしい「かすてぇら」をいただきました。お殿さまが、大津に「余は好きか?」とお聞きになったので、「かすてぇらの次に好きです。」と言ったら父上に叱られました。おうちに帰って、母上にも叱られました。(´・ω・`) でも義高さまは、笑っていらっしゃいました。なので、今は 義高さま>父上・母上>かすてぇら>お殿さま……の順番なのです。内緒。大津の挿絵を描きました。も...

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桃花散る里の秘め 24 【最終話】

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国家老は晴れ晴れとした顔で帰宅した。「琴乃。やはり、隠居願いは取り下げるようにとの仰せであった。いずれ家名は甥の修二郎に継がせることになるだろうが、大津に関しては、成人後は格別に扶持を下されるそうだ。何でも好きにさせてよいとお墨付きを頂いた。これでわたしも一安心だ。」「そうですか、大津に扶持をいただけるのですか。それは真にようございました。」「こいつめ、殿を南蛮菓子の次に好きですと言いおったぞ。」...

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番外編・桃花咲く里の二人

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BL的性愛表現があります。ご注意ください夜明け前。二人は抱き合って、羽二重の褥の中にいた。明け方の冷える空気に目覚めた義高は、傍らの大津の中心に手を伸ばし、布の上から優しく弄った。薄い夜着を通して、とくんと心の臓の跳ねる音が聞こえる気がした。息を詰める大津の首筋に、義高はそっと唇を当て囁いた。「起きているな?大津。まだ、わたしが怖いか?」小さく頭を振ったのがわかった。手を伸ばしたことは以前にもあった...

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番外編 赤べこ 1

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大津の父、双馬杏一郎の若かりし頃の話である。代々、国家老を務める双馬家に、7歳になる惣領を連れて登城せよとの沙汰が下った。「杏一郎。どうやら、殿はおまえに、若さまの遊び相手をさせるおつもりらしい。謹んでお受けせねばの。」「あい、父上。でも、若さまはお小さくて、まだご一緒には遊べないのでしょう?」「どうかな。わしはまだお目にかかったことはないが、お前と顔合わせだけでもさせておく心づもりなのであろうよ...

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番外編 赤べこ 2

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日々は瞬く間に過ぎてゆく。「急ぎ支度せよ、杏一郎。若君がお呼びじゃ。」真夜中、城中から使いの者が来て、急ぎ登城するようにとの沙汰が有った。「……何事です……こんな夜更けに。」「若さまが、泣いておられるそうじゃ。」「またですか……」12歳になった杏一郎は顔を歪めた。「もう赤子ではないのです。若さまも泣き疲れたら眠るでしょう。明日、藩校に行く前に登城いたしますから、お使者様にはそのようにお伝えください。」「...

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