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Category: わんこと白狐さまの一大事  1/1

わんこと白狐さまの一大事 1

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花菱町には「荼枳尼神社」という荼枳尼天(だきにてん)さまを祀った、小さな祠(ほこら)がある。神社の境内の隅っこにあるその祠に封印されているのは、天駆ける荼枳尼天(だきにてん)に仕える、目が覚めるように美々しい一匹の白狐だった。荼枳尼天(だきにてん)の神使の白狐(男狐)は、この界隈で生きとし生けるものの憧れの的だった。ただでさえ自分より美しいものは認めたくない荼枳尼天(だきにてん)のお気に入りの恋人と...

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わんこと白狐さまの一大事 2

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そんな平和なある日、夏輝が顔色を変えて走って来た。持ってきた回覧板を、ワンルーム(犬小屋)の前で振り回していた。夏輝ってば、子供みたいだ。「ナイト!大変だ。狗寢股神社のあの小さな祠って、今も白狐さまが住んでるんじゃないのか?」「わん。」←住んでるぞ!「取り壊されるかもしれない!」「わふっ?」←まじで!?俺は大家さんがいないのを見計らって、大急ぎで九字を切ると人型になった。「どういうこと?白狐さまは、...

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わんこと白狐さまの一大事 3

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祠が無くなる話が出て以来、白狐さまは、どこか諦めたような寂しげな顔をしていた。実際は神社の丸ごと移転だけど……入れ物は移せても、中身は無くなってしまうんだ。夏輝がレンタルで借りて来てくれた、平成狸合戦ぽん○このビデオをみんなで鑑賞しながら、俺たちは策を練った。断固失敗するわけにはいかないと頭を突き合わせて計画を練り、お社を守る為の手立てを考えたがどれほど考えても良い案は浮かばなかった。だってビデオで...

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わんこと白狐さまの一大事 4

夏輝は、文太と共に駅前で、古いお社(やしろ)を守ろうとスローガンを掲げ、ねじり鉢巻きにたすきをかけて署名活動を開始した。だけど町の人は、小さな荼枳尼神社の片隅に祠があるなんて知らない人の方が多かったし、移設するのなら、それでいいじゃないかというのが大方の意見だった。実際それがどんなに大変な事かわかる人はいなくて、署名してくれる人も、文太の仕事場のおっさん連中位で、悲しいほど本当にわずかだったんだ。努...

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わんこと白狐さまの一大事 5

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父ちゃんは、俺たちがささやかに白狐さまを助けたいと頑張っている裏で、こんな風に手を尽くしてたみたいだ。正直、かなわないと思った。さすが俺の父ちゃん。伊達に長く生きていない。血相を変えて泡を飛ばしながら大学教授が電話を掛けたのは、後で夏輝が教えてくれたけど文部科学省の外局、文化庁というところだった。電話を受けたのは、なんでも文化庁次長とかいう、お笑い芸人によく似た感じの役職の人で大学教授の教え子だっ...

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わんこと白狐さまの一大事 6  【最終話】

俺も負けずに本腰入れて,とうちゃんみたいに番(つがい)の相手を見つけなきゃ。二人を見ていて、俺は真剣にそう思った。大きく足を広げて、父ちゃんの下にいる白狐さまは、銀色の髪も輝きを増している。ついこの間までは、儚く首を落とす紅椿のようだったのが、今やまるで薄暗がりでも灯って見える白木蓮の精のようだった。元々、すごく綺麗な白狐さまだから、今は神々しいと言った方が良いのかもしれない。ぱんと腰を打ち付けた...

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