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Category: 一片の雪が舞う夏に  1/1

一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 1

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真夏の夜に雪が降る。静かに心の内に降り積んで、君を思って無性に泣きたくなった。交わした約束は、きちんと守られるのだろうか。「リツカ・・・いつ、会える?」頬が濡れているのは、空から落ちてきた雨粒のせいだ。涙なんかじゃない。********アルコールにはめっぽう弱い。腹立ちまぎれに、生ビールを中ジョッキで二杯飲んだが酔えなかった。普段なら上機嫌になれるはずが、喉を流れた苦い水は意識を覚醒させるばかりだ...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 2

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苛々した気持ちを持て余し、足元に落ちていた空き缶を軽やかにつま先で思い切り蹴りとばした。元はサッカー部だ、目指す植え込みに見事に命中…したはずが…「ぐっ!」と、鈍い音がした。やばい、人が居た…?「…う…っ」「うあっ!すみませんっ。大丈夫ですか。」ゆっくりと蒼白の顔を向けた少年…いや、青年(かな?)を見て、一気に酔いは弾け飛び散った。街燈の明かりに照らされた、白い顔の唇に滴る一筋の血が見えた。おれが蹴とば...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 3

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拾った青年は、どういうわけかどこか不自然な、時代がかった言葉を使った。「とりあえず、風呂に入ったら?君、、どうやら冷え切っているみたいだし。あの、まさかとは思うけど、さっき頭を打ったせいでおかしくなったとか…?もしかすると、まじで外国人。え~と、ニホンゴ、ワカリマスカ・・・?」「妙なことを問う?生国は…」「あ、いい、いい。日本語でいいなら後にしよう、風呂から上がったら冷たいビールでも飲みながら話を聞...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 4

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そろそろ酔いも醒めて、えらいものを拾ってしまったなとさすがに反省しながら対処方法を考えた。どうやら頭が弱いわけではなく、嘘を言ってる風でもない。という事は、本当に『雪男』ということなんだろう。だけどもしそうなら、直の事このままここにおいて置くわけにもいかないだろう。「は…はくしゅん!」「ぅわ~…何、この設定温度、まじ寒いんですけど~。」そいつが触っているリモコンの温度設定を見て、思わず二度見してしま...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 5

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扉はやはり鍵をかけ忘れていたらしく、開けっ放しだった。思い詰めた表情の三崎が、泣きそうな顔で俺を見つめる。「ああ、三崎。何か大事(おおごと)にしちまって悪かったな。大丈夫だったか?」「先輩…。」玄関先に立ちつくし、そのまま三崎は声を殺して泣きじゃくった。「会社に戻ってください。ぼくの取ってきた仕事一つで、先輩が首になんてなってしまったら、先方になんて言えばいいんですか?顔つなぎしてくれたから、話がま...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 6

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もう少し、綺麗な名前を付けてやれば良かった。いくらなんでも、ネーミングセンス無さすぎだろ、俺…と思ったけれどもう遅い。「こいつな、田舎から遊びに来てたんだが、ちょっと体調崩して寝こんでいたんだ。ほ、ほらっ…まだ顔色が良くないから休んでないとっ、な、ゆきお!」「ああ…雑作をかけたが、すっかり良くなり申した。かたじけ…。」「わ~~~~!!」何ちゅう日本語だ。雪男!俺は焦りまくって、寝室に雪男を放り込んで、...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 7

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日が暮れて、部屋の明かりに照らされた雪男は、驚くほど影が薄く「儚い」という言葉が似合った。乱暴に触れたら、そのままほろほろと雪の塊となって、崩れ落ちてしまいそうだ。長い髪はまっすぐで艶やか、烏の濡れ羽色という風だ。細く白い指が、はらりと額に落ちた一筋の束を指で掬って、優雅な仕草で耳に掛けた。備わった気品というか、清廉とした佇まいはやはりどこか古風で侍のように見える。再放送の時代劇と大河くらいしか知...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 8

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家の中に居るのは、日本髪のまだ若い女だった。背筋をぴんと伸ばした婦人の顔は、どこか雪男に似ている気がする。「よろしいですか?家名に恥じぬ働きをするのです。わかりましたね。」「はい、母上。必ず武功をあげて、お家再興の悲願、こんどこそ叶えてご覽に入れます。」そんな会話でわかるのは、どうやらこの家は武家で、家の主人が何やらやらかして落ちぶれて処罰が下されているらしいということだ。母親と長の別れをしている...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 9

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雨あられと降り注ぐ敵の攻撃を受けて、少年たちの小隊は散り散りとなり、各々悲惨な運命をたどる。真っ白に霞む雪原に、ちびの雪男と源七郎という奴が見えた。雪だまりを真っ赤に染めて、雪男の思い人が重傷を負い倒れ込んでいた。頬を濡らす涙も凍る寒さの中で、雪男も足に銃弾を受けて動けなくなっていた。それでも健気に役目を果たし、源七郎という隊長を励ましているようだ。「源七郎さま、傷は浅うございます。わたくしの肩に...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に10

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一寸先も見えない大雪に敵陣は、一時退却を余儀なくされた。これぞ、天の助けと味方は喜び勇んで一斉退却を始めた。その場に残されたのは、源七郎の首の無い死体と、傷ついたちびの雪男だけだった。ちびの雪男はいざりながら、その場の雪を懸命に掻き分け、とうとう茶色い土の所まで掘った。本当は土も掘りたかったが、土は凍っていて柔らかな子供の生爪は剥がれて(はがれて)それもかなわない。源七郎の仮りごしらえの雪の墓に向か...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 11

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がんがんに冷えた寝室で、おれはそれがいいことか、もしくはいけないことなのか分からないまま、雪男を引き寄せた。雪男が死ぬまで求めてやまなかった…いや、もしかすると今もずっと求めている源七郎という男がここにいたなら、きっと迷うことなくこうしただろう。ちびの雪男が自分がいなくなった後どうなったか知ったなら、絶対こうしたに違いない。源七郎でもないのに、愛おしくてたまらなくなっていた。源七郎が今わの際に、思...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 12

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何となく、雪男にごまかされた気がする。大人なんだか子供なんだか、今一つわからない。「いつか…別れの時に、そなたに告げようと思って居た。おそらく、この一両日中のことになるだろうと思う。そなたの名も聞きたい。」「そうか、出会った途端、もう別れ話だな。」雪男は、くすっと綻ぶように笑った。いくつか、不思議なことが有った。「あのさ、見せてもらったちびの雪男はずいぶん幼くて、今とは年齢が違う気がするけど、何故...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 13

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時間に追われたおれは、雪男から離れシャワーを浴びた。三崎との約束があるから、どうしても出社しなくてはならなかった。だけど、雪男は今にも消えそうなほど儚くなっている。帰宅したら、もう消えてしまって、二度と何の話もできないのではないかと思うほど透明感が増している。家を出るのに、今朝ばかりは、気が重かった。こういう気持ちをきっと、後ろ髪を引かれるというのだろう。「まだしばらくは、…この形が持つと思うから...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に  14

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何だ、この良く出来た大団円。それでも内心、ほっとしたのは確かだった。この世知辛い世の中、職を失わずに済んだのは正直ありがたかった。素直にそう思う。だけど、ほんの少し疑問は残る。この親父はもっとせこくて、根に持つタイプだと思ってたんだが、この豹変ぶりはどうだ?…まあ、いいけど。「うまくいったら一緒に祝杯をあげましょう。でも、このまま何もなかったことにしてしまってもいいんですか?社内で既に噂になってる...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 15

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おれは、三崎に正直に言った。「さあ、話はついた。三崎も裏で、骨を折ってくれたんだろう?おかげで、首がつながったよ。ありがとう。」「いえ。これまでの先輩の働きが認められただけです。先輩の立ち上げたプロジェクトが専務の言葉を借りれば、今は金を産む鶏です。」三崎はおれを見上げたまま、懐の中に居た。その腰におれの手が添えられているのが、ちょっと笑える。普通、男に縋られたら飛んで離れるところなんだろうが、三...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 16

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ひたすら、自宅に向けて走った。脳内では、雪男がぽたぽたと溶けかけた氷の彫刻になっている。早く、早く、早く!ウサインボルトのように世界最速でおれは…、駆けた。あ、そういえばウサインボルトって、世界陸上フライング一発失格だったよな、惜しかった。ともかくまだ聞きたいことはあったし、あの哀しい雪の中の最期から、きりりと鉢金をしめたちびの桃太郎がどうなったのか知りたかった。部屋に飛び込んだが、雪男の姿は見え...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 17

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春も過ぎたころ、反逆の意思が見えなくなったからと、やっと新政府から埋葬許可が下りたそうだ。そこにあっても手を触れられなかった多くの少年隊士の遺体はやっと、遺族の元へ戻った。遺族は小さな木片に名を刻み、わが子が分かるように遺体のそばに印をつけていた。源七郎には多くの者と一緒に、鎮魂の碑が建てられた。だが、身内のいない雪男には墓標はなかった。これ以上は、本当は見せたくない…と、雪男は言う。「きっと目を...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 18

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それは偶然の出来事だったようだ。稲荷山に住むお使い狐は、神仙女王に聞かれて荒れた里の様子を見に降りてきたらしい。神さまが心配するほど、野山は荒れ果て、豊かな田畑は見る影もなかった。じっと自分を見つめる子供の視線に、人の目には映らないはずのお使い狐は気付いた。「あれ?おまえ、何やってんだ。さっさと成仏しちまわないと、悪霊になっちまうぞ。」「いい…。わたしは、ずっと源七郎さまのお傍にいるんだ。」手を曳...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 19

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「リツカ…。」放心したおれは、背後の気配に気が付かなかった。雪男はほんの少量の温い水になり、やがてすぐに蒸発してしまった。雪男の痕跡はもうどこにもなかった。とん…と、背後でかすかな音がして、やっとおれは我に返り振り返った。「あ、三崎…。」「先輩。あの…あのね、約束のお土産持って来たんだけど、遅かったみたいですね…。あの人、消えてしまった…んですね。」「ああ…。六花が溶けた所を、見たのか。」三崎はこくりと...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 20

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ロマンチックな展開を台無しにしたおれは、三崎を追いかけた。階段を身軽に駆け下りる小猿のような三崎を、玄関ホールでやっと捕まえた。ちくしょう、殴られた頬がじんじんする。「こら、逃げるな、三崎。言いたいことがあるなら、逃げてないできちんと言え。」すっぽりとおれの腕の中に収まった三崎は、くると身を返しおれに抱きついてきた。「…薄情で不実な先輩。ぼく…やっぱり、先輩が好きです。」「なんだよ、それ。ひどいな。...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 21

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殆ど初心者みたいなおれは、持っている知識を総動員しながら、じっと三崎を観察していた。薔薇色に染まった三崎は、おれが触れるたびにびくびくと腹の筋肉を波打たせ、身を固くしていた。三崎も、初めてなんだろうか…。聞いたらまた、涙目になって怒りそうだから質問は止めにしておく。おれを受け入れる予定のそこは、固くしまって熱く、ぎちぎちに窮屈な場所だった。ゆっくりと指を入れてなじませるのさえ狭く、指先を食いつかせ...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 22

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翌朝、目覚めると、冷蔵庫のあり合わせで朝食の用意をして、三崎の姿は消えていた。まだほんのりと、インスタントの味噌汁は温かだった。律義に書置きがあった。「おはようございます。家に帰って着替えてから出社します。三崎 深雪」「そういや、あいつの名前、深雪(みゆき)だったな…。」女みたいな名前だと言われて、中学の時に級友と大喧嘩をして廊下に正座させられていたのを見た覚えがあった。これまで苗字でしか呼んだこ...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 23

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雑多な日々を重ねながら、季節はゆっくりと廻ってゆく。足元には、とげのある鈴懸(すずかけ)の丸い実が転がっていた。おれは三崎と二人で、がんがん仕事をし、社内でも揃うと良い働きをすると一目置かれ始めていた。いつか手柄を横取りしようとした上司に成果を報告し、歯の浮いた褒め言葉を掛けられたのにも、余裕で笑顔を返した。「最初に叩いていただいたおかげで、こうやって仕事ができる気がします。ありがとうございました...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 24

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三崎はいつも一生懸命だった。仕事も、おれとの慣れないセクスも、額に薄く汗をしながらも尽くそうとしていた。美しくもなんともない、可愛げのないおれの男性器を口淫する三崎は、いつも自然に頬を濡らし涙していた。好きでもなんでもないやつのモノを、口に含むなんて屈辱的な行為なんだろうが、三崎は涙目でおれを見上げると、この上なく幸福そうに薄く笑顔を浮かべさえした。無理を重ねるそんな様子に、どんどん愛おしさがこみ...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 25

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性急に流れる時を、止める手立ては誰にもない。おれは毎朝、窓を全開にし冷気を浴びながら、西の山に峰雪がかかるのを待った。「西の山に峰雪が積もったら…。」あれは、西の山で待っているという意味じゃない。再び、雪男…思いを残した儚い六花が結晶するはずの、厳しい冬が近づいていた。交わした約束は、きちんと守られるのだろうか。「リツカ・・・いつ、会える?」頬が濡れているのは、空から落ちてきた雨粒のせいだ。涙なんか...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 26

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おれ達が選んだ場所は、有名な観光地にあるリーズナブルな温泉宿だった。ネットで調べるうち、二人の指先が自然に重なってそこを選んだ。きっと意味があると思う。日本中が震撼した、3月に起きた東北地方太平洋沖地震の影響もほとんどなかったそこは、おれたちが旅行を決めたころは、心無い噂の真っただ中で根拠のない風評被害に遭っていた。原発から漏れた放射能の脅威に晒されているなどと、まことしやかに言われ、遠く離れてい...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 27

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夜がほのぼのと明け始めた朝ぼらけ、おれ達は目を覚ました。どちらが言い出したのでもなく、コートを着こんでそっと庭に出た。庭の片隅にある小さな若宮のようなものは、何かを慰霊するため建立されたものだろう。三崎は長い間碑に向かい、黙って手を合わせていた。若宮の背後には、朽ちかけた道標のようなものがあった。「…道標だ。雪男の見せた最後のあれじゃないのか…?」なぁ、三崎、と隣に座り声を掛けたら、三崎はふいにぱた...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 28 最終話

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全てを包み込む北国の雪が、いつかの幼い犠牲者たちを包み込んだように、優しく降り積んだ。地吹雪となって、ごうごうと逆巻く雪は目も開けていられないほどの量となり、すぐ傍に宿があるのにそれすら考えられなくなっている。おれは六花を抱いているのか、三崎を抱いているのかどうか分からなくなっていた。「六花。共に参ろう。」「源七郎さま。常しえにお傍に……。」おれの中から、おれじゃない低い声が響く。嬉しげに胸に掻きつ...

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一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 番外編「契り」と「あとがき」

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「そうではない。もっと優しゅうするのじゃ、柔らかい湯葉を引き上げるような手の返しでの。ふくらみはなくとも、男子の場合も茎を吸ってやる前に、こうして柔らかく解すように弄ってやれば、気が高まる。」「なるほど。」「あ……っん……。」「決して性急に事を運ばず、百合根を指先で解すように丁寧に指の腹で撫でてやると……ほら、小柱のようにぷくりと色を変えて立ってくるのだ。」「おお~……確かに。こうすれば、気持ちいいか?深...

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