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Category: わんこと夜のうさぎ  1/1

わんこと夜のうさぎ 1

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おっす!俺、わんこのナイト。阿波の狗神(父ちゃん)とロシア生まれのボルゾイ(母ちゃん)のハーフで、今は葉山夏輝という人間と暮らしている。夏輝っていうのは、俺のいっとう大切な「かいぬし」なんだ。俺が苦労して仲を取り持った文太と夏輝は、今は一緒に暮らすようになっていた。由緒あるおんぼろアパートの夏輝の部屋に、月初めから文太が転がりこんで来て、夏輝はすごくうれしそうだった。アパートの大家さんが「ルームシェア...

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わんこと夜のうさぎ 2

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人型で河原に向かった俺は、そこで運命の出会いをした。……と言っても、恋の相手じゃない。河原にある小さな土饅頭の前で、立ちつくしたそいつは静かに泣いていた。ああ、誰か大切な奴が死んでしまったんだな。そいつは、本当に哀しそうにそこで佇んでいたんだ。でも、その土饅頭は俺には墓だってわかるけど、丁寧に均(なら)されていたから、誰かが埋葬されているなんて、人間の目にはわからないだろう。つか……なんで、人間なのにこ...

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わんこと夜のうさぎ 3

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見た目はすごく可愛いけど、中身はそう賢そうな感じがしないそいつを連れて、俺はそいつの自宅へ送って行った。「どうしたの、ナイト?ここだよ。ぼくとナイトの家。忘れたの……?」「あ、あのさ、まさかとは思うけど……勘違いしていない?」まじで、土饅頭の下にいるやつと一緒だなんて、思ってないだろうな。俺の名前とそいつの名前が一緒なのかどうか知らないけれど、ちぐはぐな会話にどこか違和感が立ち上る……。あのな、名前が同...

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わんこと夜のうさぎ 4

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「ただいま~!」「ナイト、どこ行ってたんだ。とっくに飯の時間過ぎてるのに。」「お肉もらった~!」俺は貰って来たタッパーを広げながら、今日の不思議な出来事を夏輝と文太に話した。川べりで妙な奴に会ったことと、そいつの家に行ったこと、そいつがいきなり消えたこと。平らな土饅頭のところに佇んでいた悲しそうな奴の事。そして、オージービーフのおばさんの話。食べながら話していると、文太が話を止めた。「……おい、ナイ...

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わんこと夜のうさぎ 5

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「白狐さまー!白狐さまー!早く出てきて。お願いだから。」必死に叫んだら、荼枳尼神社の白狐さまは、祠の奥から神々しい姿を現した。輝く髪と綺麗な顔の位の高い白狐で、俺の父ちゃんの恋人だった。「……仔犬。どうした、血相を変えて……?」まるで情事のあとという風な隠微な雰囲気の神様は、しどけなく引きずりの着物を引き上げながら出て来た。「神さま。お願いがあるの。こいつのこと、見てやってください。」「俺、こいつの飼...

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わんこと夜のうさぎ 6

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俺は何とか持ち直したうさぎのシロを連れて、七糸の母ちゃんの所へ戻った。おばさんは、心配でたまらなかったのだろう家の外で待っていた。「おばさん。シロ、大丈夫だったよ。ちょっと、悲しくてご飯食べられなかっただけだって。」「シロも悲しくて……?七糸がいなくなったこと、わかるのかしら。」「うん。動物ってね、話せないけどちゃんとわかるんだよ。七糸はこれからずっと傍にいるから、もう心配いらないよ。七糸ね、お母さ...

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わんこと夜のうさぎ 7 【最終話】

辺りに馥郁(ふくいく)と泰山木(タイサンボク)の香りが広がり、鼻腔をくすぐる。犬の嗅覚で芳しい神さまの香りをくんと嗅ぎ……俺はまた一つ大人の階段を上ったのだった。一歳を超えて、俺の前しっぽは父ちゃんほどではないけど、ささやかに大きくなってきた。神さまの腋をなぞり、白い胸にある小さな桃色の突起を触った。薄く色のついた胸の中心を手のひらでこねると、神さまは甘い吐息を吐く。白狐さまの白い肌は、人型の目で見る...

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