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隼と周二 聖なる二人の星月夜 中編 

俺は、隼に睡眠導入剤を飲ませた。

「ちょっと風邪気味だから、薬飲んでおいたほうがいいな、隼」

そう言うと何の疑いも抱かず、隼は俺の手から素直にグラスを受け取った。

「ん。周二くんにうつるといけないもんね。お薬、飲むよ」

そっと触れた指先に気付いて、隼の頬が瞬く間に朱に染まる。
何も知らない隼の唇を、今すぐむさぼりたいなどと思っていることを、気取られてはならない。
大人のキスをやっと覚えて、応えてくれるようになったばかりの幼い隼。
隼は俺が何をしようとしているか知っても、変わらずにいてくれるだろうか。

ベッドの上に転がした隼の、薄いまばらな下草の生えかけた滑らかな下腹部に指を滑らせると、俺を見つめる潤む瞳が、なじるように悲しげに歪んだ。
俺がはめた枷に閉じ込められた、隼の叫び声が小さく喉の奥でくぐもって聞こえる。

「周二くん、いや」
「恐いから、やめて」
「お願いだから、これをはずして、優しくきゅっと抱きしめて」

……きっとそう言ってる。
でも、もう決めたんだ。
隼の言葉は聞かない。

軽い薬に眠りこんだ隼の全てを奪って、全世界が盛り上がる恋人達の記念日に、俺の物にするとずっと前から決めていた。
俺の小芝居に騙された隼が、路地裏で必死に俺の首に縋ってきたあの日よりも、ずっと前から俺はおまえのこと好きだったんだ。
うんとガキの頃から、隼だけが俺に愛を教える清らかな天使だった。

緊張に震える隼の下肢に、俺は心からの口付けを送った。
愛おしい双球とその奥のひんやりと湿った秘密の場所に、これから俺を迎えるやわらかい窪みに……。
陸揚げされた魚のように、瀕死となった隼が小さく跳ねる。
いつも俺の邪魔をするGPSの付いた携帯電話は、今頃どこか海の底だ。
酸素を求めてうつろになった隼の瞳に、今映るのは俺だけだ。
今や、俺を咎めるモノはなにもない。
両足の奥に薄く色づく場所に、つぷと指先を飲み込ませた。
奴隷を従えた王のように傲慢に微笑む俺を、蒼白の隼が開いたまま動かせない両足の間から、震えながら見つめている。
語る瞳のその奥に、甘く俺をなじる言葉が聞きたくてそっと枷を外した。

「……か、はっ……こほっ……なんれ、こんあことっ……?」

言葉の代わりに、抱きしめるしかなかった。
なじる視線を受け止められなくて、逃げるように隼の丸い肩に顔を埋めた。
ずっと、ずっと隼が好きだったんだ……。
隼だけを好きだったんだ……。
だから、許してくれ。

懺悔の涙が、隼の肌を転がってゆく。
どうしても、聖夜に隼を抱きたかった。
もう、後戻りは出来ない。

「ごめん……こんなことして、ごめん。今更、どうやって隼に好きだと伝えたらいいかわからない。クリスマスに……隼と一晩中一緒に居たい」
「……ね。こえ、ほろいて」

呂律の回らない声で、隼がねだる。

「いいよ……周二くん。ぼく……ぼくもね、周二くんにプレゼントがあるんだよ」

隼はもってきた鞄の中から、小さな箱を取り出した。

「サンタさんから、プレゼントを預かってきました」
「これ?何だ?」
「ん。いい子にはサンタさんが来るんだよ」
「俺、いい子じゃないぞ」
「周二くんは、いい子だよ」

周二の腕の中できっぱりと言い切る隼が、差し出した箱の中には、赤いヴェルヴェットのリボンが付いたチョーカーが入っていた。

「チョーカー?鍵……が付いてる?」

「ニュープリンセス・ホテルのスイートだよ。これね、クリスマスに限定3組しか取らない和風別館の玄関の鍵なの。ぼくね、周二くんと二人きりでクリスマス・ディナーしようと思って、木本さんに前借りしました」

赤いヴェルヴェット・リボンのチョーカーを自分で首に巻き、ちりんと鈴を鳴らした。

「ちゃんとしたプレゼントには、リボンを掛けなきゃいけませんって、パパが言ってたよ。相手に気持ちが伝わりますようにって、願いを込めるの。これも……つけて、周二くん。でも……そっと、してね。痛くしないでね」

舌先で転がして育てた隼のささやかな尖りに、光るクリップをそっと挟み込む。
ヴェ―ルを被せたら、トルコの後宮の女みたいだ。(いや、知らないけど。何となく雰囲気で)
煌く七色のクリアビーズを指ではじいたら、小さく息をつめた。

「や……ん。じんじんする~、痛くしちゃ、だめです~」
「ばか。こういうのは、痛いのも癖になるんだよ」

本当は穴を開けて、ニップルピアスを付けてやりたいくらいだけど、痛いのはかわいそうで俺にはたぶん出来ない。
白い象牙の肌に映える、赤いヴェルヴェット・リボンのチョーカー……
大胆すぎるぜ。

「周二くん。クリスマス・プレゼントです」
「おお~、まじかよ隼。すげぇ……可愛い」

全ての恋人達を祝福して、サンタクロース。
細い茎にも、きらきらの飾りが煌いてふるふると勃ち上がり俺を誘う。
隼が俺を誘う日が来るなんて、考えても見なかった。
細いリボンで巻かれた先っちょが、ちょっとだけ……あれ、濡れてるんじゃね?
隼が、リボンより赤く頬を染めて俯いた。

「見ちゃ、や……だ」
「ちびっちゃったかも……。おトイレ行きたくないのに、変なの」
「これ、先走りっていうんだぜ。愛してくださいって、隼のちび太が言ってる」
「ぼくの、ぞうさんが?ぱお~……優しくしてね」
「隼―――――っ!ホテルに行くまで待てないっ!いただきますっ!」
「きゃあっ」

だけど二人にとって世の中は、いつもそんなに甘くなかった。




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