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隼と周二 大人の階段上ります 2 

ぱたぱたと、生徒会長の後を追った。
ぼくは生徒会執行部の書記を務めている。
書記は余り話をしなくてもいいから、先生に薦めらるまま仕方なく引き受けた。
ぼくは一応数字に(だけ)は強いので、生徒会の予算に関しては執行部の誰よりも詳しい。
だからだろうと思う。
先生方がおっしゃるには、生徒会長は我が校始まって以来の知能指数で、飛び級可能なほど頭脳明晰らしい。
全国模試もトップクラスの、類希な優秀な生徒会長だそうだ。
すごいね。
長身で中学では水泳の記録を持っていたとかで、声をかけられただけで、きゃっきゃと女の子たち大騒ぎしてる。

「出納帳見たいんだけど、すぐにわかるかな?」
「はい」
パラパラと10月分の台帳をめくっていると、背後から生徒会長が覗き込んできた。
手元の台帳に顔を寄せて、しばらく数字を眺めた後ぼくの肩に手を乗せた。
耳元に息がかかる。ん?会長……?
「体育祭に関しては、生徒会からは後夜祭にお金を出してます。アーチなどは、体育委員の方に別予算が付いているので……あの。顔、近いです」
「沢木。ぼくはね、君がそんな恰好の悪い妙なセンスの眼鏡をかけてることが、最初不満だったよ」
「予算のことを、え、めがね?ですか?」
パパが選んだ眼鏡が奪われ、視界がいきなりぼやけた。
「でもね。そのうち、眼鏡の下のこの可愛らしい顔に気が付く人間が、そう多くいないことをうれしく思うようになったんだ」
「会長?あの、目も見えないけど、話も見えないです~」
「沢木。君ね最近、木庭周二を目で追っていることが何度もあるね」
一瞬、頬が熱くなったが精一杯知らぬ風を装って、そうですかとだけ答えた。
「ああいう輩に惹かれるのは、幼い証拠だよ。君はもう少し、利口になったほうがいい。意識していないのかもしれないけど、惚けた目で眺めているのを目にするたび、こっちが不愉快になる。」
「不愉快だなんて……」

何の迷惑も掛けていないのに、そんな風に言われるのは心外だった。
生徒会長はちょっとむっとしたぼくの手を引き、立たせると窓際に押し付けた。
肩を押し付けたまま、自分の制服のボタンを片手で器用に外しはじめた。
「この部屋は、西日が射すから少し暑いね。沢木もおでこが汗ばんでる。君も脱ぐ?」
「ぼ、くは別に、暑くないですから仕事を続けます」
どこか不自然な会話をやり過ごし、からと窓を開け外の熱気を吸い込んだ。
眼下に、周二くんが帰って行くのが見える。
視界はぼやけているけど、シルエットだけでわかるのが不思議だ。
「来なくていいから」
どうしてあんなこと言ったの?
今朝の言葉を思い出したら、胸にひんやりと冷たい風が吹いた。
それに今日は、一度もこっちを見なかった。
顔も見たくないほど、ぼくのこと怒ってるの?
「しゅう、じくん」
小さくなってゆく背中を見たら、鼻の奥がつんとしてじんわりと泣きそうになった。
どうしてだろう。こんな気持ち初めて。
「ほら」
先輩が上着に手をかけた。
「やっめてください、せん、ぱっい。ほんとに暑くないですから」
「何?ぼくがこわいの?誰か、呼んでみる?」
見つめる視線は、外されなかった。
思わず背中を向けたけど、後から手が伸びる。
「沢木……忘れたの?生徒会室は、人望あるぼくが旧校舎に移動願いを出して、受理されたんだよね。君が、さっきも目で追っていたの、木庭?だっけ。彼がいつも女の子を連れ込んでセクスしてた、人呼んでラブホ部屋だろ、ここ。持ち主は変わっても、用途を変える事はないだろう?」
「わ……」
忘れてた。
ここがそんな風に呼ばれていたこと。
だって、周二くんはぼくが獣みたいなイク声をこわがったら、あれから女の子と学校でえっちしないって言って、本当に約束を守ってくれたから。
あれからこの部屋に、周二くんの姿を捜しに来ることもなかった。
携帯の番号も交換したから、今はいつでも声が聴ける。
「あの。用途を変えないって、どういう意味ですか?」
「ぼくも彼と同じ理由でここを使うということだよ。空調がないけど、元視聴覚室は防音も完璧だし、先生方もまず来ないし好都合だからね。内から、鍵もかかるし」
くす……と、爬虫類の目が細められ細い舌が上唇を舐めた。
先輩の背中で、カチャリと密室が作られた。

「いただきます」
「きゃあぁっ」



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