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隼と周二 ホワイトデーは「shifuto」へ行こう 1 

沢木 隼(さわき しゅん)

人と関わることが苦手で、口下手。年齢よりも幼く見える高校生。
父親の職業は刑事、溺愛されている。
同級生の木庭周二と恋人どうし。
ひどい近視と乱視で、ダサいメガネをかけているが、素顔は絶世の美少年。

木庭 周二(こば しゅうじ)

木庭組4代目。
沢木隼を子供のころから愛し、秋にやっと恋人同士になった。
隼の父親に、いつも恋路を邪魔されている。
スカウトされて、モデル業も行っている。
いまだに一線を越えられない、不憫な高校生。

伽耶(かや)

隠れ家的大人の玩具屋「shihuto」のオーナー。
表向きは、雑貨店「shihuto」の経営者。





隼がうれしそうな顔をして、駆けよってくる。

「周二くんっ、今日の放課後、雑貨屋さん「shihuto」に行くんだよねっ!」
「おうっ」
「ぼくね。すっごくすっごく楽しみにしてるの。雑貨屋さんって初めて行くから」

大きな丸い目をした隼が、ダサい眼鏡のせいで小さくなった瞳を輝かせて、周二の顔を覗き込んだ。
周二はそっと眼鏡をずらして、可愛い顔の頬にそっと小鳥のキスを贈った。

この間のバレンタインデーに隼にもらったチョコレートのお返しをしたいから、一緒に買い物に行こうと誘ってあった。
バレンタインデーに隼にもらった、大笑いの……じゃなかった、過去にゆるキャラグランプリ一位に輝いた渾身のバリーさん……いや、隼の手作りの阿弥陀如来は、松本が一口かじったまま冷蔵庫に入れてある。

どこでどうなったのかわからないが、隼は周二に何か肌身に付ける物をあげたいと考えたらしい。
いつも、どこかいろいろ間違っている可愛い隼と、周二の初めての甘いホワイトデーがやってくる。
今度こそ、恋人同士は誰にも邪魔されずに、甘い一日を過ごすのだ。

放課後、一目散で駆けてきた隼と周二は早速雑貨屋「shihuto」へと向かった。
今や、二人の周囲では大人気の店だ。
木庭組のシマでもある2丁目に、開店したばかりの洒落た構えの店は、季節の花がプランターに彩りよく植えられて客を待っている。
店外は小さなオープンテラスになっていて、一日限定数組だけオーナーの手作りのシフォンケーキと飲み物で時間を過ごすことができた。
シルクの白いシャツに、細い黒いパンツ。長いソムリエエプロンを巻き付けた細身のオーナーは、立っている姿さえとても優雅だ。
店の外から覗きこむ女の子達に視線をむけただけで、彼女たちは大騒ぎする。

周二はオーナーに無理を言って、隼のためにマンモスイチゴと生クリームを添えたシフォン・ケーキを頼んでいた。

「ぅわあぁ~~~っ!ぼくの好きな、マンモスイチゴ~」
「おれのも、食え、隼」
「きゃあっ。おっきぃ……あむっ」

無自覚にエロい言葉を口走りながら、隼は口の周りに生クリームをつけて幸せそうだった。
周二は幸せそうな隼を見やりながら、オーナーに目配せをした。
オーナーは、小さく指で丸を作って、入荷したよと合図をくれた。
雑貨屋のオーナーは、長い髪を流して、優しい笑みを浮かべている。
髪をかき上げる細い長い指が、とても印象的だった。
そっと二人に近づいてくると、周二にだけ聞こえるように小声で囁いた。

「あの子が君のいい人なんだね。白い肌に映えるから、「あれ」はきっと、あの子に良く似合うと思うよ」
「あざっす」
「バイトの子が入ったから、店を任せてくるよ。二人でこっちの隱し部屋に来てくれる?」
「あ、はい。隼、ちょっとこっち来い」
「なぁに~?」

女の子たちがたむろする、明るい流行りのセンスのいい店の奥には、大人の男たちの集う秘密の隠し部屋があった。
特別な人だけが、新しい品物を見たり試したりできるのだ。
俗にいう、隠れ家的大人の玩具屋「shihuto」が併設されていた。

「これが、頼まれていたものなんだ。気に入るといいんだけど。」

周二が雑貨屋の奥の部屋で受け取った物は、肌に直接つけるボディクリップだった。
特別な透明の青い箱には、流行りのツインハートが入っている。
クリアビーズの輝く二つのクリップの端には、長いチェーンが付いていた。
隼のささやかな胸に煌めいた飾りを付けたら、どれだけ映えるだろうと思う。
何も知らない幼い隼は、きっと胸の疼きに耐えられず、周二の名を呼び身悶えるだろう。
痺れる感覚に、周二の妄想は燃え上がった。

「これ、取って……周二くん。じんじんするの、やなの。……痺れるの、怖いよ」
「隼。でも、いやじゃないだろ?」
「……んっ……」

腕の中の隼は、潤んだ瞳で見あげると、きっとそう言う。

周二が育てた薄い突起がある隼の平らな胸に付けるのは、体に傷をつけない輝くクリスタルのゆれるボディ・クリップ。
隼が裸身に付ける物は、あの青い星の瞬きのように光を弾く、ツインハートだけなのだ。
二つの縛めに決して触れないように、隼の腕は後ろにまとめて一つにして置く。
カチャリ……
二人には懷かしい金属の枷がそこにあった。
出会った時から、二人をつないでいたのは金属の鎖だった。
初めて枷に繋がれた時、隼は涙を浮かべ周二の胸で心細さに泣いた。

「ほら、隼。これ懐かしいな」
「周二くんの所で、めのほようのお仕事するときに、ぼくが逃げないようにって周二くんが使ったんだよね」
「ああ」

隼はどこか懷かしむような目をして、周二の顔を覗き込んだ。

「今は痛くないように、ふわふわの付いたやつだけど、初めのころね、ぼく毎日悲しかったんだよ」
「そうか?」
「うん。もうパパに会えなくなると思った。周二くん、ぼくのこと、借金が返せなかったら売っちゃうって言ってたもの。手首は擦れて痣になったし、痛くて怖くて泣きたかったけど、我慢したんだよ」
「そうだな。隼は強いもんな。」
「うん。だって漢(おとこ)ですから~」

手に入れた宝物に、周二は頬を寄せた。




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