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十二支 猫とねずみのお話 

昔々。

地上の動物たちをお創りになった神様は、年の暮れに皆を集めて告げました。

「もうすぐ新しい年が来るね。元日の朝、みんな、神殿にお参りにおいで。寒い時だけれど、早く来た12匹にはいいことがあるよ」
「いいこと……?」
「なぁに?」

動物たちは顔を見合わせました。
小さなねずみが手を上げて質問しました。

「神さま。いいことって何ですか?お正月に何かくださるの?お年玉とか?」

神さまは美しい花の笑顔を向けて、こぼれるように優しく微笑みました。

「早く来た12匹の動物の代表をね、それぞれ一年間かわるがわる「大将」にしてあげようと思ってね」

ねずみは不思議そうな顔をして、隣にいた動物に聞きました。

「たいしょう……?ってなぁに?それって、おいしいのかなぁ?」

そこにいた牛は、何も知らないねずみに教えてくれました。

「ばかだなぁ、大将っていうのは一番偉いということだよ」
「一番偉いの?ふ~~ん……」

こいつ、何もわかっていないな、と思った牛は言葉を続けます。

「お前、虎と話したことあるか?」
「とらさん?ないよ、大きなお口が、こわいもんっ」
「馬は?」
「うまさん?優しそうだけど傍に行くと、潰されそうだからいや」
「大将ってのは、お前が話もできない大きな動物たちに、どんな命令だってできるんだぜ」

ねずみは瞳を輝かせて、口をぱくぱくさせています。

「ほ、ほんとーーっ?」
「ああ。おまえが大将になったら、一年間みんながおまえの置物を玄関に飾り、お前は一躍有名人(?)。誰もが右を向けと言ったら右を向くし、えさを取って来いと言えばえさも運んでくれるだろうよ。衣も一番上等の毛皮を、神さまから貰えるんだ」
「牛さん!おれ、たいしょうになりたいっ!」
「おお、頑張れよ。夢は大きい方がいいのさ」

牛は決心を固めたねずみに声を掛けた後、もう明日のために出かける準備を始めました。
歩く速度が遅いので、牛は早く出発することにしたのです。
ねずみは、牛に頼んで一緒に連れて行ってくれるように頼みました。

「ねぇ、牛さん。おれ、どうしてもたいしょうになりたい。おれには、牛さんみたいな力もないし、体も小さいから神さまの「たいしょう」になって自信を持ちたい」
「そうか。だったら、一緒に行こうな。神さまの神殿までは相当の距離があるから、頭に乗せて行ってやるよ。12番目でもいいから、大将に入れるといいな」
「うんっ!」

支度をするため、大急ぎで家に帰るねずみに、通りかかった猫が声を掛けました。

「あ!おい、ねずみ。おまえ、神さまのところに行くのか?」
「あ、猫さ……ん。こんにちは」

ねずみは、乱暴者の猫が少し苦手でした。
いきなり物陰に引きずり込んだり、口を吸ったり、あちこち撫で回したりするのです。
ざらざらした舌で、ちっぽけな前のおしっぽや、喉元を撫で上げられると泣きそうな気持になりました。

「この間、神様がみんなに出て来いって言ったの、いつだっけ?あの日、俺、寝坊しちゃってさ話聞けてないんだ。お前、おぼえてる?」
「え……と。元旦の次の日だったかな」
「そっか。おまえも行くんだろ。一緒に行くか?」
「う、うん……行くよ。でも、もう牛さんと一緒に行くって約束したから、ごめんね」

ねずみは猫に、うっかりと嘘の日付を告げてしまいました。
その場から早く立ち去りたかっただけなのですが、あまりに浅はかな行いでした。

後から出かけた猫は、とうの昔に元日の宴が終わり、12匹の動物たちがそれぞれ大将となったのを知ってしまいます。

「あの野郎――――っ!八つ裂きにして食ってやるーーーっ!」

猫は爪を研ぎ、ねずみを探して走り回りました。
ねずみは、猫が毛を逆立てて怒り、自分を探し回っていると聞き怖くて真っ青になりました。

「きゃああーーーーっ!神さまーーーっ!助けてーーーーっ!」

小さなねずみが恐怖に震えながら、必死に転がりこんで神殿に来たのを、神様は手のひらに掬い上げるとどうしたねと、問いました。
ねずみは自分が悪いんですと、泣きながら正直に話しました。

「え~ん……猫さんが……猫さんが、おれを食うって……」
「そういえば、おまえは元旦に神殿に来た時も、牛に連れて来てもらっていながら、一番に来たのはわたしですと言ったんだったね」
「は……い。ごめんなさい。牛さんが優しいのをいいことに、おれはずるをしました」

ねずみは、くすんと鼻をすすりました。

「ちゃんと、猫に謝るかい?」

神様の言っている意味が分からなくて、ねずみは困っていましたが頷きました。
自分が悪いのは、わかっていたのです。

「しばらくの間、おまえと猫を人型にしてやろう。いいね、きちんと謝っておいで」
「猫は、お前のこと大好きだから、食い殺したりはしないだろうよ。早く、行っておいで」

神さまは、ねずみを人の形に変えると、そっと頬に触れて笑いかけました。

「おやおや、こうしてみると、おまえはずいぶん可愛らしいね」

ねずみは神様にきちんと衣服のこしらえもしてもらって、おずおずと猫の家にやってきました。
麗しい水干姿の美童になったねずみを見た猫の喉が、ごくりと鳴りました。

「猫さん。いつかはごめんなさい。あの……いっぱい、ごめんなさい」

小さなねずみは可愛らしい稚児になって、煌めく瞳に涙が溢れんばかりになっています。
同じ目線に下りると、猫はねずみの頬をつつき神さまの心尽くしの着物の襟にするりと手を掛け、解きました。

「ね……こさん?」
「ごめんなさい、だろ?お前のおかげで、俺は結局十二支の仲間にも入れなかったんだからな」
「はい。ごめんなさ……あっ!」

猫はねずみを抱きすくめると、ざらついた舌で頬を撫で上げました。
ねずみは背筋に何やら甘いしびれを感じて、その場にへなへなと座り込んでしまいました。

「ね……こさん?食べちゃ……や。食べないで」

震えながらその場に丸くなってしまったねずみの着物をそっとすべり落とすと、猫はねずみにささやきました。

「俺がこわい?」
「う……こわくない……」

いつしか剥かれてねずみは真っ白な裸体を晒し、かたかたと錦の衣の上で震えています。
胸に引き寄せ、そっとついばむように薄い唇をつつくと、猫はねずみが怯えないようにそっと首筋に息を吹きかけました。

「人型になると、こんなになるんだな、お前。すげぇ可愛い」

後ろ足の間にあるちっぽけな紅色の細茎がほんの少し持ち上がって、猫の口の中に吸い込まれてゆきました。

「猫さん、猫さん……ね、こ……んっ……おしっぽの先っちょ咬んじゃだめ」
「これは、しっぽじゃないだろ、ほら。力抜きな」
「はぁ……ふぅ……いや、いや」

ねずみは、猫にこんな風にされるのを、自分が騙したからだと思っていました。
一生懸命我慢していましたが、歯を食いしばってもほろほろと涙は胸に落ちるのでした。

「怖くないだろ?ほら、膝を抱えてころんってして、こっち向きな」
「ごめんなさい、猫さん、ごめんなさい」
「もう謝らなくていいからっ!ほら、諦めなって」
「猫さん、こわいよぉ……食っちゃやだぁ!」
「だから、食わないって言ってるだろ。いや、食うのか?」
「え~ん、やっぱり、おれのこと食うんだ~……」

物陰に引きずり込んだり、口を吸ったり、あちこち撫で回したり、これまで散々してきたのに、ねずみは自分の気持ちを何もわかっていないと知って猫はがっかりしていました。
押し倒して弄っても、薄く涙を浮かべてあんあんと鼻を鳴らしながら、赤い顔で泣いているばかりなのです。
そればかりか愛撫に焦れたねずみは、とうとうかぷりと猫を咬んでしまいました。

「いってえぇーーーーっ!!」
「あっ!てめぇーーっ!歯型つけやがった」
「いや~ん」

猫はねずみを追い詰め、ねずみは逃げようと必死になっています。
神さまは、遠くの神殿で楽しそうに地上を眺め、ふっと印を結び二匹をもとの動物の姿に戻してやりました。

「あぁ、可愛いねぇ。猫とねずみが追いかけっこしているよ」
「お前もご覧よ……って、ああ、無理か。」

神さまの褥には、新しい年の「大将」が顔を伏せていました。

人型の兎がお召しを受け、ふしだらな後孔をしどけなく潤ませて、烈しく息をついていたのです。
「大将」には、神様のご寵愛を受けるという意味もあったのです。
お手付きの動物は、特別な存在として皆に崇められ、大切にされるのです。
滑らかな白い兎の毛皮は、まるで清らかな白銀の新雪のように輝いていました。

「神……さま。あの幼いねずみも、いつかはお召を受けるのでしょうか?」
「そうだね。姫初めはお前と済ませたから、次はあの子とお前とにしようよ。どちらが、上手く啼くだろうね」

あんあんと啼きすぎた兎の眼は期待に潤み、その日からずっと赤くなりました。

遠い、昔々のお話です。




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