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隼と周二 愛犬志願 3 

パパ沢木の冷酷な声が響く。

「ずいぶん、楽しそうじゃね~か。俺も仲間に入れてくれよ……なぁ?」
「ひぃっ。すんません!ホントすんません!」

もう見慣れた、何度目かの土下座の風景だった。
マル暴担当、沢木刑事が顔を出したとき、最愛の息子は隣の部屋で、真っ裸で手錠を嵌められ首輪をつけられていた。
しかもご丁寧に、逃げられないように皮鎖でベッドの足と足首がつながれているという有様だった。
「なんで、こういうことになってるんだ?隼。説明できるか?」
聞かれた隼は、あっさりしゃべってしまった。
「ん~とね、隼はね~、今日から周二くんのお家の番犬になりました」
「犬?だぁ?」
「そうなの」

その後、
「漢(おとこ)は、自分の落とし前は自分で付けるものでしょ?だから、ぼくは覚悟を決めました」(`・ω・´)きりっ!←隼
などと、隼が可愛い顔してきりりと決心を告げていたけど、絶対沢木は聞いてない……と思う。
「ほ~ぉ。で、郵便配達員が来たり、ガスの集金人が来たら、俺の隼がわんわんて知らせるのか?あぁん?随分、思い切った考えだな、野獣」
「すんません!ホントすんません!」
ひんやりとした冷たい空気が流れ、周二は生きた心地がしなかった。
「おいたが過ぎると、そろそろ本気でお仕置きやっちゃおうかなぁ。口で言っても分からなきゃ仕方がないよなぁ」
その仕置きの意味を知る、木本は蒼白になって沢木を見つめていた。
「あの、沢木の旦那。これはほんのお遊びで……元々、ねんね……隼坊ちゃんがご自分で借金を始末するって言い出した話なんです。決して、無理強いしたわけではありません」
「木本も、言うようになったなぁ。そういや、お前にもおいたが過ぎて仕置きしたこと有ったなぁ。若頭代行になったころだっけ。あん時は確かやりすぎて病院に世話になって……」
「すんません!ホントすんません!勘弁してくださいっ!」
沢木が全てを言い終わらないうちに、木本は平身低頭で床に這いつくばった。
「沢木の旦那に顔向けできないような真似は、決してやりません」

そして、話をする間向こうに行ってろといわれた隼は、今、たらたらと脂汗に浮いていた。
「あれ、どうしたんだろう、ぼく」
下腹に、差し込むような鈍痛が走った。
「しゅうじくん……た、助けてっ」
それは、誰も気付かないほんの微かな声だったが、周二はまるで犬のように聴覚を働かせて隼の元に走った。

「隼っ!?どうしたっ!」
「お、おなか痛いよ。しゅう、じくん」
クーラーの冷気は、普段どおりだったが真っ裸の隼には強すぎたらしい。
ぐったりと顔色をなくした隼を抱えて、周二は地球の真ん中で愛を叫んだ。
そういえば、以前にも叫んだ。
状況が似てるのだから、気づけばいいものを、残念ながら周二は動転してしまっていた。

「死ぬな、隼!俺をおいて、死ぬな!うわ~~~!」
「あ、しゅう、じ……くん……」
縛められた両の手が、力なく空をかいて身体の横へ流れた。
目尻から、つっと涙が一筋、顎に伝う。
切なく、眉がひそめられきつく瞼が閉じた。
「どうした!隼!目を開けろ、隼!」
「だめっ。も、限界。でちゃうっ」
「隼~~!!!死ぬな、隼~~~!!」」
「あっ、おしりが。きゃあっ」

どこかで何かが、ぴりと裂ける音がした。



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