小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・51
洸兄ちゃんが一緒だったからお終いの頃にはぼくも少し慣れた。
お兄ちゃん達に、もう一度お辞儀をして、さようならと別れを告げた。
「みぃちゃん、ほんとに小さくて可愛いなぁ・・・」
「あ~、いっそ、お持ち帰りしてぇ~。」
「りかちゃん人形の実写化みたいだもんな~。」
「くそぉ、松原兄弟、二人とも別れちまえっ!俺にくれっ!」
悪態をつくお友達の前で、洸兄ちゃんはぼくを抱き上げると、ほっぺたにちゅっと音を立てて、軽く小さなキスをした。
「あ。」
ほっぺたが、真っ赤になったのが分かった。
「みぃ。はい、お兄ちゃん達にバイバイして。」
素直に手を振って別れたあと、洸兄ちゃんは朱里兄ちゃんに
「やりすぎだろ、ばぁか。みぃに、キスまですんなよ。俺だって、したい。」
と、言われていた。
恋人同士なんだから当然だと、洸兄ちゃんがすごく真面目に言うのがおかしかった。
こわごわ女の子になったけど、不思議と誰にもばれなかったみたいで、ぼくはとても不思議な気持だった。
夢に見た白いワンピースを着て、誰にも遠慮せずにくるくる回ってスカートの裾を広がらせてみた。
「その内、俺等が叔父さんに、みぃの話をしてやらなきゃいけないんだろうな。」
「こんな違和感ないんじゃ、やっぱりそうとしか思えんよな。」
「翔は気が付いてるのかな?」
「どうだろう、入学式のとき泣いたのは知ってるはずだけど。」
洸兄ちゃんと朱里兄ちゃんは、ふたりで内緒話をしてた。
ぼくは二人から離れて、朱里兄ちゃんの彼女さんと手をつないで、道路の端っこの段差の所を歩いていた。
履きなれない可愛い赤い靴。
白いレースの付いた靴下。
カールした睫毛。
栗色の長い髪の毛。
ほんの少しの初めての女の子の変装が、ぼくの中の何かを変えた。
「オンナノコミタイナぼく」が「オンナノコ」に、なりたがっていた。
このままでいたい。
でもそれは、きっと言ってはだめなこと。
パパが出張から帰る前に、シンデレラはおうちに帰ってドレスを脱いで、きちんと男の子に戻らなくてはならない。
その後、ゲームセンターに行って遊び、朱里兄ちゃんが彼女さんとお揃いのネックレスとリングを買った。
そして、ぼく達の帰宅時間は、パパの帰ってくる夕方に近かった。
「みぃ、大丈夫。まだ叔父さん帰ってないみたいだ。」
12時の鐘が近くなって、シンデレラと王子さまは少し慌てていた。
「早いとこ、シャワー浴びて化粧を落としちまわないとな。こんなところ、みられたら大変。」
慌しく帰宅して、大急ぎで風呂場に直行しようとしたとき、最後の審判が下るように玄関が開いた。
「ただいま。」
「あ。」
瞬時に血が下がり、凍りついた空気を、ぼくは一生忘れない。
心臓が、どくんと高く跳ねたきり、止まってしまうような気がした。
「ああ、洸。来てたのか。お友達か・・・?」
流れた視線がぼくを捕まえて、一瞬、パパの目の形が歪んだ。
「おまえ・・・?」
「海広なのか?何を、やってるんだ・・・?そんな恰好して?」
「パパ・・・」
ぼくが、そうっと後ずさって風呂場に消えようとしたとき、パパは脱衣場の中まで追ってきて、鍵をかける前にぼくを引きずり出した。
「あっ。」
「どういうことだ!いますぐパパに分かるように説明しなさい。」
ぼくは顔色を無くして顔を覆ってしゃがみ込み、洸兄ちゃんはぼくを庇ってパパの前に仁王立ちしていた。
「ごめん、叔父さん。みぃを怒らないでやって。」
「ちょっとした、遊びだったんだよ。」
「ぼくが頼んで、みぃに無理矢理彼女の真似事をさせたんだ。」
「友達に見栄を張って、誰にも頼めないから仕方なくみぃに頼んだんだ。みぃは、何も悪くない。」
パパの視線は、ぼくに向けられたまま外されなかった。
「パパ・・・ご、ごめんなさい・・・」
かすれた喉から出た言葉は、余計にパパを激しく怒らせたみたいだった。
あっさり笑い飛ばせば良かったのかも知れないけど、ぼくはパパの険しい視線に凍り付いていた。
大変ですっ!一番内緒にしておかなければならなかった、パパに「オンナノコ」の恰好がばれてしまいました。
みぃくん、危うし。 此花
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お兄ちゃん達に、もう一度お辞儀をして、さようならと別れを告げた。
「みぃちゃん、ほんとに小さくて可愛いなぁ・・・」
「あ~、いっそ、お持ち帰りしてぇ~。」
「りかちゃん人形の実写化みたいだもんな~。」
「くそぉ、松原兄弟、二人とも別れちまえっ!俺にくれっ!」
悪態をつくお友達の前で、洸兄ちゃんはぼくを抱き上げると、ほっぺたにちゅっと音を立てて、軽く小さなキスをした。
「あ。」
ほっぺたが、真っ赤になったのが分かった。
「みぃ。はい、お兄ちゃん達にバイバイして。」
素直に手を振って別れたあと、洸兄ちゃんは朱里兄ちゃんに
「やりすぎだろ、ばぁか。みぃに、キスまですんなよ。俺だって、したい。」
と、言われていた。
恋人同士なんだから当然だと、洸兄ちゃんがすごく真面目に言うのがおかしかった。
こわごわ女の子になったけど、不思議と誰にもばれなかったみたいで、ぼくはとても不思議な気持だった。
夢に見た白いワンピースを着て、誰にも遠慮せずにくるくる回ってスカートの裾を広がらせてみた。
「その内、俺等が叔父さんに、みぃの話をしてやらなきゃいけないんだろうな。」
「こんな違和感ないんじゃ、やっぱりそうとしか思えんよな。」
「翔は気が付いてるのかな?」
「どうだろう、入学式のとき泣いたのは知ってるはずだけど。」
洸兄ちゃんと朱里兄ちゃんは、ふたりで内緒話をしてた。
ぼくは二人から離れて、朱里兄ちゃんの彼女さんと手をつないで、道路の端っこの段差の所を歩いていた。
履きなれない可愛い赤い靴。
白いレースの付いた靴下。
カールした睫毛。
栗色の長い髪の毛。
ほんの少しの初めての女の子の変装が、ぼくの中の何かを変えた。
「オンナノコミタイナぼく」が「オンナノコ」に、なりたがっていた。
このままでいたい。
でもそれは、きっと言ってはだめなこと。
パパが出張から帰る前に、シンデレラはおうちに帰ってドレスを脱いで、きちんと男の子に戻らなくてはならない。
その後、ゲームセンターに行って遊び、朱里兄ちゃんが彼女さんとお揃いのネックレスとリングを買った。
そして、ぼく達の帰宅時間は、パパの帰ってくる夕方に近かった。
「みぃ、大丈夫。まだ叔父さん帰ってないみたいだ。」
12時の鐘が近くなって、シンデレラと王子さまは少し慌てていた。
「早いとこ、シャワー浴びて化粧を落としちまわないとな。こんなところ、みられたら大変。」
慌しく帰宅して、大急ぎで風呂場に直行しようとしたとき、最後の審判が下るように玄関が開いた。
「ただいま。」
「あ。」
瞬時に血が下がり、凍りついた空気を、ぼくは一生忘れない。
心臓が、どくんと高く跳ねたきり、止まってしまうような気がした。
「ああ、洸。来てたのか。お友達か・・・?」
流れた視線がぼくを捕まえて、一瞬、パパの目の形が歪んだ。
「おまえ・・・?」
「海広なのか?何を、やってるんだ・・・?そんな恰好して?」
「パパ・・・」
ぼくが、そうっと後ずさって風呂場に消えようとしたとき、パパは脱衣場の中まで追ってきて、鍵をかける前にぼくを引きずり出した。
「あっ。」
「どういうことだ!いますぐパパに分かるように説明しなさい。」
ぼくは顔色を無くして顔を覆ってしゃがみ込み、洸兄ちゃんはぼくを庇ってパパの前に仁王立ちしていた。
「ごめん、叔父さん。みぃを怒らないでやって。」
「ちょっとした、遊びだったんだよ。」
「ぼくが頼んで、みぃに無理矢理彼女の真似事をさせたんだ。」
「友達に見栄を張って、誰にも頼めないから仕方なくみぃに頼んだんだ。みぃは、何も悪くない。」
パパの視線は、ぼくに向けられたまま外されなかった。
「パパ・・・ご、ごめんなさい・・・」
かすれた喉から出た言葉は、余計にパパを激しく怒らせたみたいだった。
あっさり笑い飛ばせば良かったのかも知れないけど、ぼくはパパの険しい視線に凍り付いていた。
大変ですっ!一番内緒にしておかなければならなかった、パパに「オンナノコ」の恰好がばれてしまいました。
みぃくん、危うし。 此花
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