BL観潮楼H22秋企画【狂おしい秋・恋人達の一番長い夜・4】
気が付けば、知らないうちに頬が濡れ、涙がカーペットに吸われてゆく。
「隼・・・後でねって言ったくせに。」
「周二坊ちゃん・・・」
「無理矢理でも、一緒に行ってやればよかった。おまえ、何で三丁目なんかに居たんだよぉ・・・」
拳に数滴涙が落ちた後、周二はばっと狼の顔を上げた。
「あのシマは、叔父貴のところだったな?」
「そっちはもう、手を回しました。街頭にカメラも多いですし、沢木の旦那も動いてますから、すぐさま上がるはずです。」
「そうかよ。」
周二は、ほっと短い息を吐き、もう濡れてはいない穏やかな顔を木本に向けた。
一見、表情は穏やかだが場慣れたものには、その怜悧な印象の整った顔に張り付いたものは、殺気が研ぎ澄まされて形をかえたものだと分かるだろう。
見えない冷たい焔が、輝く美しい気圧(オーラ)となって周二の全身を包んでいた。
その姿は、陽炎に包まれて猪に乗る闘神、摩利支天の化身のようだ。
怒りに燃え上がったこの姿を、木本が見るのは二度目だった。
一度目はうんと昔、まだ周二が就学前に父親が人間違いで狙撃されたとき、こういう状態になった。
木本が、木庭組の先代に拾われた頃の話だった。
あれから木本は、周二のそばから離れられなくなったのだ。
「いいな。サツより先に、俺の前に首をもってこい。」
「マッポに、先越されるんじゃねぇぞ。」
感情を押さえた低い声が脳髄に届くこの一瞬、木本は心臓を濡れた手で締め上げられるような、痛いほどの恍惚を覚える。
普段、市井の中で姿を変えて、緩く過ごしている野生の獣が瞬時に本性を現し獲物の喉笛に、一撃必死の閃きで牙を食い込ませる瞬間を目撃できる気がする。
可愛い恋人と過ごしているときとはまるで別人の、周二に流れる生来の肉食獣の血。
この美しい姿が、もう一度見たかった・・・一度囚われてしまったら、もう安穏な日常に戻れなくとも構わないと本心から願ってしまう。
木本はサディストだが、骨髄まで食い尽くされてしまいたいと被虐者が恋うる、血も凍る感覚を理解していた。
生まれつき流れる冷酷な自分の本質が惹かれるのは、密かに隠された凶暴さを垣間見ることなのかもしれない。
野獣が喉笛に牙を食い込ませ、血にまみれて獲物をむさぼるさまを想像し、うっとりと我を忘れそうになった。
真っ直ぐに獲物だけを狙って捕らえる狩人のように、極めて自然に・・・静かに周二は殺意を告げた。
「俺が、バラす。」
赤色灯が回って、近づいていた。
性根の据わった周二くんは、実はとてもかっこよかったりします。
かっこいい挿絵でお見せするだけではなく、文章でもかっこいい所もかかないとね~
伝わってたら嬉しいです。 此花
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(pioさま鼻血ぷぷっの美麗イラストお借りいたしました。ありがとうございました。きゅんきゅんの綺麗お子さまです~~!
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