BL観潮楼H22秋企画【狂おしい秋・恋人達の一番長い夜・7】
強い西日は、遮光カーテンで薄日になっていた。
ベッドの傍らで、長い指を組んで沢木はじっと最愛の息子の顔を見ていた。
浅く息をするだけの青白い横顔に、遠い過去の痛ましい姿がかぶる。
まだ学校に上がる前、自分に対する妄執を受けて隼は誘拐された。
精神的に追い詰められた誘拐犯が、幼い隼に一体何をしたか・・・それは、周二にはまだ話せずにいた。
長い病院暮らしの記憶は、昨日のことのように鮮明だった。
リハビリが嫌だと泣く幼い隼を、宥めたりすかしたりしながら親子で何とか乗り切った。
一日に何十回となく入れられる、医療機器の冷たさに怯える息子の姿に、沢木は本気で泣いた。
いっそ代わってやりたいと何度も空しい願をかけ、それでも毎朝息子には笑顔を向けた。
獣のような声が怖くて、時々大声や怒声に反応して軽く意識を失ったりすることは、退院した後もこれまで何回か有った。
沢木は忘れない。
それどころか、油断すると記憶の底に引き込まれ、悪いほうにしか考えられなくなるのは、隼ではなく自分の方だ。
隼が誘拐されて3日目に、監禁された場所をやっと見つけて飛び込んだとき、隼は血の海の中で瀕死の状態だった。
意識が戻るまでの何ヶ月もの間、ずっとベッドで抱いて過ごした小さな隼は、長い間今のような状態だった。
カタ・・・とドアが細く開く。
振り返らずに入ってくれと告げた。
「隼の様子は・・・?まだ、気が付かないんっすか、沢木さん。」
はっと浅く息をつき、ベッドの上の隼は、物音に緩く視線をめぐらせた。
「隼・・・」
意識はまだ戻っていない。
視線の先に周二を認めて何か物言いたげな風だが、そのまま又固く瞼を閉じてしまう。
時折長く細い悲鳴をあげ、助けを求めるように腕を伸ばす。
手を握りしめてやるとほんの少し柔らかな表情になって、軽い眠りに入る、その繰り返しだった。
「可哀想に・・・。」
汗に浮いた額の髪の毛を、そっと払ってやった。
いつも潤んだ瞳を向けて、うれしげに「周二くん」と名前を呼ぶ恋人は、固いベッドに身を預けて身じろぎもしない。
「時々、目を開けるのは、探しているんだろうと思うんだ。」
「沢木さん・・・?」
「夢の中でも4代目を探してる風なんだ。じっと見ていると分かる・・・」
そこにいるのは、子連れ大魔神と恐れられるマル暴の刑事ではなく、病気の子どもを心配する一人の父親の姿だった。
ベッドの脇に肘を付き、視線はじっと見守るように息子に向けられたままだった。
痛いほどの愛情を見やりながら、周二は思い切って訊ねた。
「俺に、何の用ですか?」
「こっちもできれば、隼が気が付く前に済ませたい用件があるんですが。」
その一言に、想像のついた沢木の視線が険しくなった。
自分も同じ思いを抱いたことのある沢木パパ。
頑なな気持はほぐれるでしょうか・・・
お読みいただきありがとうございます。12話まで続きます。
次回は隼ちゃんの過去の痛い話になりますので、痛いのが苦手な方は遠くからそうっとご覧下さい。此花
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こちらで使用させていただいている美麗挿絵(イラスト)は、BL観潮楼さま・秋企画参加のみのフリー絵です、それ以外の持ち出しは厳禁となっております。著作権は各絵師様に所属します。
(pioさま鼻血ぷぷっの美麗イラストお借りいたしました。ありがとうございました。きゅんきゅんの綺麗お子さまです~~!
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