【狂おしい秋・番外編・天使の折鶴】・1
ベッドに丸くなって、小さな隼は泣いていた。
「いや、いや・・・パパ。おしり、もういや。」
治療とはいえ、異物を挿入される気持悪さに毎回泣き咽んでいた。
大きさの違うジブーと言う器具を入れ、肛門を締めるトレーニング(動作)が課せられた。
まだ幼い隼には、十分に回復でき可能性があると医者が言い、リハビリは可哀想だが日々繰り返された。
酷い怪我で鈍化した直腸や肛門の感覚が戻る場合もあり、 下がってきた便を感知できるようになれば「知らぬ間に漏れる」のを防ぐことができる。
健康なときには分からないなんでもない動作が、一度失ってしまうと取り戻すには途方もない努力が必要と知る。
親子の涙は、快方に向かうことで少し報われた気がした。
「隼。先生がさ、がんばったから、もうすぐ「おむつ」取れるねって言ってたよ。」
ベッドの上の丸い生き物が、そうっと布団をめくり覗いた。
「ほんとう・・・?隼、これ、やなの。赤ちゃんじゃないもん。」
「パパは、隼に嘘は言わない。それにおまわりさんは、嘘ついちゃいけないんだよ?知ってるだろ?」
「うん。」
涙で濡れた丸い目が決心をして、がんばると告げた。
「治ったらがっこ、行く。」
「そうだよなあ。行きたいよなあ、ランドセル買って有るもんな。」
そうっと脇に手を回して、傷に障らないように下肢を抱き上げた。
「隼。下見て。」
「ん~?」
「ほら。すぐそこのおっきな銀杏の木の下に男の子いるだろ?」
年のころは同じ位だろうか、隼は興味を引かれて父親に問うた。
「おともだち?」
「隼のほうがちょっとだけお兄さんかな。」
「あの子ね、強いんだよ。お父さんが入院していて大変なんだけど、絶対泣かないんだよ。」
「ふ~ん。」
「あそこで、お父さんの集中治療室の窓をずっと見上げてる。泣きたいだろうにね。」
隼はしばらく少年の姿を見ていたが、やがて自分で折った白い千羽鶴をいくつか取り上げると、窓下へとふわりと飛ばした。
頭にぱらぱらと紙の鶴が当たったのを認め、少年は訝しげに見上げた。
視線が絡み、少年は本物の天使が、自分に笑いかけたのを見た。
いくつもいくつも、ひらひらと風に乗って白い鶴が降りてくる。
父親が重傷を負って病院に担ぎ込まれて以来、ずっと枕辺で固く口を引き結んで涙も見せない、小さくても野生の狼だった。
天使が両手を差し伸ばしたのをじっと見上げていたが、やがて頑なな表情を崩しにっこりと笑った。
少年が通っている幼稚園の教会の祭壇脇に、恵まれない子どもに手を差し伸べるふわふわとした明るい髪の天使の絵があった。
窓辺で微笑む天使に似ていると思った。
「天使って・・・いたんだ。」
めぐり会った天使の思いがけない贈り物に、集中治療室にいる父親が良くなる予感がした。
見詰め合った天使たちは、いつかめぐり会う未来の運命をまだ知らない。
リハビリ方法は、肛門括約筋訓練(バイオフィードバック療法)を参考にしました。痛いので控えめ描写です。ちびの二人のお話でおまけを書こうと思いました。この後の拉致の理由とかも書きましたので、おまけ、もう少しだけあります。
あ、しまった。今日二人がちびなので、綺麗お子さまの挿絵がないっ!!
が~~~~~ん・・・・・・!!(TーT)←自業自得っ。 此花
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