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暁のバレンタイン大作戦・前編 

沢木 隼(さわき しゅん)

人と関わることが苦手で、口下手。年齢よりも幼く見える高校生。
父親の職業は刑事、溺愛されている。
同級生の木庭周二と恋人どうし。
ひどい近視と乱視で、ダサいメガネをかけているが、素顔は絶世の美少年。

木庭 周二(こば しゅうじ)

木庭組4代目。
沢木隼を子供のころから愛し、秋にやっと恋人同士になった。
隼の父親に、いつも恋路を邪魔されている。
スカウトされて、モデル業も行っている。
いまだに一線を越えられない、不憫な高校生。


バレンタイン


西日の入る旧校舎の生徒会室で、稀代の生徒会長は深々と頭を下げていた。

「沢木!この通りだ!一緒に行ってくれ!」

困ってしまった書記の沢木隼は、小首をかしげて悩んでいた。

「どうしてそんな手作りにこだわるんですか?ゴディバでもアンテノールでも、美味しいチョコいっぱいあるじゃないですか。何か理由でも?」

生徒会長はばっと頬を紅潮させ、こく・・・と頷いた。

「僕の木本さんが、お前の手作りチョコなら、食べるって。甘いモノ苦手だけど、一緒に甘い時間を過ごそうなって、・・・きゃあ。」

隼は今、バレンタインデーに手作りチョコレートを作りたいから、材料を買うのに一緒に行ってくれと頭を下げられているのだ。
そこには、女子の制服が一式置いてあった。
これを着て、女子の溢れるチョコレート売り場に一緒に行ってくれということらしい。

「ぼく・・・漢(おとこ)だもん・・・っ。」

文化祭でお姫様の格好をしたのがすっかりトラウマになって、隼は躊躇していた。
うつむいたら、まつ毛に露が光った。

「そうだね。沢木が見かけ以上に漢(おとこ)らしいのは、僕も認めるよ。実際、木庭と一緒に居られる段階で一目置いているからね、木本さん。」
「ほ・・・ほんとっ?木本さんが?」
「勿論。生徒会長たる僕が嘘などつくわけがないじゃないか。周二坊ちゃんがきちんと学校へ行ってるのも隼坊ちゃんのおかげだって言ってたし。淫らな不純異性交遊もしなくなって、隼坊ちゃんの男気は大したものだって。」
「お、男気・・・!」

隼は自分が一人前の漢(おとこ)と認められたようで、すっかり嬉しくなってしまった。
自分が上手く乗せられているなどとは疑いもしなかった。

「そうだ。沢木も、木庭に手作りしないか?」
「でも周二くんは、プリン以外の甘いものは食べないの。」

生徒会長、樋渡蒼太は、にっこりと笑ってレシピ本を出した。

「ほら。こんな風に甘くないものも色々あるんだよ。木庭は、沢木のこと大好きだから、きっと喜ぶよ。」
「そうかなぁ・・・」
「バレンタインデーは、恋人どうしには特別な日だからね。」

言いくるめられて、殆ど陥落寸前になり、隼は『はじめて出来た!彼に贈るわたしの本命チョコ』という本を食い入るように見つめていた。
後にいろいろ問題が起きるのだが、こうして二人の「バレンタイン大作戦」は始まった。
隼のダサ眼鏡の奥の大きな瞳が、樋渡蒼太に向けられた。

「ぼ・・・ぼく、頑張ってみる!」
「ありがとう!沢木。」

*****************************

そして、放課後。

「あのね。今日はお買い物があるから、先に帰ってね、周二くん。」
「おう、おれも雑誌の仕事があるから、行ってくるわ。遅くなるようだったら、松本に言っておくから迎えに来てもらえよ。」
「うんっ!大丈夫~。」

夏に出会い、秋に深まり、冬に確かめ合って、二人は初めての特別なバレンタインデーを迎える。
校門でにこにこと手を振って別れた隼と、すぐさま一緒になるとは周二も思っていなかった。

隼には言えなかったのだが、今日の周二の仕事はモデル仲間に頼まれた小さな仕事だった。
期間限定でアクセサリーショップ内に作られたチョコレート売り場に飾る、恋人同士のポップ用の写真をクリアファイルにして、宣伝素材として路上で配布する。
シルバーアクセサリーを彼氏に贈ろうという女の子への、あまりに当たり前な宣伝に友人のよしみとやらで周二は駆り出されたのだ。
クリアファイルには、今風のデカ目メイクの金髪の女の子とモデルの周二が頬を寄せて写っていた。

学校では恐持てのグループを引っ張っているせいで、周二はモデルにスカウトされるほどの目を引く存在ではあったが女子からは、多少怖がられていた。
近頃、雑誌によく載っている「シュウ」というモデルに、酷似しているという噂もあったが、大方のものはそれはないだろう~と、本人に向かって一笑に付した。
見事に二つの顔を使い分けている周二の「シュウ」の顔は実はあまり隼も知らない。

長いウィッグをつけて、うつむきがちに隼は歩く。
ダサメガネをはずしたら最後、世間は5センチ先から白い霧の中に包まれる。
隼は乱視混じりの、ど近眼だった。

「会長~・・・見えません~・・・」
「沢木、人ごみの中で迷子になっちゃ大変だから、今だけ手をつなごうか。」
「はい。でも、周二くんには内緒にしてくださいね。」

眼鏡を外して、リップクリームを塗っただけで、隼は絶世の美少女に変身する。
…漫画の中ではよくある設定なのだが、周囲の目をくぎ付けにして隼は手を曳かれて歩いた。

「・・・ん?」

ざわざわと人々が移動して行く。
最近売り出し中の、美少女モデル佐々○希が彼氏と手をつないでバレンタインの買い物をしているらしいのと、目の前の少女が告げた。

「ほら、あそこ。やっぱり、すごい可愛いよねぇ。でも、芸能リポーターとかに狙われちゃうんじゃないのかな。」
「・・・ぅげっ・・・隼。」

周二の視線の向こうに、良く知る二人連れがいた。

「なっ…!何で、あいつら、こんなところに居るんだよ!」

周二は周二で慌てたが、二人の様子を見てその顔が引きつった。
人ごみに埋もれ困っている周二の思い人は、絶対に女装はしないと言って泣いたくせに、女の子の格好をして、よりによって一度襲われそうになった生徒会長と仲良く手をつないでいた。
周二の形相がぴきっと音を立てて、恐ろしい大魔神の憤怒の形相になり、さっきまで傍にいた女の子が、小さく悲鳴を上げて飛びずさった。

「おい!何やってんだよ!」

好きな人の声に反応して、隼は焦点の合っていない目を向けた。

「周二・・・くん?」
「隼。てめぇ、ちょっと来い!あいつと手なんかつないで、どういうつもりか言ってみろよ。」

隼には周二の怒りの理由がどこにあるか分からなかった。
それでも、二人でカップルになって手作りチョコの材料を買いにきたとは、周二には言えない。
手作りチョコレートを手渡した時の、周二が驚く顔を見たかったから、秘密にしておきたかった。
生徒会長の恋人、ドSの木本も周二の守り役だったから、迂闊なことは言えなかった。

「周二くんには、い、・・・言えないのっ!」
「なんだと、こらぁ!」

手首を捻られて、隼の小さな悲鳴が漏れた。

「や・・・んっ・・!」
「言えっつってんだろ!こら!」


周二の怒声を聞き、隼のぱんつの中でぴんくのぞうさんが縮み上がった。
隼は何よりも人の怒声にトラウマがあり、大好きな周二のものでも気を失うほど怖い。
血が下がって蒼白になり、握り締めた小さな拳が震えるのを見て、周二は息をついた。

「・・・悪い隼。大きな声、怖かったんだよな。」
「う・・・んっ。」
「怒らないから言ってみな。浮気してたんじゃないよなぁ・・・?」
「う・・・わき・・・?ぼくが?」

様子を見ていたが、さすがにまずいと思い、蒼太が口を挟みかけた。

「木庭、沢木は僕の頼みを斷れなかっただけだ。」
「うっせぇ!てめぇは黙ってろ!木本のおやじと乳繰り合ってりゃいいだろ!大体、おまえが人のもんにちょっかい出すから・・・っ!」

ぱん!
乾いた音を立てたのは、周二の頬だった。
震える唇が、恋人をなじった。

「周二くん!」
「どうしてそんな酷いこというの?会長は木本さんに手作りチョコレートを作ってあげたかったんだよ。男の子が買うの恥ずかしいからって、ぼくに頼んだんだよ。」
「隼・・・。」

一気に昇った血が下がり、我に返った周二に、涙で支離滅裂になった隼は告げた。
隼は元々、人との関わりが苦手で、大分馴れたとはいえ上手く話すのが苦手だった。
うまく話そうと思えば思うほど、欲しい言葉は隼の頭の中から消えてゆく。
だから、残念ながらこうなった・・・

「そ・・・そんな子は、うちの子じゃありませんっ!」
「あっ!隼~~~!!」
「わ~ん・・・周二くんの、あんぽんたん~~!」

いろいろ間違ってるぞ、隼!
俺はお前の子供じゃないし、第一おまえ男だし、母ちゃんじゃないし。
髪をかきむしる周二に、蒼太が冷ややかに告げた。

「沢木が心配だから、追うよ。木庭、言っておくけど僕が材料を買いに来たのは本当だけど、それだけでこんな大荷物になると思う?」
「沢木は、君のことが本当に大好きで、いつだって一生懸命なんだからそこは認めてやれよ。」

山ほどのラッピングフィルムや、輸入物のチョコレートのブロックを山と抱えて生徒会長は冷ややかな一瞥をくれた。

「甘いモノが苦手な君のために、沢木がどれだけ知恵を絞って考えたか、少しは思いやるんだね。かわいそうだ。」

その場に取り残された周二の顔が、引きつった。
当てもなく走ってゆく隼を捕まえた生徒会長が、涙にくれる隼をなだめているようだった。

「くそっ!何でいつも、おれはこうなんだよっ!」

相変わらず不器用な野獣だった。

******************************

お久しぶりの隼ちゃんと周二のカップルです。
思えば此花が、初めて書いたBLの主人公たちでした。
相変わらずのバカップルをお楽しみいただけたらと、思います。

ランキングに参加していますので、ひと手間おかけしますが、どうぞよろしくお願いします。此花
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2 Comments

此花咲耶  

びびさま

> またこの2人に会えて嬉しいです(*^o^*)

イベントごとに、どさくさに紛れて出てきます。

> 真剣おバカさんな周二が、隼くんとイタす為にアホな頑張りを見せてくれつつ、毎回お約束でパパに邪魔されるー!的な王道ラブコメの部分も楽しながら、一方では隼くんの辛い過去やトラウマの切なさに涙する…。
> 一粒で二度美味しい‼このシリーズ大好きです~♪( ´▽`)
>
わ~、ありがとうございます!(*⌒▽⌒*)♪
Σ( ̄口 ̄*)あ、すでにオチがばれてるっ!・・・やばす~

> 2人の合体は永遠に訪れない、サ○エさんの様なエンドレスシリーズになるのでしょうか?

くっつけてあげて~という、お声をいただくのですが、沢木パパが高校を卒業するまでぱんつ脱いじゃダメというので、どうなるかなぁ。サ○エさんの様なエンドレスシリーズ・・・(*⌒▽⌒*)♪えへへ・・・
周二君がかわいそうです。

> それにしても奏といい隼くんといい、思い起こせば、余りにも辛過ぎる受タンが、此花様宅には勢ぞろいですね~。雪うさぎもそうだった…。

過酷な運命に対峙して、それぞれがちゃんと生きて希望を持っている主人公が好きです。
Σ( ̄口 ̄*)・・・もしや、此花いじめっ子…?←最近、言われてます~

> 常々R苦手~!とボヤいていますが、受タンいじめに関してはかなりの上級者であらせまするよm(_ _)m
> …そこも好き~(>人<;)きゃぁ(//▽//)

(*⌒▽⌒*)♪きゃあ。びびちんっ!どさくさまぎれに告白~!わ~い!
(〃ー〃)受けタンいじめ。・・・えへへ…此花Mなのに。
>
> 今回は、おバカで楽しい2人を期待しても良いですか?
> 後編も楽しみに待ってます(*^_^*)

ありがとうございます。いつもの、あんぽんたんな二人です。
コメントありがとうございました。うれしかったです(*⌒▽⌒*)♪

2011/02/13 (Sun) 16:19 | REPLY |   

びび  

また会えた(*^_^*)

またこの2人に会えて嬉しいです(*^o^*)

真剣おバカさんな周二が、隼くんとイタす為にアホな頑張りを見せてくれつつ、毎回お約束でパパに邪魔されるー!的な王道ラブコメの部分も楽しながら、一方では隼くんの辛い過去やトラウマの切なさに涙する…。
一粒で二度美味しい‼このシリーズ大好きです~♪( ´▽`)

2人の合体は永遠に訪れない、サ○エさんの様なエンドレスシリーズになるのでしょうか?

それにしても奏といい隼くんといい、思い起こせば、余りにも辛過ぎる受タンが、此花様宅には勢ぞろいですね~。雪うさぎもそうだった…。
常々R苦手~!とボヤいていますが、受タンいじめに関してはかなりの上級者であらせまするよm(_ _)m
…そこも好き~(>人<;)きゃぁ(//▽//)

今回は、おバカで楽しい2人を期待しても良いですか?
後編も楽しみに待ってます(*^_^*)

2011/02/13 (Sun) 10:24 | EDIT | REPLY |   

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