暁のバレンタイン大作戦・後編
人と関わることが苦手で、口下手。年齢よりも幼く見える高校生。
父親の職業は刑事、溺愛されている。
同級生の木庭周二と恋人どうし。
ひどい近視と乱視で、ダサいメガネをかけているが、素顔は絶世の美少年。
木庭 周二(こば しゅうじ)
木庭組4代目。
沢木隼を子供のころから愛し、秋にやっと恋人同士になった。
隼の父親に、いつも恋路を邪魔されている。
スカウトされて、モデル業も行っている。
いまだに一線を越えられない、不憫な高校生。
隼が持ってきた綺麗な小さな箱の中には、粒のそろったチョコレートがある。
開けると甘さを抑えた、丸いホワイトチョコがきちんと並んでいた。
「これなら、食べられる?周二くん、ぼくね、がんばって作ったんだよ。」
「そっか・・・。でもな、俺はこいつを、おまえの口に入れたいぞ、隼。」
「お口?・・・あ~ん。」
「そっちじゃなくて、下の口。」
「ぼくのお口は、一つしかないです~。」
周二の膝の上で、隼は未だに借金払いの最中だった。
いつものように放課後、真っ裸で周二の元で過ごすお仕事「めのほよう」にやってきた隼を抱え上げ、そんな甘い会話を交わすはずだった。
緩く抗う恋人の邪魔な手を、痛くないようにそっとふわふわした毛皮の枷でまとめてしまう。
力なく恥らう下肢をそっと開き、薄く色のついた窪みを確かめると、周二は甘いとろける菓子をそっと最奥に送り込んだ。
少しの抵抗の後、力を込めて半分まで進めれば、静かに内部へと飲みこまれ消えてゆく丸い玉。
隼の小さなピンクのぞうさんが、ふるりと頭をもたげて震え、ぽろりと泣きそうになった。
周二は隼の丸い肩に鼻先を埋め、華奢な恋人を背後から抱きしめた。
「隼・・・あぁ、可愛い。」」
「ぱ、ぱお~・・・。」
訳:「そ、そんなことしちゃ・・・だめです~。」
手のひらに転がしただけで、周囲が溶けて辺りに甘い香りが漂う柔らかい白い生チョコ。
滑らかな潤滑油のように、温かい部屋で柔らかくなったチョコレートは、隼の狹い内部に消えてゆく。
「う・・・んっ・・・んっ・・・苦し。」
「まだ三個目だ、がんばれ、隼。」
「う、う~~っ!そんなに入れちゃいや~!」
「いや、いや、出して、周二くん。」
周二を詰る隼の目が潤んで、切なくきゅと閉じられた。
長い睫に露が宿り、唇をかみしめると零れ落ちた。
膝を立てて緩く開かれた足の奥から甘いバニラの匂いが立ち上る。
「なんか、とんでもない悪さをした後みたいだな、隼。やっちまった後みたいだ。」
「俺、甘いのは苦手だけど、こんな風に隼から溢れたものなら食えるぜ。そうだ、写真撮っとこ。」
「え~ん、周二くんの変態さん~・・・」
「いいから、いいから。こっち向いて。」
パシャ!
体温で溶けた本命チョコが隼の腿に流れ、ひどく淫らに白い筋を走らせた。
扇情的な光景に、思わず周二の分身もふるりと頭をもたげる。
甘いチョコレートじゃなくて、今日こそおれの全部を受け止めて、隼。
今までずっと我慢してきた切なさではちきれんばかりになった、おれの分身を開放させてくれ、隼。
「いい・・・?」
太ももの間から見上げれば、酸素不足の夜店の金魚のようになって、ぱくぱくと酸素とおれを求めて隼が喘いだ。
「あん・・・っ、も、来て、周二くん・・・」
**********************
「んな、わけねぇって!」
・・・妄想を何とか振り払って、周二はため息をついた。
「仕方ねぇなぁ・・・。明日、隼に謝るか~。」
どう考えても、自分が悪いのは歴然だった。
勝手に誤解して、一方的に切れてしまった。
思い切って学校で隼の登校してくるのを待ち、自販機のある喫茶ルームに引き込んだ。
「周二くん。」
「俺が、悪かった。」
まるで夫婦げんかの後、実家に帰ってしまった奥さんを迎えに来たような周二だった。
隼が濡れた目を向ける。
こちらも悲しくて夕べ一睡もしていない。
ずっと泣いてたらしい赤くなった目が、厚ぼったく潤んでいた。
「ぼくも、ごめんね。女の子のかっこ嫌だって前に泣いたのに、周二くん以外の人と一緒にお出かけしちゃった。漢に二言はないはずなのに。」
「あのね・・・ぼく、ごめんなさいも込めて、バレンタイン頑張ったから。期待しててね。放課後、周二くんのおうちで渡すから。」
「お、おうっ!」
恋人同士の甘露な放課後を想像し、喜々として周二は隼を待った。
「周二くんは甘いモノは苦手だから、食べないものにしたの。」
微笑む隼が周二に渡した高級そうな桐箱には、ご丁寧に熨斗が貼ってある。
中には、何やら得体の知れない隼の努力の結晶があった。
周二が何か言うのを、隼は満面の笑顔で待っていた。
「・・・これ、ご当地ゆるキャラの・・・?」
「ゆるキャラ?周二くんの守り本尊は、調べたら阿弥陀如来だったの。ぼくね、ちゃんと仏像の本とかも図書館で調べて頑張ったんだよ。」
「お守りなのか?もしかして?」
「うんっ!食べたらおしまいだけど、これならずっと肌身離さず持っていられるでしょう?周二くんが、毎日何事もなく過ごせますように・・・。」
隼が作って持ってきたのは、手作りチョコレートの石鹸ほどの大きさのブロックチョコを削って作った周二の生まれ年の守り本尊だった。
こちらもどうやら手縫いらしい酷い縫い目の袋に入れて、ご丁寧に首から下げるようになっている。
「でも、これってどうみても・・・」
周二の頭の中には、ご当地ゆるキャラの「バリィさん」が浮かんでいた。
「え~と。これチョコだから、肌身離さず持ってたら溶けるんじゃね?」
「・・・。」
隼の大きな瞳がじわりと潤み、周二に向かって忙しなく瞬いた。
くすんと鼻を鳴らしたら、ぽろりと清らかな珠が頬を転がった。
「一生懸命、作ったのに・・・周二くんは、喜んでくれないんだ・・・。」
「隼?」
ふと見れば、隼の指にはいくつも絆創膏が貼られ、不器用ながら頑張った証拠が残っていた。
周二は腕の中の小さな恋人に甘く囁いた。
「違うって・・・隼が作ったバリィさ・・・阿弥陀如来?・・何かさ、勿体なくて食えねぇなって思ったんだよ。」
「ほんとっ?」
「俺のために頑張ったんだろ、こんないっぱい絆創膏貼って・・・おれには、隼は一等大事なんだからさ。怪我するなよ。」
「周二くん・・・」
隼は周二の首に腕を回し、自分から深いキスをした。
小鳥のキスしかできなかった幼い恋人が、いつかほんの少しずつ周二の求めに応じて心を開き、匂い立つ白薔薇が開花するのも時間の問題だと思う。
性急に事を運ばず、細心の注意を払って周二は隼に触れた。
「隼・・・一生、おれにはお前だけだ。」
「周二くん。ぼくも、ぱんつ脱ぐのは周二くんの前だけって、決めてる。」
「隼…可愛い・・・」
「ちょっと、お邪魔しまっす!」
一応、気を使ってか細く声を掛けると、松本が入ってきた。
「お!何なんすか、これ・・・?オバQ・・・・?ま、チョコレートみたいだし、いただきます。」
物音に気が付いた、周二と隼は松本に目を向け、次いで松本がかじったモノに目を向けた。
「「あっ!!」」
凍りついた視線に松本が我に返り、そっと箱に戻そうとした。
「すんません。腹へってたんで・・・これ、懷かしいっすよね。オバQ!」
「オバQ・・・?…違うよ…松本さん。(´・ω・`) 」
慌てて周二が、目配せを送り松本もまずいと思ったのだが、こちらもかなり残念な思考回路しか持ち合わせていなかった。
「あ!宇宙人か~。ほら、誘拐される宇宙人て確かこんな感じでしたよね。」
隼は首から、西陣織の最高級品「うちの愛犬日本一」の首輪を自ら外すと、テーブルの上にことりと置いた。
「馬鹿野郎!松本!これは、隼が俺に作った守り本尊なんだよ!確かにそう見えなくもないけど、ちっとは考えてもの言えっ!・・・あっ!」
「周二くんにも・・・宇宙人に見えたんだ・・・。(´;ω;`) 」
抑揚のない、隼の冷ややかな声が周二に向けられた。
「すみません、周二坊ちゃん・・・おっ!」
入ってきた木本の目が、隼の手作りチョコに向けられた。
周二と松本の縋るような視線が、最後の命綱を掴むように木本に注がれていた。
「何なんすか、これ・・・」
視線が周二に向けられ、必死で周二は「あ」「み」「だ」と口パクで伝えた。
軽くうなづいた木本が「阿弥陀…?」と口にし、周二は地獄に仏とばかり松本と手を握り合ったが、その数秒後すべてが終わった。
「アミダ・・・ばばあ・・・?」
「死ねーーっ!おまえらっ!」
「うわああぁあ~~~~ん・・・!実家に帰る~~~!」
隼は深く傷つき、涙が止まらなかった。
夕べの努力が全て台無しだったと知り、悲しくて涙が止まらなくなった。
ここまで不器用なのもどうかと思うが、周二は胸の中の恋人に甘く告げた。
「隼が、おれのために頑張った時間もみんなおれのものだな。」
「う・・・ん。」
「初めて作ったんだからさ、誰だってうまくいくわけなんてないさ。俺は、隼が俺のこと考えながら作ってくれたのが嬉しい。」
「それにさ、やっぱりチョコは食った方が良いんだって。ちょっと、待ってな。」
周二は自分がよそで貰って来たチョコレートを湯煎にかけると、細い口金の中にいれ、器用にホワイトチョコレートの小さなプレートに二人の似顔絵を描いた。
出来合いのスポンジの上に生クリームと一緒に飾れば、パティシエが作った繊細なケーキのように見える。
周二は、趣味が純銀アクセサリー作りで、かなり器用な質だった。
「わ・・・あ。ぼくと周二くんだ。」
目を輝かせる隼の目の前に、隼の大好きなマンモスイチゴの乗ったケーキが置かれた。
「隼と初めてのバレンタインデーだからさ、一緒に食おうと思って買って来てたんだ。」
いつもと違う甘い世界に、松本と木本はそっと部屋を抜け出し二人きりにした。
「やりますねぇ、周二坊ちゃん。」
「さぁ、俺も蒼太のところへ行くかな。」
喜々と語る守り役の役目が、終わろうとしている。
甘いチョコレート菓子のような時間を過ごす二人に、周二の守り本尊が苦笑しているような気がした。
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サ〇ザエさんの世界に入り込んでしまったかのような二人です。
妄想の世界でしか、思いを果たせない周二くんが可哀想です。(´;ω;`) ←書いといて。
ちなみに愛らしいゆるキャラ、バリィさんのホームページ。
http://www.barysan.net/index.html
お久しぶりの隼ちゃんと周二のカップルです。
思えば此花が、初めて書いたBLの主人公たちでした。
相変わらずのバカップルは、書いていてとても楽しいです。
拍手もポチもありがとうございます。
過去作品「紅蓮の虹」をお読みいただき、拍手くださった方ありがとうございました。
初めて書いた小説でした。
拙いものですが、いつか書き直したいほど思い入れがあります。
うれしかったです(*⌒▽⌒*)♪
ランキングに参加していますので、ひと手間おかけしますが、どうぞよろしくお願いします。此花
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