深い森の奥の魔導師・22
腹をぱんぱんに張らせて、竜のジェードは苦しそうだった。
トモの励ましに何とか一つ二つ、火の塊を飲み込んだが、すでに限界だった。
外から見ても腹の皮は薄くなり、トモは心配のあまり泣きそうになった。
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トモは自分が赤魔法しか使えないのが、悔しくてたまらなかった。
力のある大魔導師オメガのように、すべての魔法呪文が使えたら、この火の海に本物の湖を呼ぶことだってできたかもしれないのに。
トモは、火を飲み込んで腹をぱんぱんに張らせたジェードの首にかきつき、自分の不甲斐なさを詫びた。
「ジェード、ごめん。俺が知らないで君と血の契約を結んでしまったから、こんなに辛い目に合わせてしまう・・・俺に、もっと力が有ったなら。」
翡翠色の宝玉の瞳を、じっとトモに向けたジェードは、細かな鱗に覆われた体中から粘液を溢れさせ薄い水の被膜を作っていた。
両性類の生き物のように、ぬめと輝く表皮が炎を映して青い身体を赤く見せていた。
風が逆巻くと、火の海の中心にいるジェードとトモに炎が押し寄せてくる。
地獄の番犬、三つ頭のケルベロスが先導し、黙示録の竜が炎を吹き上げた。
襲い来る火の粉を浴びながら、トモは決意を決めた。
「ここで、楔になる。ジェード、君も一緒に居てくれる?一人は怖いけど、君が一緒なら俺は逃げない。」
「…キュエ・・・」
すり寄せたジェードの鼻先に、永遠の誓いの印を付けると、トモは厳かに呪文を掛けた。
≪Meus ancient extraho , puteulanus jade(わたしのエンシェントドラゴン青い翡翠)≫
≪Acsi vita runs sicco , diligo persevere forever(命はつきても永遠に愛は続く)≫
頭上から矢のように天馬に乗った魔導師が降って來る。
力尽きた彼らは、地上に落ちるとことごとく一握の白い砂となり、存在の証しすら残らなかった。
トモの耳に、今はない大魔導師エルの声が甦る。
『相反する力は大いなる犠牲を生む。』
『業火に水を注いでも、瞬時に水蒸気となってしまうだろう。』
『だが同じ色の魔法は、互いを飲み込み一つとなる。火を追い払うときは炎で追い払う。』
赤い舌に呑み込まれる寸前、トモはジェードに力を合わせ魔界の方角に向けて、すべての炎を吐き出すように告げた。
魔導師の杖から、使い魔によって増幅された力が螺旋の渦となって炎を噴きだした。
≪Flamma , occulto exhaustively(炎よ、覆い尽くせ!≫
天地を搖がす魔物の、臨終の叫びが響き渡る。
耳をつんざく恐ろしい雄叫びは、魔導師たちには希望の灯となった。
『ギャアアアアーーーーーッッ!!…』
魔界獣の一つの首が燃え落ち、忌まわしき獣の咆哮が魔導師の世界の隅々を震撼させた。
落ちた首はごろごろと断末魔をあげ、やがて水蒸気を吐く巨大な岩石に形を変えた。
魔導師たちが、歓喜の声を上げ喜びがこだました。
「ジェード!やった!すごいよ・・・黙示録の獣の頭を一つ、落とした。」
トモを抱いて、高台に跳んだジェードが、シュッと人型に変わり魔導師の名を呼んだ。
「ト・・・モ・・・ゥ」
トモは思わず、顔を覆いその場に崩れ落ちた。
「ジェード・・・俺の名前を呼んでくれた・・・。嬉しい…嬉しい。」
一つの大きな仕事をやり終えた、充足感が二人を包んでいた。
美しい宝石の瞳を煌めかせて、ジェードはトモを抱き寄せた。
本当の名を呼び、使い魔と卵が共に成長したとき、魔法の共有ができる。
互いの知識は増幅され、長く生きた使い魔の知識は魔導師の物となる。
「ト・・・モ・・・ゥ、もう一度、本当の名を呼んで・・・。」
「・・・Meus ancient extraho , puteulanus jade(わたしのエンシェントドラゴン青い翡翠)」
戦いの合間の束の間、ジェードはトモと一つになった。
細胞の隅々にまで、ジェードの持った記憶が染み込んでゆく。
トモの細い指が、ジェードの水かきのついた4本の指と絡み、古代竜カーディナルから受け取った知識が逆流してゆく。
エンシェントドラゴン(古代竜)カーディナルが、懸命に伝えた封印されていた古い呪文が、トモの物となった瞬間だった。
「そうか…その呪文が、最後の楔になるんだね。」
「行こう、おれの青い翡翠puteulanus jade…みんな、取り戻すんだ。キュラも!」
魔導師の世界を支える巨大な世界樹に、羽虫のように魔界の小物が集っていた。
この世の理(ことわり)と秩序を守る世界樹が倒壊してしまえば、人間の世界と魔導師の世界は滅びぬまでも、ひどくひずみが出るはずだった。
天界は支えを失えば、丸ごと傾くだろう。
魔導師の世界が崩れるのは、すべての世界の崩壊を意味していた。
「行こう!ジェード!」
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(*⌒▽⌒*)♪トモ:「ジェード!がんばろうね!」
!(`・ω・´)ジェード:「トモゥ、キュエッ!」←がんばる!
(´/ω;`)トモ:「うぅ~、初めて名前呼んでもらった・・・。」
※携帯からは、両方とも一番下にスクロールして「PC向けのページ」を押して「決定」で完了になるそうです。
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