青い小さな人魚 (虹色真珠) 2
王さまは、奴隷商人に聞いた。
青い人魚は瞳に悲しそうな色を湛えて、厚い水槽のガラス越しに、王さまをじっと見つめていた。口元からこぽりと溢れた泡(あぶく)がゆらめいて、水面へと昇ってゆく。
「お前は、どこでこれを手にいれたのだ?」
奴隷商人は返答に困り、顔を歪めた。
言いたくはなかったが、王さまに問われては返事をするしかなかった。
「実は・・・、王さま、この青い人魚は、東の大国のスルタンに寵愛されていたのです。」
スルタンと言えば絶倫で、後宮(ハレム)に世界中の美姫、美少年、美青年を集め、夜ごと酒池肉林の乱宴を開いているという噂だった。
「違うのか?」
「いえいえ。先の戦に負けたスルタンは、居並ぶ美女を尻目に、この子を特別に寵愛しておりましてね。敵が迫って来る前に、海へ逃がしてやろうとしたのです。ご自分の手勢だけを率いて、この子を逃がす間、身を呈して懸命に敵を食い止めようとなさいました。」
「そのスルタンが逃がしたはずの者が、なぜここに居るのだ?」
卑屈な下卑た薄笑いを浮かべた奴隷商人は、小声で詳細を伝えた。
「王さま。一目見て王さまも、どんな大枚を叩いてでも、この可愛らしい人魚を欲しいとお思いになったでしょう?その時に、王さまのお側女の皆様方の、恐ろしい嫉妬に燃える目を御覽になりませんでしたか?」
聞けば人魚は哀れな身の上だった。スルタンの寵妃や後宮の女官、宦官たち皆が、人魚が自由になるのを阻止したのだという。
「心配するスルタンに、側用人は人魚は海へと逃げましたと嘘をつき、口裏を合わせました。スルタンは人魚が無事に逃げたと聞き、ご自分は海へ身を投げ自害したのです。
その後、スルタンの寵愛を独り占めした小さな青い人魚は、海へ帰ることを許されず、陸上に留め置かれました。逃がしてやると騙されて水槽に入れられ、こうしてわたくしめの元へと参ったのです。」
王さまはその時やっと、人魚の口の形が「わたしを自由にして。あの人の眠る海の底へ行きたい。」と繰り返すのに気が付いた。
「そうか……。哀れなことだな。」
哀れな小さな青い人魚の胸に迫る深い哀しみに同情し、逃がしてやろうかと欲深い残酷な王さまですらほんの少し思った。
水の中で身を捩る小さな人魚は、王さまをじっと見つめ、自分を自由にしてくれるのを待っていた。
「わたしを自由にして。あの人の眠る海の底へ行きたい。」
何度も繰り返す人魚の切ない想いに、薄情な王さまの心も揺れた。だがそれも、奴隷商人の持ってきた小さな宝石箱の中身を知ってしまうと、あえなくころりと気は変わってしまう。元々、珍しいものに目の無い欲の深い性質(たち)だった。
銀細工の精緻な小箱を掲げ、奴隷商人は驚くべき物を王さまに見せた。
「さあ。この素晴らしいものをご覧下さい。王さま。」
箱のふたを開ければ、綺麗な風琴の音が流れた。
「こ、これは・・・!」
小箱の中には、世界中の珍しいものを見てきた王さまの目をクギ付けにする物が入っていた。
「人工で拵えたものではありませんよ。この小さな青い人魚は、これまでたった一度だけ泣いたことがあるのです。人魚の涙は陸の空気に触れると、このように美しく結晶して虹色の真珠となりました。」
王さまは、子供のように「おお・・・!」と歓声を上げた。
奴隷商人の小箱にぎっしりと詰められた、この世のものとは思えないほど美しい虹色真珠に王さまはすっかり魅せられていた。
「人魚の涙とは、このように美しいものなのか。お前は、誰かを恋うるとき、悲しい時に涙を流すのか?」
小さな青い人魚は、水の中でふるふるとかぶりを振った。王さまは、そんな様子にますます人魚の零す虹色真珠が欲しくなり、ついに水槽から青い鱗の煌めく人魚を引きずり出すことにした。会話に怯えた人魚は、体を丸めて哀しげに王さまを見つめていた。
大きな鉄槌が運び込まれ、力自慢の勇者が水槽のガラスをどんと割ってしまった。
「ああーーーっっ……」
大量の水の奔流と共に、小さな青い人魚は王さまの浴室のタイルの上に転がった。
(〃゚∇゚〃) いじめっ子な雰囲気になってます……
青い小さな人魚の明日はどっちだ。(`・ω・´)←
本日もお読みいただき、ありがとうございます。 此花咲耶
ランキングは外れていますが、バナーを貼っておきます。村へ行くとき、お帰りの際にお使いください。
青い人魚は瞳に悲しそうな色を湛えて、厚い水槽のガラス越しに、王さまをじっと見つめていた。口元からこぽりと溢れた泡(あぶく)がゆらめいて、水面へと昇ってゆく。
「お前は、どこでこれを手にいれたのだ?」
奴隷商人は返答に困り、顔を歪めた。
言いたくはなかったが、王さまに問われては返事をするしかなかった。
「実は・・・、王さま、この青い人魚は、東の大国のスルタンに寵愛されていたのです。」
スルタンと言えば絶倫で、後宮(ハレム)に世界中の美姫、美少年、美青年を集め、夜ごと酒池肉林の乱宴を開いているという噂だった。
「違うのか?」
「いえいえ。先の戦に負けたスルタンは、居並ぶ美女を尻目に、この子を特別に寵愛しておりましてね。敵が迫って来る前に、海へ逃がしてやろうとしたのです。ご自分の手勢だけを率いて、この子を逃がす間、身を呈して懸命に敵を食い止めようとなさいました。」
「そのスルタンが逃がしたはずの者が、なぜここに居るのだ?」
卑屈な下卑た薄笑いを浮かべた奴隷商人は、小声で詳細を伝えた。
「王さま。一目見て王さまも、どんな大枚を叩いてでも、この可愛らしい人魚を欲しいとお思いになったでしょう?その時に、王さまのお側女の皆様方の、恐ろしい嫉妬に燃える目を御覽になりませんでしたか?」
聞けば人魚は哀れな身の上だった。スルタンの寵妃や後宮の女官、宦官たち皆が、人魚が自由になるのを阻止したのだという。
「心配するスルタンに、側用人は人魚は海へと逃げましたと嘘をつき、口裏を合わせました。スルタンは人魚が無事に逃げたと聞き、ご自分は海へ身を投げ自害したのです。
その後、スルタンの寵愛を独り占めした小さな青い人魚は、海へ帰ることを許されず、陸上に留め置かれました。逃がしてやると騙されて水槽に入れられ、こうしてわたくしめの元へと参ったのです。」
王さまはその時やっと、人魚の口の形が「わたしを自由にして。あの人の眠る海の底へ行きたい。」と繰り返すのに気が付いた。
「そうか……。哀れなことだな。」
哀れな小さな青い人魚の胸に迫る深い哀しみに同情し、逃がしてやろうかと欲深い残酷な王さまですらほんの少し思った。
水の中で身を捩る小さな人魚は、王さまをじっと見つめ、自分を自由にしてくれるのを待っていた。
「わたしを自由にして。あの人の眠る海の底へ行きたい。」
何度も繰り返す人魚の切ない想いに、薄情な王さまの心も揺れた。だがそれも、奴隷商人の持ってきた小さな宝石箱の中身を知ってしまうと、あえなくころりと気は変わってしまう。元々、珍しいものに目の無い欲の深い性質(たち)だった。
銀細工の精緻な小箱を掲げ、奴隷商人は驚くべき物を王さまに見せた。
「さあ。この素晴らしいものをご覧下さい。王さま。」
箱のふたを開ければ、綺麗な風琴の音が流れた。
「こ、これは・・・!」
小箱の中には、世界中の珍しいものを見てきた王さまの目をクギ付けにする物が入っていた。
「人工で拵えたものではありませんよ。この小さな青い人魚は、これまでたった一度だけ泣いたことがあるのです。人魚の涙は陸の空気に触れると、このように美しく結晶して虹色の真珠となりました。」
王さまは、子供のように「おお・・・!」と歓声を上げた。
奴隷商人の小箱にぎっしりと詰められた、この世のものとは思えないほど美しい虹色真珠に王さまはすっかり魅せられていた。
「人魚の涙とは、このように美しいものなのか。お前は、誰かを恋うるとき、悲しい時に涙を流すのか?」
小さな青い人魚は、水の中でふるふるとかぶりを振った。王さまは、そんな様子にますます人魚の零す虹色真珠が欲しくなり、ついに水槽から青い鱗の煌めく人魚を引きずり出すことにした。会話に怯えた人魚は、体を丸めて哀しげに王さまを見つめていた。
大きな鉄槌が運び込まれ、力自慢の勇者が水槽のガラスをどんと割ってしまった。
「ああーーーっっ……」
大量の水の奔流と共に、小さな青い人魚は王さまの浴室のタイルの上に転がった。
(〃゚∇゚〃) いじめっ子な雰囲気になってます……
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