番外編 赤べこ 1
代々、国家老を務める双馬家に、7歳になる惣領を連れて登城せよとの沙汰が下った。
「杏一郎。どうやら、殿はおまえに、若さまの遊び相手をさせるおつもりらしい。謹んでお受けせねばの。」
「あい、父上。でも、若さまはお小さくて、まだご一緒には遊べないのでしょう?」
「どうかな。わしはまだお目にかかったことはないが、お前と顔合わせだけでもさせておく心づもりなのであろうよ。早く、支度をおし。」
「あい。」
杏一郎は自分のおもちゃを一つ見繕って懐に入れると、父と共に馬上の人となった。
*****
藩主に嫡男が生まれ国中が喜びに湧き立ったのは、わずか10か月ばかり前の事であった。お召しを受けて杏一郎(きょういちろう)は父の後に付き従った。
「これは、国家老様。ご嫡男ですかな。中々凛々しい男振りでござる。」
皆が声を掛けてくれるのを、少し面映ゆく思いながら杏一郎は神妙に頭を下げた。長い着物を引きずった見目良い女性が、こちらへと誘(いざな)ってくれた。
「さ、皆さまが、広間でお待ちでございます。杏一郎さまも、どうぞご若さまにお目通りくださいますように……」
青々としたい草の香りの高い広間には、城主と御台所、若さまと御付きの侍女が数名いて、国家老親子を待っていた。
「杏一郎、よう参った。待ちかねたぞ。これが我嫡男の鶴千代じゃ。近う参れ。」
「鶴千代君(ぎみ)……お初にお目にかかりまする。杏一郎にございます。」
赤子は福々とした健康そうな男子で、藩主の腕を支えにつかまり立ちをしていたが、やがて人懐こい笑顔を浮かべて、まっすぐに杏一郎の膝へと這い寄って来た。
「おお、鶴千代さまは杏一郎どのを気に入ったと見える。」
若い御台所も、ころころと嬉しげに笑った。
「……そうだ。これを差し上げようと思って持って参りました。」
「それは?」
「わたしが赤子の時に、これを動かして見せれば泣き止んだそうなのです。わたしにはもう必要ありませんから、若さまに差し上げようと思い持って参りました。」
それは首を上下に振る小さな赤い牛のおもちゃで、杏一郎は幼子の前に置くと、ちょんと頭をつついて振らせた。
小さな手で力任せに触れようとするのを止め、抱き上げると背後からそっと手を添えて軽くつつくのだと教えた。
「……だぁ……」
「お上手です、鶴千代さま。」
乳の匂いのする赤子は、手を添えてもらって熱心に赤い牛の頭をつつき、にこにこと良く笑った。
それが、いずれ藩主となる鶴千代と杏一郎の出会いだった。
お読みいただきありがとうございます。(*⌒▽⌒*)♪
三話完結の番外短編です。
大津のパパが7歳、藩主はまだ一歳になっていません。
甘々な裁決をした、藩主と国家老のエピソードです。
(〃゚∇゚〃) 大津「7歳の父上がかわいい~」
(*⌒▽⌒*)国家老「まあ、わたしが殿の子守をしましたって言う話ですな。」
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