番外編 金襴の契り 1
藩校では春が終わると、年長の者が年少の者に一人ずつ付き、水練を教える。
川遊びで命を落とすことのない様に、日々の遊びの中で子供たちは兄分から色々なことを教わり身に付けた。
「鶴千代さま。いよいよ藩校の水練場で、教授方に泳ぎを見ていただく日が参りましたね。」
鶴千代はこくりと頷いた。
杏一郎に向けた物言いたげな視線が揺れる。
鶴千代は友人たちが兄分(念兄)に六尺の締め方を教わるのだと、うれしげに話しているのを聞いて居た。さすがに直接下世話な話こそしなかったが、六尺の締め方だけではなく、彼らの話を零れ聞く中で、年長者に通過儀礼として衆道の手ほどきを受けているらしいと気づいていた。
*****
「鶴千代さまは、双馬さまに色々教えていただくのですね。」
「双馬杏一郎は、鶴の御伽小姓じゃから、そうなると思う。」
「いいなぁ。双馬さまは何でもお出来になるし、男振りもよろしいから羨ましいです。」
と、羨望の眼差しを向けられ、それはどこか鶴千代の心に甘美な期待を湧き立たせた。
だが、当の杏一郎は鶴千代の心のうちなど意に介していない風だった。
「甲冑を付けての泳ぎは、いささか骨が折れますが、お教えした立泳ぎはお上手にできていますから大丈夫です。……鶴千代さま?どうかしましたか?」
「小十郎どのは如月どのに……教えてもらうそうじゃ。三郎太どのは、高橋どのに習うのじゃ。」
「藩校のご友人たちですか?」
「……うん。皆、それぞれに最近は、兄分と共に帰宅しておる。」
杏一郎は、そこまで聞いてやっと鶴千代が何を言い淀んでいるか理解した。
子供たちは、かつて自分もそうであったように、それぞれに兄分と言われる年長者に、日々の心得を学ぶ。
日頃の水練の成果を披露する場所で、子供たちは成年者と同じように子供用のもっこ褌ではなく六尺褌を締めることが許される。
言い換えればそれは、一人前と認められることでもあった。
「杏一郎は鶴千代さまに、六尺の締め方をお教えしますと、守り役の西郷さまにお伝えしてあります。乳母さまは殿の甥御さまの、早乙女修二郎さまにお願いするようにとおっしゃったようですが、殿がいつもお傍に居る双馬杏一郎が良いだろうとおっしゃいました。」
鶴千代の顔がぱっと明るくなり、目許に朱が走った。
「鶴も!……杏一郎が良い。」
「そうですか。では本日、御寝所で六尺の締め方をお教えいたします。若さまの御肌に触れますから、これより水垢離を取って身体を浄めて参ります。」
「……そのようなことはせずとも良い。まだ、水は冷たいし……あの……」
「気が急きますか?大丈夫です、鶴千代さまが覚えるまで、ずっとお付き合いいたしますから。」
ふっと笑顔を向けた杏一郎に、どこか安堵した鶴千代もつられて笑顔になった。
お久しぶり~ふの此花です。(*⌒▽⌒*)♪
ストックがないので、しばらく間が空いてしまいました。
いきなりの男色の手ほどきのお話です。(`・ω・´)←……だいじょぶか?まじで。
即物的な場面もあるかもしれません。精一杯書きたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
「桃花散る里の秘め」番外編も、一応これで終了となります。
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