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終(つい)の花 52 

天に誓って、大義に基づき間違ったことはしていない確信は、全ての会津人が持っていた。
愚鈍なまでの正義を貫いた忠誠の藩主は、ついに逆賊の汚名をそそぐべく全藩をあげた開戦を決意する。
容保の胸には、孝明天皇から頂いた大切な御製が竹筒に入れられて共にあった。誰よりも頼みに思っていると書いてある。
決して自らが戦を求めたわけではない。
いわれなきそしりを受けた会津の、潔白を証明するための避けられない戦であった。

*****

一衛は、包帯を巻き足を引きずる手負いの藩士達が、続々と江戸から帰郷するのを見つめていた。
毎日、今か今かと待っていた。

帰ってくるどの顔も、汚れ、疲れ果てていた。
父、伯父、そして直正に少しでも早く会いたかった。

「母上!梶原さまの奥方さまが、ややと共にお戻りになられました。平馬さまもご無事だそうです。」

一部の上級藩士は家族を連れてゆくことが許されていた。
晴れがましく出発した時とは違い、帰って来た女性たちも殆ど着の身着のままで、出迎えの人々は呆然と眺めた。
身分の高い上士の妻が、汚れた足袋でほつれ髪でいるのを、押しかけた藩士達の家族は信じられない思いで言葉無く見つめた。
どれ程の事が京で起こったのか、想像もできなかった。
家族は縁者を見つけると、声も無く涙した。どれほど言葉を尽くしても、彼らも無念を伝える事は難しかった。
黙って抱き合う姿があちこちで見られた。
耐えに耐えて傷ついた藩士たちを迎える家族も又、国許で辛抱を重ねていた。

「そう。ご無事でお帰りだったのね……良かったこと。」

そう言う一衛の母は、遠くへ視線を巡らせた。その先に、愛する夫がいる事を願っている。

「母上。わたしは峠まで様子を見に行って参ります。皆様、次々にお帰りですから父上や直さまももうじきお帰りかもしれません。」
「暗くなる前には帰るのですよ。お帰りは明日かもしれませんからね。」
「あい。」


峠の桜の木に登り、遠くを見つめていた一衛は、ぱっと顔を輝かせた。

「あっ……。」

何年離れていても、例え芥子粒ほどの人影でも、一衛が直正の姿を見間違えることなどない。
待ち人の姿に、自分だけが浮かれてはいけないと分かっていたが、律する気持ちは瞬時に跳ね飛んだ。
大人たちの久しぶりの対面は、始終苦渋に満ちた報告を兼ねていたし、藩士の中には京で命を落とした者も少なくない。
一衛は太い枝から飛び降りると、一目散に走りだした。

「直さまーーーっ!」

俯いた男が笠に手をやりこちらを向いた。

「……一衛……か?」
「直さまっ!直さま~っ……!」

どんと身体を預けたら、男はぐらりと諸共に倒れ込み楽しげに声を上げた。

「あはは……久しぶりだな、一衛。大きくなった。」
「直さまっ。お帰りなさいませ。」
「うん。やっと帰って来た。一衛は達者であったか?」
「……あい……っ。直さまも?どこもお怪我なぞなさっていませんか?お疲れの御様子です。」
「ああ。長旅だったからな。」

涙ぐんだ一衛をそのまま懐に抱きしめて、やつれた直正も感慨深げに頷く。
気になりながらもお役目に忙殺されて、故郷には長い間、文も送れなかった。
きっと心配させていただろう。
何より、京で叔父が命を落としたことを伝えねばならなかった。
付いた草を払ってやりながら、直正は暗い顔を向けた。

「帰ったら、叔母上と一衛に大切な話が有る。」
「ここではお話しできない事なのですか?」
「道すがら話せるようなことではないのだ。きちんと濱田家のご先祖様の前でお話させていただく。お渡しする物もあるのでな。」
「そうですか、ご仏前で……」

それだけで、一衛は気付いてしまった。
おそらく父は命を落としたのだ。




本日もお読みいただきありがとうございます。(`・ω・´)

(`・ω・´)「直さま。お帰りなさいませ。」←きりりっ!

からの~……
(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚「あ、会いたかった……え~ん」「帰ったぞ、一衛。」

会津藩士はこれから苦難の道を歩みます。   此花咲耶

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