終(つい)の花 55
誰もが命を賭して、愛する者たちの住む会津を守りたかった。
殿のお傍に仕えた白虎隊(士中一番隊)は、そのまま容保と共に籠城するが、士中二番隊はやがて戦の劣勢もあり、容保の命を受け戸ノ口原へ出兵する。
白虎隊は、多くの死傷者を出しながらも懸命の働きをしたが、新政府軍の火力には敗走するしかなかった。
やがて冷たい雨の中、隊長を失って迷走する彼らは、後世に語り継がれる飯盛山での集団自刃という悲劇の道を辿ることになる。
十五歳の一衛は必死に願ったが、年齢が一歳足りず、また身長も低かったため白虎隊には入れずに幼少組に入ることになった。それが命を分けることになった。
後に15歳に年齢を下げ、兵士を追加招集した時も、あまりに小柄な一衛は年齢詐称を疑われ入隊できなかった。
一衛よりも体格の良い友人は、日新館の教授の推挙を受けて、年齢を偽り希望通り白虎隊に入った者もいる。
仲間の誉れを共に喜びながら、それでもやはり一衛には納得がいかなかった。
一衛は、しょんぼりと直正の目の前に現れた。
「直さま……」
「どうした?元気がないな。」
「……一生懸命お願いしたのですが、一衛は白虎隊には入れていただけませんでした。」
「そうか。軍紀には従わねばならぬから、仕方がないな。」
「でも、たった一つです。……一衛はずっと鉄砲の稽古をしてきたのです。直さまは、京へ行かれる前、鉄砲の時代が来るとおっしゃました。だから……一衛は……上士が足軽の真似事をするなと、上の方々に言われてもずっと訓練を続けて来たのです。一衛は誰よりも早く弾込めできるし、的を撃ち抜けます。」
「うん。出来るなら、一衛の言う通りにしてやりたいとわたしも思う。だけどね、ほら……ここに来てごらん。」
「あい。」
直正はゲベール銃を持つと、一衛を引き寄せ傍らに立てた。
銃の長さは4尺ほどあり、一衛の背丈の方がほんの少し低かった。
「どれだけ一衛が達者に銃を扱おうと、一衛の身長では火薬を詰める時に時間がかかるだろう?これは大人が使うように設計されたものだからね。」
「でも……一衛はきっと……会津の御役に立ちますのに……」
泣くまいとして、一衛の目許に朱が走った。
「一衛。そうやってひかないところは、幼い頃と変わらないな。わたしも、本当のことを言うと、鉄砲を扱える一衛が殿の警護に加わってくれたら、どれだけ心強いか分からないよ。今、藩は一人でも鉄砲を扱える人材が欲しいからね。」
そう言われて、今にも泣きそうだった一衛の顔がぱっと明るくなる。
「では!直さまから、そうお口添えください。鉄砲隊隊長の直さまのご意見ならば、軍事奉行さまも聞いてくださるかもしれません。そうすれば、きっと一衛も白虎隊に入れていただけると思います。」
「う~ん。そうしてやりたいが、今はまだその時ではないな。どれほど悔しくても、合点がゆかなくても、ならぬことはならぬものだよ。今は悔しくとも、一衛の鉄砲の腕が必要になる時がきっと来る。歯がゆいだろうが、しばらくお待ち。いいね?」
仕方なく、一衛は頷いた。
無理を言っている自覚もあった。
本日もお読みいただきありがとうございます。(´・ω・`)
(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚「直さま……一衛は白虎隊に入れていただけませんでした。」「うん。規則だから仕方がないな。」
直正には京での敗戦と、叔父の戦死がいまだに深く傷になっています。
一衛を守るためなら、本当は白虎隊になど入れたくない……というのが、本心です。
一度、戦を経験するとやみくもに戦おうとは言えなくなるのです。勝ちの見えない戦争なら直のこと……(´・ω・`)
明日もお付き合いいただけると嬉しいです。 此花咲耶
※「ハイブリッド・チャイルド」というアニメ作品があります。
教えていただいてゆっくり鑑賞したのち、このちん号泣でした……(´;ω;`)えぐえぐ……
「ようつべ」に4話全編あるので、探してみてください。
接点はありませんが、ほんの少し、設定が会津っぽいのです。nさま。ありがとうございます♡
殿のお傍に仕えた白虎隊(士中一番隊)は、そのまま容保と共に籠城するが、士中二番隊はやがて戦の劣勢もあり、容保の命を受け戸ノ口原へ出兵する。
白虎隊は、多くの死傷者を出しながらも懸命の働きをしたが、新政府軍の火力には敗走するしかなかった。
やがて冷たい雨の中、隊長を失って迷走する彼らは、後世に語り継がれる飯盛山での集団自刃という悲劇の道を辿ることになる。
十五歳の一衛は必死に願ったが、年齢が一歳足りず、また身長も低かったため白虎隊には入れずに幼少組に入ることになった。それが命を分けることになった。
後に15歳に年齢を下げ、兵士を追加招集した時も、あまりに小柄な一衛は年齢詐称を疑われ入隊できなかった。
一衛よりも体格の良い友人は、日新館の教授の推挙を受けて、年齢を偽り希望通り白虎隊に入った者もいる。
仲間の誉れを共に喜びながら、それでもやはり一衛には納得がいかなかった。
一衛は、しょんぼりと直正の目の前に現れた。
「直さま……」
「どうした?元気がないな。」
「……一生懸命お願いしたのですが、一衛は白虎隊には入れていただけませんでした。」
「そうか。軍紀には従わねばならぬから、仕方がないな。」
「でも、たった一つです。……一衛はずっと鉄砲の稽古をしてきたのです。直さまは、京へ行かれる前、鉄砲の時代が来るとおっしゃました。だから……一衛は……上士が足軽の真似事をするなと、上の方々に言われてもずっと訓練を続けて来たのです。一衛は誰よりも早く弾込めできるし、的を撃ち抜けます。」
「うん。出来るなら、一衛の言う通りにしてやりたいとわたしも思う。だけどね、ほら……ここに来てごらん。」
「あい。」
直正はゲベール銃を持つと、一衛を引き寄せ傍らに立てた。
銃の長さは4尺ほどあり、一衛の背丈の方がほんの少し低かった。
「どれだけ一衛が達者に銃を扱おうと、一衛の身長では火薬を詰める時に時間がかかるだろう?これは大人が使うように設計されたものだからね。」
「でも……一衛はきっと……会津の御役に立ちますのに……」
泣くまいとして、一衛の目許に朱が走った。
「一衛。そうやってひかないところは、幼い頃と変わらないな。わたしも、本当のことを言うと、鉄砲を扱える一衛が殿の警護に加わってくれたら、どれだけ心強いか分からないよ。今、藩は一人でも鉄砲を扱える人材が欲しいからね。」
そう言われて、今にも泣きそうだった一衛の顔がぱっと明るくなる。
「では!直さまから、そうお口添えください。鉄砲隊隊長の直さまのご意見ならば、軍事奉行さまも聞いてくださるかもしれません。そうすれば、きっと一衛も白虎隊に入れていただけると思います。」
「う~ん。そうしてやりたいが、今はまだその時ではないな。どれほど悔しくても、合点がゆかなくても、ならぬことはならぬものだよ。今は悔しくとも、一衛の鉄砲の腕が必要になる時がきっと来る。歯がゆいだろうが、しばらくお待ち。いいね?」
仕方なく、一衛は頷いた。
無理を言っている自覚もあった。
本日もお読みいただきありがとうございます。(´・ω・`)
(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚「直さま……一衛は白虎隊に入れていただけませんでした。」「うん。規則だから仕方がないな。」
直正には京での敗戦と、叔父の戦死がいまだに深く傷になっています。
一衛を守るためなら、本当は白虎隊になど入れたくない……というのが、本心です。
一度、戦を経験するとやみくもに戦おうとは言えなくなるのです。勝ちの見えない戦争なら直のこと……(´・ω・`)
明日もお付き合いいただけると嬉しいです。 此花咲耶
※「ハイブリッド・チャイルド」というアニメ作品があります。
教えていただいてゆっくり鑑賞したのち、このちん号泣でした……(´;ω;`)えぐえぐ……
「ようつべ」に4話全編あるので、探してみてください。
接点はありませんが、ほんの少し、設定が会津っぽいのです。nさま。ありがとうございます♡
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