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小説・約束・29 

「責任者の方はいますか?」

先ほどの青年将校が、お爺様を訪ねてきて密かに告げた。

「今年は、豊作で予定以上の米を供出していただきました。わたしの一存で、これは軍用に持ち帰らず、こちらに飯米として置いておきます。これからますます軍局は厳しくなると思いますので、どうかそのつもりで備蓄してください。」

「わたしは大学生で、兵役猶予期間として召集免除されていたのですが、国家の非常時ということで召集されました。」

お爺様は、言葉をなくした。
国家の礎となるべき、兵隊に招集される人たちの年齢は若者から年を重ねた者まで多岐にわたっていた。

「日本の行く末が、心配でなりません。わたしの村では、子供と女と年寄りばかりが残っています。わたし達が、最後の砦を守る時期は近そうです。きっと守り抜きます、命を懸けて。」

夜遅くまで、そんな話を肴にして二人は語り合ったらしい。
さすがに新米は上手いと話をしながら、年若い将校は故郷の年を取った母親を思っているようだったと、次の朝、将校を見送った後、お爺様は語った。

「前途ある若者こそが、必要なんだがな・・・」

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