小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・37
「・・・てめぇっ!先公っ!!」
「みぃに、何しやがるっ!」
翔兄ちゃんの声がして、やっと凍った時間が動き始めた。
走ってきて、翔兄ちゃんが受け持ちの先生に両足でキックしたのか靴音がした。
何かがくぐもった悲鳴をあげて、どっと倒れこんだ音がした・・・
「みぃ!」
目隠しと詰め込まれた布が一気に取られ、やっと酸素が流れ込んできた。
翔兄ちゃんの顔を見たら、ぶわ・・・と涙が溢れた。
ぼくは息の出来ない金魚みたいになって、口をぱくぱくしていた。
「大丈夫なのか、みぃ。どこも痛くないか?」
がたがた震えながら、翔兄ちゃんの姿を見たら、やっと声が出た。
「ふぇ・・・翔兄ちゃ・・・ああぁんっ!」
物音に気が付いた翔兄ちゃんの友達が、素っ裸のぼくと翔兄ちゃんに異変を感じて、職員室に他の先生を大急ぎで呼びに行った。
体育の先生が飛んできて、怒り狂った翔兄ちゃんを止めるまで、受け持ちの先生は呆けたように、ずっと顔面に蹴りを受け続けていた。
後で聞いたら、腫れ上がった顔は、腐ったかぼちゃのようにぐずぐずだったと、翔兄ちゃんが言っていた。
見事に鼻骨と頬骨の、陥没骨折だって。
「中身が出るほど、蹴ってやればよかったんだ。」
「全治二ヶ月ぐらいじゃ、手ぬるいぞ、翔。」
洸兄ちゃんも朱里兄ちゃんも、話を聞いてものすごく怒りまくった。
「くそったれがっ!」
「あの野郎、みぃを泣かせやがって。一生許さねぇ。」
誰がどんなに慰めても、自分が悪いと言って、翔兄ちゃんは拳を白くなるほどぎゅっと固めて、ずっと自分を責めていた。
でもね、ぼくは暗い海の底のような不安の中で聞いた声を覚えてる。
正義の味方のように、ぼくを助けてくれた翔兄ちゃんは、すごく格好良かったんだよ。
「来い、みぃ!」
翔兄ちゃんは、教室で震えるぼくに急いで服を着せると、右手でぐいっと赤くなった目もとを拭った。
ぼくはといえば、もう何が何だか分からないまま、ずっとえぐえぐと泣きっぱなしで、頭と喉が酷く痛かった。
「翔、兄ちゃん・・・えっ、えっ・・・ん・・・」
「ごめん・・・、みぃ、ごめん。俺が、教室で待ってろなんて言ったからだ。」
「危なくても、ちゃんとベンチで待ってろって言えばよかったんだ・・・。」
「こんな・・・こと、みんな俺のせいだ。」
「ごめんよ、みぃ・・・わああぁあっっんっ!」
大声をあげて、拳を握りしめた翔兄ちゃんが謝りながら泣いたのを、ぼくは初めて見た。
そしてぼくは目もとを赤くして、黙りこくった翔兄ちゃんの背中に負われて帰って来た。
その日の夜に、校長先生と学年主任の先生が、おうちにやって来た。
「受け持ちの先公が、放課後の教室で、みぃを裸にして泣かせた。」
翔兄ちゃんから、そんな風に話を聞いたパパは蒼白で、ダンと応接台を拳で叩きつけたきり、黙り込んでしまった。
代わりに、叔父さんが話をしたらしい。
「で?訪問してきたと言うことは、あなた方は、何らかの結論をお持ちになったということですね?」
極めて冷静に話をする叔父さんに、校長先生はこれが初犯であったこと。
海広が女子ではなかったことを理由に、怪我などの実害はなかったことですし・・・出来れば穏便にと、鼻の汗を拭いた。
先に何の謝罪もないことに、叔父さんはすっかり呆れていた。
自分を責める翔兄ちゃん。小さくたって男前です。
それに引き換え、おとなって。おとなって。あっちでもこっちでも、可愛い子達、襲われ中。 鬼畜修行、此花
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「みぃに、何しやがるっ!」
翔兄ちゃんの声がして、やっと凍った時間が動き始めた。
走ってきて、翔兄ちゃんが受け持ちの先生に両足でキックしたのか靴音がした。
何かがくぐもった悲鳴をあげて、どっと倒れこんだ音がした・・・
「みぃ!」
目隠しと詰め込まれた布が一気に取られ、やっと酸素が流れ込んできた。
翔兄ちゃんの顔を見たら、ぶわ・・・と涙が溢れた。
ぼくは息の出来ない金魚みたいになって、口をぱくぱくしていた。
「大丈夫なのか、みぃ。どこも痛くないか?」
がたがた震えながら、翔兄ちゃんの姿を見たら、やっと声が出た。
「ふぇ・・・翔兄ちゃ・・・ああぁんっ!」
物音に気が付いた翔兄ちゃんの友達が、素っ裸のぼくと翔兄ちゃんに異変を感じて、職員室に他の先生を大急ぎで呼びに行った。
体育の先生が飛んできて、怒り狂った翔兄ちゃんを止めるまで、受け持ちの先生は呆けたように、ずっと顔面に蹴りを受け続けていた。
後で聞いたら、腫れ上がった顔は、腐ったかぼちゃのようにぐずぐずだったと、翔兄ちゃんが言っていた。
見事に鼻骨と頬骨の、陥没骨折だって。
「中身が出るほど、蹴ってやればよかったんだ。」
「全治二ヶ月ぐらいじゃ、手ぬるいぞ、翔。」
洸兄ちゃんも朱里兄ちゃんも、話を聞いてものすごく怒りまくった。
「くそったれがっ!」
「あの野郎、みぃを泣かせやがって。一生許さねぇ。」
誰がどんなに慰めても、自分が悪いと言って、翔兄ちゃんは拳を白くなるほどぎゅっと固めて、ずっと自分を責めていた。
でもね、ぼくは暗い海の底のような不安の中で聞いた声を覚えてる。
正義の味方のように、ぼくを助けてくれた翔兄ちゃんは、すごく格好良かったんだよ。
「来い、みぃ!」
翔兄ちゃんは、教室で震えるぼくに急いで服を着せると、右手でぐいっと赤くなった目もとを拭った。
ぼくはといえば、もう何が何だか分からないまま、ずっとえぐえぐと泣きっぱなしで、頭と喉が酷く痛かった。
「翔、兄ちゃん・・・えっ、えっ・・・ん・・・」
「ごめん・・・、みぃ、ごめん。俺が、教室で待ってろなんて言ったからだ。」
「危なくても、ちゃんとベンチで待ってろって言えばよかったんだ・・・。」
「こんな・・・こと、みんな俺のせいだ。」
「ごめんよ、みぃ・・・わああぁあっっんっ!」
大声をあげて、拳を握りしめた翔兄ちゃんが謝りながら泣いたのを、ぼくは初めて見た。
そしてぼくは目もとを赤くして、黙りこくった翔兄ちゃんの背中に負われて帰って来た。
その日の夜に、校長先生と学年主任の先生が、おうちにやって来た。
「受け持ちの先公が、放課後の教室で、みぃを裸にして泣かせた。」
翔兄ちゃんから、そんな風に話を聞いたパパは蒼白で、ダンと応接台を拳で叩きつけたきり、黙り込んでしまった。
代わりに、叔父さんが話をしたらしい。
「で?訪問してきたと言うことは、あなた方は、何らかの結論をお持ちになったということですね?」
極めて冷静に話をする叔父さんに、校長先生はこれが初犯であったこと。
海広が女子ではなかったことを理由に、怪我などの実害はなかったことですし・・・出来れば穏便にと、鼻の汗を拭いた。
先に何の謝罪もないことに、叔父さんはすっかり呆れていた。
自分を責める翔兄ちゃん。小さくたって男前です。
それに引き換え、おとなって。おとなって。あっちでもこっちでも、可愛い子達、襲われ中。 鬼畜修行、此花
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