小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・40
お兄ちゃんに正直に言ってみろ、みぃ。」
朱里兄ちゃんはこんなときは厳しくて、一度言い出したら絶対引かない。
だから、ぼくはそうっと打ち明けた。
「6年生がみぃくんのこと、おかまって言うの。
他にも、オトコオンナとか・・・言うの。」
「翔兄ちゃんの仲良しだった女の子達のこと、おかまと一緒にいるブスって言ったから・・・
みんな、もう遊んでくれないっていうの。」
「ふ~ん。」
「受け持ちの先生が学校に来れないのも、みぃくんがちくったせいって言うの。
朱里兄ちゃん。みぃくん、何も言ってないけど、みぃくんが・・・悪いのかなあ・・・」
上手く説明ができなくて、涙がいつの間にかほろほろ零れてきて、ぼくは朱里兄ちゃんの制服の上着を濡らした。
「ばぁか。みぃが悪いわけないだろ。」
「みぃは、誰よりいい子だよ。」
「みぃのパパもおじさんやおばさん、お兄ちゃん達、みんな知ってる。」
「いじめるやつの方が、悪いに決まってるじゃないか。」
朱里兄ちゃんが、わざわざ小学校に寄ったのは翔兄ちゃんが話をしてくれたからだった。
学校で6年生にみぃがいじめられているんだと、翔兄ちゃんは朱里兄ちゃんに話をしたらしい。
きっと、翔兄ちゃんもぼくの事で困ってたんだ・・・
だって、いくら翔兄ちゃんが強くても、相手は一人じゃなかったから。
パパがため息をつくから、お兄ちゃん達みたいになりたかったのに、「おかま」だなんて悲しすぎる・・・。
朱里兄ちゃんは、洸兄ちゃんのようにお話は余りしなかったけど、翔兄ちゃんは頼りになると言っていた。
「6年のサッカー部のヤツ等に、召集かけるか・・・。」
ぼくが背負ってたお下がりのランドセルを、自転車の前かごに入れてくれて、朱里兄ちゃんは歩き出した。
ぼくも、後を追った。
最近、あちこちに隠されたり、投げられたりで、朱里兄ちゃんに貰ったランドセルは、汚れたり傷んだりしていた。
「みぃはお下がりでも、綺麗に大事に使っていたのになぁ・・・」
独り言のように、小さな声で朱里兄ちゃんが言った。
「我慢してないで、ちゃんと俺にも言えよ、みぃ。」
朱里兄ちゃんは、サッカー部の先輩になる。
しかもプロサッカーのチームから、将来有望として、ジュニアのユースチームに勧誘されるくらいだったから、サッカーをしている子達には、すごく尊敬されていた。
サッカー部の6年生が、さっと揃って気をつけをしたのが何だかおかしかった。
朱里兄ちゃんは、サッカー部の人たちに、
「あのさ。こいつは俺の弟みたいなものだから、おまえら、悪いけど気にかけてやってくれないか?」
と、頼んでくれた。
「いじめたやつ分かっているから、直接締めてもいいんだけど、話がでかくなるからさ。」
「こいつの見た目がこんな風なのは、本人じゃどうしようもないし。
めそめそしてんのは、母ちゃんが亡くなったせいだから、いじめないでやってよって、話つけてやって。」
そのあと、県大会には出ないで、ユースのチームの試合に出るから応援に来いよ、なんて話をしていた。
朱里兄ちゃんも、上級生に「じんぼう」があるみたいだ。
朱里兄ちゃんが弟みたいって言ってくれて、嬉しくてちょっとどきどきした。
向こうから翔兄ちゃんが駆けて来て、背中から覆いかぶさった。
「こら、みぃ。朱里兄に、誘拐されてんなよ。」
こんな風に、三人の血のつながらない兄は、それぞれにいつも優しかった。
色々あったけど、曲りなりにも不登校にならずに学校に行けたのは、お兄ちゃん達のおかげだったと思う。
みぃくんは、ちゃんと、優しさが分かる子に成長しています。うん、いい子だ。 此花
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