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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・66 

「そ・・・う。」

成瀬の様子は、殆ど変わらなかった。

「学校は?みぃは、学校ではどうなの?浮いていたりする?」

「今、クラスでいじめられているらしいんだ。
俺は仕事にかまけてばかりで、みぃが家出してやっと友達と名の付くヤツが一人しかいないって知ったばかりだ。」

「男の子には、オトコオンナっていわれるし、女の子には可愛いのが気にいらないって言われたらしい。」

話をしているうちに、みぃが哀れで何だか可哀想で、段々口が重くなってきた。

「松原さん。それであんたはみぃをどうしたいの?」

ミネラルウォーターを、ボトルごとよこして、成瀬はそこを聞いた。
俺は言葉を選び、何があってもみぃを失いたくないとだけ答えた。
確かに俺は、海広の読んでいる本を取り上げて、外で遊べだの、男の子らしく野球やサッカーを強要したときも有った。
だが、みぃを失うことに比べたらどんなことも全て些細なことだと今なら分かる。
あの、炎の中に救うべくもなく置き去りにしてしまった息子を二度も失うことを思えば、世間体など大したことなどないと思えた。

くす・・と、成瀬の口角が上がる。

「松原さん。約束どおりちゃんと、親父やってたんすね。でもね、酷なことを言うようだけど・・・」
と、成瀬は言った。

「もし、俺が思っているとおりなら、これからみぃが歩く一生は、あんたが想像もつかない茨の道だよ。」

理屈で分かっていても、そんな簡単に割り切って認められるもんじゃないから・・・と、成瀬は言う。

「性同一性障害って、聞いたことあります?」

最近はテレビドラマになったし、普通に可愛い男の子が女装してたりするから、頭のどこかで聞いたことがあるような気がしていた。

「障害って・・・それ、病気なのか?病気なら、治るのか?」

「障害と名を付けたのは、健全と言われてる連中ですけどね。」

「俺が、あれだけ愛していた祥子と、何故結婚しなかったか分かります?」

成瀬は、立ち上がると上着を取り、しゅとネクタイを抜いた。
見つめる視線が外されないので、俺は少し困ってしまった。

「いや、分からんが・・・」

「しなかったんじゃなくて、本当は理由があってできなかったんすよ。」

ほら、これと目の前に広げた書類は、成瀬の戸籍謄本だった。

「戸籍謄本・・・?」

「名前、みて。」

「成瀬・・・彩香・・・あやか・・・?」

「それね。元の俺の名前。さやかって読むんです。」

眼前の男のしれっという、打ち明け話は余りに強烈だった。
俺は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、ただ黙って聞いているしかなかった。

「俺は、今時珍しい、6人兄妹の末っ子でね。」

「親が生きている間は何もせんでくれと長男に泣いて頼まれたんで、祥子が入院してる頃は、手術も戸籍変更もできなかったんすよ。」

シャツのボタンに手を掛けると、ゆっくり表情をうかがいながら外してゆく。

「ちょ・・・ちょっと、待ってくれ。」

「ん?」

海広じゃないが、酸欠の金魚のように俺はその場で、仰天していた。

「お、俺には、君が男に見える・・・。」

成瀬は、くっと笑った。

「男っすよ~。そっか、やっぱり松原さんは、ノンケだからマイノリティのことは何もご存じないんだ。」

日本語なのに、すんなりと頭に入ってこない。

のんけ・・・?呑気・・・?

「市営プールに、上半身裸で飛び込める感動なんて、松原さんには一生わかんないんだろうなぁ。」

不思議な生き物をみるような目で、見ないでくださいと成瀬が言った。

スーツを脱いで、ほらといって胸の傷跡を見せた。
赤い二本のみみずばれが、胸に沿って走っていた。

「祥子がいないんで、性転換手術を完璧にするのはやめたんすよ。」

乳房と子宮を取って、月の物から開放されたら気持は男でいられるからと、成瀬は言う。








成瀬のおじさんの驚愕の真実に、常識的なパパはきっと目を白黒させています。
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此花、毎日感涙です。これからどうぞもよろしくお願いします。  此花
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