一片(ひとひら)の雪が舞う夏に ２２
翌朝、目覚めると、冷蔵庫のあり合わせで朝食の用意をして、三崎の姿は消えていた。
まだほんのりと、インスタントの味噌汁は温かだった。
律義に書置きがあった。
「おはようございます。家に帰って着替えてから出社します。三崎 深雪」
「そういや、あいつの名前、深雪（みゆき）だったな…。」
女みたいな名前だと言われて、中学の時に級友と大喧嘩をして廊下に正座させられていたのを見た覚えがあった。これまで苗字でしか呼んだことがなかったから、すっかり失念していた。あいつさ、優しげな姿に似合わず中身は結構激しいんだと、鼻にティシュを詰め込んだ三崎の雄姿を遠巻きにして、ぽつりと誰かが言った気がする。
確かに両鼻から鼻血垂らした小猿の名前が美雪とは、思いつきにくい。
「深雪に六花…、雪つながりだな。」
不自然に思い出した符号を、何に結び付けようと言うのか。
おれは、突飛な思い付に思わず苦笑したが、出社してその笑いは凍りつくことになる。
＊＊＊＊＊
副社長から、朝一で呼び出しを受けた。
三崎は母親似という事で、渋い二枚目の父親には似ていない。社の誰も気づかないはずだと思う。その、整った三崎の父親は、決して笑ってはいなかった。
「副社長。先日は思いがけず、お口添えいただきありがとうございました。三崎君から、話は聞きました。お陰様で昨日から社に、復帰できました。」
深々と最敬礼したおれに、軽く頷いた副社長は浮かない顔を向けていた。
「みぃた・・・深雪が、君のことをずいぶんと慕っているようだね。」
「は…。」
今、三崎の事を「みぃたん」と言ったのか？いかん、笑いがこみ上げて来る。何とか抑えないとっ！！いい年して、なんつ～・・・、みぃたんとパパかよ。
脳裏に某ハンバーガー屋の、「…やめてよ、僕もう42(歳)だよ！」というＣＭが浮かんだ。
「三崎君は、中学のころからの後輩ですから。」…としか、言いようがないだろ…、この場合。
「物わかりの無いことを言うような気はないが、あの子は昔からどこか抜けているようなところが有っただろう？それもあって、つい過保護にしてきてしまったんだが、まあ社としても君を失うのは惜しかったし、美雪にも良い顔をできたし互いに悪い話ではなかったということだ。」
「はい。以後は軽率な行動は取らないように、重々注意します。」
「そうしてくれ。で、話はここからなんだが、今朝、書置きを残して美雪が家出した。」
「は…？家出…ですか？あの…まさか、外泊を叱ったとかじゃないですよね？」
眉間に深く縦じわが刻まれたところを見ると…どうやら、その「まさか」みたいだ。おいおい。子離れ出来てねぇのかよ、おっさん。
「三崎は出社してますか？」
「ああ。午前中に君と商談をまとめるんだろう？そんなことを言ってたな。」
おれの脳内小劇場。
三崎：「パパの為じゃないからね！ぼく、先輩と会社の為に仕事がんばるんだからっ！会社で上司ぶって声かけないでよねっ！(｀・ω・´)」
副社長：「みぃたん～…(´・ω・｀) 」
三崎：「ぷんっ！( *｀ω´) 」
親子喧嘩の顛末は、後ほど聞くとして、とにかくおれは朝一で三崎と一緒に出掛ける必要があった。新築間もない億ションを、半値で買いたたき転売する。
向こうは今すぐにまとまった現金が欲しいし、こちらは都内の格安物件を探していたところだ。耐震性や、利便性、調べることは山ほどあった。
頬を染めた三崎が、ロビーで待っている。
「仕事だからな。」
「勿論です。仕事に私情は挟みません。」
本当は腕組みたいけど、怒るでしょう？と三崎がささやく。
「当たり前だろう、恋人同士じゃあるま・・・ってもだ。仕事がうまくいったら、乾杯するぞ。副社長に、仕事のできるところ見せないとな。」
「はいっ！全力でがんばります。」
ああ、本当にどうしたんだろう。三崎がちびの雪男にかぶって仕方がない。
新しい展開です。
某ハンバーガ―屋さんのＣＭ。
此花は、ありえない設定が面白くて笑ってしまいました。42歳の息子が「パパ」父親は「パパはやめなさい、ゆ～たん」ｗｗｗ(〃▽〃)
動画捜してみたのですけど、まだなかったです。
拍手もポチもありがとうございます。
感想、コメントもお待ちしております。
ランキングに参加していますので、よろしくお願いします。 此花咲耶
まだほんのりと、インスタントの味噌汁は温かだった。
律義に書置きがあった。
「おはようございます。家に帰って着替えてから出社します。三崎 深雪」
「そういや、あいつの名前、深雪（みゆき）だったな…。」
女みたいな名前だと言われて、中学の時に級友と大喧嘩をして廊下に正座させられていたのを見た覚えがあった。これまで苗字でしか呼んだことがなかったから、すっかり失念していた。あいつさ、優しげな姿に似合わず中身は結構激しいんだと、鼻にティシュを詰め込んだ三崎の雄姿を遠巻きにして、ぽつりと誰かが言った気がする。
確かに両鼻から鼻血垂らした小猿の名前が美雪とは、思いつきにくい。
「深雪に六花…、雪つながりだな。」
不自然に思い出した符号を、何に結び付けようと言うのか。
おれは、突飛な思い付に思わず苦笑したが、出社してその笑いは凍りつくことになる。
＊＊＊＊＊
副社長から、朝一で呼び出しを受けた。
三崎は母親似という事で、渋い二枚目の父親には似ていない。社の誰も気づかないはずだと思う。その、整った三崎の父親は、決して笑ってはいなかった。
「副社長。先日は思いがけず、お口添えいただきありがとうございました。三崎君から、話は聞きました。お陰様で昨日から社に、復帰できました。」
深々と最敬礼したおれに、軽く頷いた副社長は浮かない顔を向けていた。
「みぃた・・・深雪が、君のことをずいぶんと慕っているようだね。」
「は…。」
今、三崎の事を「みぃたん」と言ったのか？いかん、笑いがこみ上げて来る。何とか抑えないとっ！！いい年して、なんつ～・・・、みぃたんとパパかよ。
脳裏に某ハンバーガー屋の、「…やめてよ、僕もう42(歳)だよ！」というＣＭが浮かんだ。
「三崎君は、中学のころからの後輩ですから。」…としか、言いようがないだろ…、この場合。
「物わかりの無いことを言うような気はないが、あの子は昔からどこか抜けているようなところが有っただろう？それもあって、つい過保護にしてきてしまったんだが、まあ社としても君を失うのは惜しかったし、美雪にも良い顔をできたし互いに悪い話ではなかったということだ。」
「はい。以後は軽率な行動は取らないように、重々注意します。」
「そうしてくれ。で、話はここからなんだが、今朝、書置きを残して美雪が家出した。」
「は…？家出…ですか？あの…まさか、外泊を叱ったとかじゃないですよね？」
眉間に深く縦じわが刻まれたところを見ると…どうやら、その「まさか」みたいだ。おいおい。子離れ出来てねぇのかよ、おっさん。
「三崎は出社してますか？」
「ああ。午前中に君と商談をまとめるんだろう？そんなことを言ってたな。」
おれの脳内小劇場。
三崎：「パパの為じゃないからね！ぼく、先輩と会社の為に仕事がんばるんだからっ！会社で上司ぶって声かけないでよねっ！(｀・ω・´)」
副社長：「みぃたん～…(´・ω・｀) 」
三崎：「ぷんっ！( *｀ω´) 」
親子喧嘩の顛末は、後ほど聞くとして、とにかくおれは朝一で三崎と一緒に出掛ける必要があった。新築間もない億ションを、半値で買いたたき転売する。
向こうは今すぐにまとまった現金が欲しいし、こちらは都内の格安物件を探していたところだ。耐震性や、利便性、調べることは山ほどあった。
頬を染めた三崎が、ロビーで待っている。
「仕事だからな。」
「勿論です。仕事に私情は挟みません。」
本当は腕組みたいけど、怒るでしょう？と三崎がささやく。
「当たり前だろう、恋人同士じゃあるま・・・ってもだ。仕事がうまくいったら、乾杯するぞ。副社長に、仕事のできるところ見せないとな。」
「はいっ！全力でがんばります。」
ああ、本当にどうしたんだろう。三崎がちびの雪男にかぶって仕方がない。
新しい展開です。
某ハンバーガ―屋さんのＣＭ。
此花は、ありえない設定が面白くて笑ってしまいました。42歳の息子が「パパ」父親は「パパはやめなさい、ゆ～たん」ｗｗｗ(〃▽〃)
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