一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 17
そこにあっても手を触れられなかった多くの少年隊士の遺体はやっと、遺族の元へ戻った。遺族は小さな木片に名を刻み、わが子が分かるように遺体のそばに印をつけていた。
源七郎には多くの者と一緒に、鎮魂の碑が建てられた。だが、身内のいない雪男には墓標はなかった。
これ以上は、本当は見せたくない…と、雪男は言う。
「きっと目を覆いたくなる…。草生してゆくのは良い眺めではない。」
それでも、おれはここまで知った以上、先を見たいと食い下がった。
「自分が見ても、結構ひどい有り様なんだ。そういえば、亡骸を見た新政府の役人が、反吐を吐きながら号泣していた。」
それはそうだろう、身長と変わらないような銃を抱えて彼らは戦ったのだから…。自分たちの雨あられと撃った銃弾が貫通した小さな遺体を見れば、誰だっていたたまれないだろう。心あるものは涙するに違いない。
小柄な死体には、蠅がたかり蛆がわき、しで虫やハンミョウが寄ってきた。
腹を空かせた野犬が死肉を食いちぎり、烏が目玉をつついた。
可愛らしかったちびの桃太郎は、散々に時代に蹂躙されていた。ちびの雪男は、死んで魂魄となっても大好きな源七郎を守ろうとその場にとどまり続け、自分の身体が朽ちて地にかえってゆくのを大きな目でじっと眺めていた。鉢金も、とうに錆びついている。
痩せた野犬が大腿骨を咥えて、どこかへ走ってゆく。
魂だけでも、御先祖様と父母の眠る墓所に行く術もあったのだろうが、雪男はそうしなかった。源七郎の亡骸を守ると言う強い意思が妄執となり、その地に囚われて雪男は地縛霊になりかかっていた。
…その場には、もう源七郎の魂はなかったのに、ひたすらの思いがその場所に雪男を縛り付けた。
「な…何かさ、ごめんな。何もしてやれなくて…。こんな時代が有った事すら、知らなくて…まじ、申し訳ない。」
胸が潰れそうな哀しい記憶にどっぷりとつかり、おれはその時代にさかのぼりほんの少し、我慢しきれなくて涙した。
「気が遠くなるくらい、遠い過去の話だ。誰のせいでもない。誰が間違ったとか、正しいかとか後世の人々は言うだろうが、我も敵方も、大局の在りかたも知らずただ自分の信じる大義の為に懸命に生きていただけだ。…生きて死ぬ。いつの時代もそういうものだろう。我は道を外れてしまったがな…。」
「そうかもしれないけどさ…それでも、おれは雪男に詫びたいと思うよ。こんな贅沢な時代に生まれて、何も知らなかったってことが、今は申し訳ないくらいだ。」
雪男は冷蔵庫の中から出てきて、おれの傍に坐った。そっと触れるとどこかほんのりと温いのは、体が溶ける準備をしているという事だ。
時を経て、精神と見た目は成長していたが、どこかにちびの桃太郎はそっと息を詰めて唇を噛み締めているような気がしていた。
ただ黙って、おれは雪男をすっぽりと抱いていた。
源七郎の亡骸を包み込んだ、ちびの桃太郎のように…。
実は此花、生まれて初めてコピー本を作りました。(`・ω・´)←すっごく、がんばってみた!
最初のほうに作ったものは、カッターで切るのを失敗してしまって、ちょっとギザギザになってしまいました・・・(ノд-。)
下手くそですけど、手作り本を作るのが何だか楽しくなってきました。(*⌒▽⌒*)♪
上手くいったら、お披露目します~(*⌒▽⌒*)♪←ほんとか~・・・
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