一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 15
「さあ、話はついた。三崎も裏で、骨を折ってくれたんだろう?おかげで、首がつながったよ。ありがとう。」
「いえ。これまでの先輩の働きが認められただけです。先輩の立ち上げたプロジェクトが専務の言葉を借りれば、今は金を産む鶏です。」
三崎はおれを見上げたまま、懐の中に居た。その腰におれの手が添えられているのが、ちょっと笑える。
普通、男に縋られたら飛んで離れるところなんだろうが、三崎は中学の時からサッカー部の後輩で、張ったふくらはぎのマッサージなどもしてやったせいか、こんな至近距離で触れていても不自然な気持ちは全くなかった。
それに全幅の信頼という奴は、寄せられると小気味のいいものだ。三崎の大きな黒い瞳に、おれが写っていた。
「がんばれよ、三崎。親の七光りで入社したんじゃないって、見せてやろう。いつか堂々と他の奴に親父の事、名乗ろうな。」
「はい。先輩と仕事ができるなら、ぼくはなんだって出来る気がします。頑張ります。」
「買い被りだけど、褒め言葉として受け取っておくよ。」
紅顔の美少年は、ぐいと手の甲で零れ落ちそうな涙を拭った。三崎は、いつも変わらなかった。
「実はさ、昨日は気が立ってて、一睡もしてないんだ。お言葉に甘えて、今日は有給を使わせてもらうよ。また、明日っからよろしくな、三崎。」
「はい!…あ、そういえば親戚の方、いらしてましたよね。しばらく先輩の所にいらっしゃるんですか?」
何といえばいいかと思ったが、この真っ直ぐな瞳に嘘はつけなかった。
「たぶん、今日か明日くらいには、いなくなると思う。そうしたら、しばらくは会えなくなるな、。」
「そうですか?何かこう…凛としていて、若いんだろうけど、古風な感じでしたね。落ち着いていると言うか…ああいうの、浮世離れしてるって言うのかな。先輩も男前だけどタイプが違ってて、古風な芯のある美人って感じだった。親戚だって言ってたけど、余り似てないんですね。」
「あ…ああ。うんと遠縁だからかな。」
おれは…実の所、ちょっと感心した。ほんの少し顔を見合わせたくらいなのに、よく、そこまで瞬時に的確に観察できたな、三崎。人と関わる営業としちゃ、絶対成功者になると思うぞ。
「そうだ、先輩。帰りにお邪魔してもいいですか?日持ちのする焼き菓子かなんかだったら、お土産になると思うし。」
「そうか、土産は思い付かなかったな。じゃあ、頼むな。」
ものを食うかどうかもわからなかったが、むげに断ってもおかしいだろうと思い好意を受けることにした。
本当は、雪男が気になって仕方がないんだろう。三崎が来た時に、雪男が溶けているかどうかは分からなかったが、三崎のちっぽけな不安を払ってやるために、わざと明るく喜んで見せた。
その後、階下に降りるエレベーターホールで、数人の同僚に会い昨夜の事を詫び、上司とのやり取りを短く報告した。
「そうか、良かった。おっさんと円満に話がついたのか?」
「上に話が行ったんじゃないか?どちらか一方って言われたら、俺だったら柳を取るな、会社の今後の利益の為に。」
「なんつ~…金かよ。その性格好きだぜ。」
他に何が有る?と言い放った同僚と笑い合って、別れた。
急がないと。
とにかく、今は急がないと。
(ノ_・。) すまぬ~…。昨夜は、定時にあげられませんでした。ごめんね。
書いて校正して、推敲してほっと一息ついて、そのまま寝てしまいました。
ヽ(`Д´)ノ ウワァァァァァン! ←此花のあんぽんたん~
時々、作品を一気読みしてくださる方がいらっしゃいます。
拍手をいっぱいいただきました。望外の幸せ、至福のひと時です。
きゃあ~…(〃▽〃)
作品数も増えてきたので、頑張ってHP作成中です。
自分を追い込むために、ここにご報告しておきます。←墓穴…(´・ω・`)
拍手もポチもありがとうございます。
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