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恋するアンドロイドAU 1 

昨年末の話だった。

人気ユニセクスモデルのATUSHIこと上田厚志は、せっかくの休暇をたった一人で過ごしていた。恋人の秋月音羽がクリスマスにカードと、仕事で逢えなくなったと言う内容の短いメールを送って来て、恋人たちの大切なクリスマスに何のイベントもないのが決定的になってしまった。

「お~、まいが……っ。」

あっくんは携帯を握り締めて、泣きぬれていた。傍には、「メリークリスマス」と、簡単なメッセの入ったカードが落ちている。世界的に有名なマルセル・ガシアンのお気に入りのトップモデルも、恋人の前ではなかなか勝者になれない。

みにくいあひるの子だったあっくんは、音羽の前では今も不器用な小さなひよこのままだ。
あっくんの肌理細かな白蝋の肌に、悲しみの透明な滴がいくつも転がってゆく。泣きすぎて、鼻の頭はとっくに赤くなっている。膝に抱えて洟をかんだティシュは、こんもりとうず高くゴミ箱で山になっていた。

「え~ん……、お兄ちゃん~、音羽と逢えない~。サンタさんが、あっくんの所だけ来ない~。サンタさん~……え~ん、音羽を連れてきて。」

輝く金髪碧眼、美貌の兄の厚一郎の胸で、あっくんはめそめそと泣きぬれていた。

「あうっ……うっ……えっ、えっ……ん……音羽の馬鹿ぁ~……。」

「前にも同じことが有ったような気がするね、一人ぼっちの赤鼻の厚志。音羽はお前をほったらかして、何をやってるんだ?クリスマスも正月もずっと仕事なのか?」

「ん……。多分、そうだと思うの。電話しても返事はないし、もちろん携帯に何度もメールを入れたのだけど……病院は原則携帯電話は禁止だから……出てくれないの。くっすん。音羽はあっくんに会えなくても平気なのかなぁ……。ぼくは、こんなに哀しいのに……。」

「電話に出ないのは、大方はマナーの問題だと思うよ。医師の音羽が精密機械の傍で、携帯に出るとは思えないからね。厚志の音羽は、どこの誰よりも堅物だからね。だけど可愛い厚志をこんなに泣かせるなんて、あんなに融通の利かないのも困りものだね。」

「え~ん、音羽を悪く言っちゃやだ~。」

「もしかすると、もう、ひよこに飽きたんじゃないのか?」

「えっ……?あ、ルシガ。」

「もしくは、ひよこに飽きて勃たなくなったんじゃないのか。それで会えないのかもな。迷惑ばかりかけているみたいだからな~。ひよこ、俺が何とかしてやろうか?」

厚一郎の恋人ルシガが、横合いから楽しげに話に割って入った。だけど、この男が頭を突っ込んで、話がうまくいったためしはない。
ルシガはいつも面白がって、世間に疎いあっくんと音羽をからかってばかりなのだった。あっくんも、それは十分わかっていた。

「いらないっ。ルシガはぼくを音羽の所に追い出して、おにいちゃんと二人きりになりたいだけなんでしょう……?ルシガは、ぼくのこといつもお邪魔虫だって思ってるんだ。知ってるもの……ぼくがここに来た日、ぼくの顔を見てルシガは舌打ちしたんだよ。ちっ……って。え~ん……。ほら、又「ちっ」て言った~。お兄ちゃん~。」

「そうなのか……?ルシガ?」

「いやいや。厚一郎の大事なひよこを、俺が粗末にするわけないじゃないか。」

「……そう?だったらいいけど。」

ルシガは厚一郎の咎めるきつい視線に気が付いて、慌てた。ルシガの最愛のオスカル……厚一郎は、このぴいぴい泣いている弟、あっくんをとても大切にしている。ルシガにとっても厚志は、最愛の恋人の命を救うために肝臓を分け合ってくれた、かけがえのない存在だった。

「神に誓って、おれはひよこ……厚一郎の弟を虐めたりしないよ。」

「厚志を泣かせたら許さないからね。」

重い肝臓病だった厚一郎に、トップモデルでありながら、あっくんは当たり前のように35パーセントの肝臓をくれた。身体に傷が残る大きな手術だと知っても、モデル生命よりもおにいちゃんの方が大切だからと、あっくんは躊躇なくキャットウォークを降りると告げた。勿論、あっくんにべた惚れのデザイナー、マルセル・ガシアンはその位の事であっくんを手放そうとはしなかったばかりか、復帰のファッションショーを大々的にぶち上げたくらいだ。




あっくんのお話しの続編です。
うんと甘いお話になればいいな~と思っています。
しばらくお付き合いください。

アンドロイド





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