恋するアンドロイドAU 6 【最終話】
「でも、音羽が忙しい時は?メールしても出てくれないときもあるし。」
「そういう時は、厚一郎とルシガに相談だ。」
「はぁい。」
忘れないように大書した紙が、冷蔵庫に張られた。
さすがにすっぽんは音羽の手に負えなくて、魚屋に頼んで引き取ってもらうことになった。すっぽんは、精力増強に効くだけではなく美容(お肌)にもかなりいいらしい。あっくんは、コラーゲンが豊富だとか生き血を飲めば肌の肌理が細かくなるとか、そういう美容に関わる事はモデル仲間に聞いて良く知っていた。
だから、本当はかなり未練がある様子だったが、この子とは目が合ってしまったので、もう食べるのは諦めましたと素直に魚屋にすっぽんの入った箱を渡した。
「今度注文を貰ったら、ちゃんと捌いてすっぽん鍋にしてきますよ。生が良いって話だったんで、こちらの奥さんに調理できるかうちの親父も心配してたんです。」
「申し訳ないが、実は急に旅行が決まってね。帰ったら連絡を入れるから、その時は頼む。」
「はい。良いですねぇ。綺麗な奥さんと旅行なんて、旦那がうらやましいです。それじゃ。」
旅支度をしたあっくんは、魚屋の若旦那がぼうっと見惚れるほど美しかった。さすがにトップモデルだけあって立っているだけでその場に大輪の薔薇が咲き誇ったようだ。見慣れたはずの音羽も、あっくんのこういう美々しい姿を見ると、時々ほわほわとしたひよこのあっくんとの落差に別人のような気がする。
二人はこれから北欧へ旅立つことになっていた。
音羽はあっくんの驚く顔が見たくて、昔訪れたことのあるアイスホテルに予約を入れた。
「そこで、見せたいものがあるんだ。」
「それは何?」
「着いてからのお楽しみ。気に入ってくれるとうれしいよ、あっくん。」
忙しく世界中を飛び回っているあっくんだが、これから音羽が行くところはまだ行ったことがないと言う。
学生の頃、一人で見に行ったキルナのオーロラをあっくんに見せたいと音羽は考えていた。
アラスカや、カナダ、多くのオーロラポイントがある中で、音羽がそこを選んだのは訳がある。誰にも邪魔されない二人きりの小さなコテージで、音羽はあっくんに渡したいものがあった。
「まだ秘密なの?」
「そうだよ。それと、アイスホテルの別棟に教会があるんだ。寒いけど、荘厳で素晴らしいんだ。まるで輝く透明なクリスタルを削って作ったような教会なんだ。もう一度、神さまに愛を誓うかい?あっくん。」
「……ああ、音羽。なんて素敵なプランなの。あっくんは何度でも愛を誓うよ。」
意外にロマンチックな音羽のプランだった。身体をつなぐだけが目的の恋人なら、この予定を見たら吹き出すかもしれない。音羽は愛するあっくんの為に、旅行社に任さず色々と細かくチェックを入れた。
*****
あっくんはマルセル・ガシアンのデザインした豪華な毛皮の外套を身に着けて、オーロラ研究所のあるキルナの空港に降り立った。迎えの車が来るのに不具合があって一時間半も待ったが、二人にはそれすら愛を語るには無駄な時間ではなかった。あっくんは、そこにいるだけでどこでも衆人環視の的だった。
「昔は、こんなに人がいなかったんだけどね。もう少し、静かだと思っていたんだが騒々しくてごめんよ。」
「大丈夫。見られるのは好きだよ。音羽といるのはもっと好きだけど。」
チェックインの後、深い雪を踏みしめて、二人はオーロラの待機所(小屋)へ向かう。
「ずいぶん小さな小屋だね。音羽。」
「ずっと昔、俺はここで初めてオーロラを見たんだよ。それ迄、映像や写真で見たことはあったけど、暗い空から燦然と輝くカーテンが降りてきて揺らめくのを見たときは言葉を失ったよ。あっくんは見たことがあるかい?」
「ペンギンの映画では見たことあるけど、本物は初めて。いつか、カナダでマルセルが見せたいと言ったことが有るけど、その頃はお兄ちゃんが大変な頃で叶わなかったの。」
「そうか。今年は頻繁に出現するらしいから、ここに滞在している間に見えると思うんだ。ロマンチストだと言ってあっくんは笑うかもしれないけど、俺はね大切な人とオーロラを見たいとずっと思ってた。現実的な奴は、ただの発光現象だと言うかもしれないけど、頭上で揺れる光の帯は本当に綺麗なんだよ。どういうのかな、地球に祝福されている気がするんだ。」
「なんて素敵。音羽……。どうしよう。あっくん、今すぐここでパンツ脱ぎたくなってきた~。」
暖炉の前で膝の間にあっくんを抱えた音羽は、それは駄目だと諭した。ここは、オーロラを待つ人の小屋だから他のコテージの客が来ないとは限らない。
「コテージに帰る?帰り道は星が降って来るよ。」
深い雪の中、10分ほどの道のりを小さなライトだけを頼りに、音羽はあっくんの手を曳いた。
「本当に星屑の中を歩いているみたい。」
「そうだろう。ほら、空が少し緑色に輝いてきた。……オーロラだ、あっくん。」
Tシャツで過ごせるほど暖房の利いた小さなコテージの中で、あっくんは毛皮の外套を取った。
見覚えのあるシースルーのピンクのオーガンジーに肌が透ける。
「アンドロイドAUの着ていたスケスケネグリだ。あはは……あっくん。全開ぱんつまで穿いてきたのか。そうか、俺の前でだけしかこれは着けちゃ駄目だって言ったものなぁ。」
「うん。今夜は音羽を悩殺するの。」
「いつだって、俺はあっくんに夢中だよ。うなぎもすっぽんも関係ない。あっくんにだけ、感じるんだ。」
「うれしい、音羽。」
あっくんの好きな、ありえないぱんつは音羽の前だけで穿くことを許されている。恥ずかしげに揺れる薄紅色に染まったあっくんの頬と同じ色の分身に、音羽はそっと手を伸ばすと緩く優しく上下にこすり上げた。
「あっ……ん。」
「あっくん。ほら……見て。素晴らしいオーロラが出現した。」
「本当……あのね、音羽。オーロラって蛍光灯みたいなものなんだよ。プラズマシート中のプラズマ粒子が大気の粒子とぶつかって発光するの……。」
「おお、物知りだな。あっくん。」
大学でロボット工学を専攻していたあっくんは、手術代を稼ぐためにモデルに転身した為、時々妙に物知りだった。大きな目を見開いてうっとりと光の揺れるのを眺めているあっくんを、音羽はそっと背後から抱きしめた。
「あっくん、オーロラを捕まえる方法を知っている?」
「ううん。……だって、粒子だもの。捕まえたりはできないよ。」
じっと視線を窓の外に向けたまま、あっくんは静かに答えた。暖房機の音だけが部屋に響く。あっくんの柔らかい肉鞘に緩やかに愛撫を加えながら、音羽は耳朶に甘く囁いた。いたずらな指が感じやすいあちこちを探っていた。
「俺は知ってる。あっくんの瞳と同じ色の、あのオーロラを取ってあげるよ、あっくん。俺が初めてオーロラを見たここで、あっくんに人生で一番特別なものをあげたかったんだ。」
あっくんはじっと静かに、一秒ごとに色を変える空を見つめていた。そっと伸ばされた指にはめられたエメラルドグリーンの高貴な輝きを認め、目を見開いた。
見つめるあっくんの瞳の中のオーロラがゆらゆらと揺れた。
「ここは、音羽の特別な場所?」
「カナダのイエローナイフか、アラスカのフェアバンクスでもオーロラは良く見えるけどね、初めてみたこの場所で大切なあっくんと一緒に眺めたいと思っていたんだ。」
「音羽。あっくんはずっと……音羽の大切な片羽になりたかった。」
「あっくん。」
「病める時も健やかなる時も……厚志は音羽を……音羽だけを永遠に愛すると誓います。音羽は厚志を同じように愛しますか……?」
恋するアンドロイドAUは、じっと主人を見つめて再起動の呪文を唱えた。
「音羽……誓って。」
「イエス。……何度でも。」
輝かしい極光が、二人を祝福した。
恋するアンドロイドAU―完―
描くたびに顔違うくね……?と、思ってはいけませぬ。
まだ進化途中なのでっす!(`・ω・´)
がんばったので、顔もアップ。
(〃^∇^)o彡T あっくん:「音羽、指輪はこっちの手じゃないよ~」
( *`ω´) 音羽:「此花が反転するの忘れたんだよっ!」
Σ( ̄口 ̄*) 此花:「しかも、指輪大きすぎた~~!!大富豪じゃないと買えないぞ~。」
(*´・ω・)(・ω・`*) あっくん、音羽:「此花、何かいつも抜けてるよね……」
ヾ(。`Д´。)ノ此花:「炊飯器、亀甲縛りする奴に言われたくないわ~~!!」
音羽:「気にするな、あっくん。」ナデナデ(o・_・)ノ”(´;ω;`) 「ううっ……」
お読みいただき、ありがとうございました。(〃▽〃)
お知らせ通り、次作からブログ村ランキングを離れます。
改稿作品も含めますと、作品数はあるので、更新は順調に出来ると思います。
次も一応現代ものです。人型わんこのお話です。
変わらずお読みくだされば嬉しいです。(*⌒▽⌒*)♪ 此花咲耶
反転後。
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