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恋するアンドロイドAU 3 

音羽が北欧行きのチケットを片手に、やっと自宅に着いたとき、家はもぬけの殻だった。

「あっくん……?いないのか?」

人気のない賃貸マンションで、音羽の一番好きなあっくんの顔の大きな写真パネルだけが音羽を待っていた。キッチンのコルクタイルばかりか、リビングの床に敷き詰めたテラコッタタイルにもあちこち滲みが出来ているのに気付く。どうやら留守の間に大規模な張替が必要になりそうだ。

「厚一郎の所へ行ったのか。まあ、その方がマルセル・ガシアンの所よりは安心だな。」

思い付いて携帯を開くと、あっくんと厚一郎から山ほどメールが入っていた。

「ああ。あっくん。長い事一人にさせてごめんよ。」

*****

可哀そうなことをしてしまったと、やっと鈍い音羽は気付いて、急ぎ厚一郎の家に向かった。しかし、既にあっくんは二人の家へ着替えを取りに帰った後で、恋人同士はまるで韓国ドラマのようにすれ違っていた。

「音羽。入れ違いになってしまったのか。きっとすぐに厚志は帰ってくると思うけど。」

「帰りを待つよ。ああ、そうだ、厚一郎。急で悪いんだけど、冬休暇は北欧に旅行をしてから日本に行くつもりなんだ。あっくんの休暇はどうなってる?聞いていないか?」

「マルセルは厚志には甘いから、休みはどうにでもなるんじゃない?この時期、ショーはないし……あ、お待ちかねの厚志が帰ってきたよ。」

表にブレーキの音がした。

「あっくん!」

「……音羽……?きゃあ。」

あっくんは音羽の胸に飛び込んで、胸いっぱいに恋人の懐かしい香りを嗅いだ。

「どうしたの?何か急用なの?何でもない午後に、音羽がいるなんて……。」

「今度こそ休暇だ、あっくん。一緒に旅行へ行こう。」

「旅行……?でも、どうして……?こんな急に、何かあったの?あっくん、こんな色気の無い格好で恥ずかしい。」

「あっくんは、どんな格好でも可愛いから良いんだよ。ずっとさびしい想いをさせてしまって悪かったね。何というか……今度のはハネムーン、みたいなものかな。俺の両親にも一度会ってもらいたいし。」

「……ハネ……ムーン……!?」

「俺の大切な人だって、両親に紹介する。」

胸の中で、身を固くしたあっくんが思わず見上げた。

「音羽……!」

思いがけない音羽の言葉に、あっくんの翠の宝石に涙が盛り上がった。音羽が大好きなだけで、何も求めていなかったあっくんがたった一つ聞きたかった言葉を音羽は口にした。

「音羽は、いつもあっくんの欲しい言葉をくれる。」

「いつもほったらかしで、すまないと思って居るよ。でも、ぼくが欲しいのはいつだってあっくんだけだよ。あっくんが一番大切なのはいつも変わらない。」

「音羽。それはあっくんも同じだよ。音羽は日陰で震えているひよこを日なたに連れ出してくれたんだよ。音羽……大好き。一週間も逢えなくて、寂しかった……。うれしい、音羽。」

「寂しくさせてごめん。あっくん、俺も会いたかったよ。抱きしめて星の数ほどキスしたかった。」

「キスして、音羽。ぼくに触って……ここにいるあっくんは、全部、音羽の物だよ。」

「……あっくん……。」

やっと巡り合ったさすらいの姫と王子は、長い旅を終えて伸ばし合った指の先に愛おしい相手を認めた。

「あ~……きゃっきゃっうふふな所、申し訳ないがな、厚志。そこで服を脱ぐな!音羽も流されてぱんつの中に手を入れるな。今すぐ、脱いだ服を着て自分たちの家に帰れー!」

「いや~ん。ルシガ居たの?覗き見なんて趣味悪いよ。」

「居たのって、そりゃ自分の家の玄関先だからな。それと、表にひよこの呼んだ日本人の魚屋が来てるぞ。」

「あ!そうだった~、あっくん、音羽に差し入れ作ろうと思って、お魚お取り寄せしたの。ちょっと待ってて。」

「一体、何を買ったんだ?」

「秘密~、疲れている音羽が元気になるものだよ。あっくん、頑張るから。ルシガがね、音羽はあっくんじゃ勃たなくなったに違いないなんて、ひどいこと言うから、そうじゃないってところ見せるの。」

その場にいた者は、食材の購入に一斉に嫌な予感に襲われて顔を見合わせたが、あっくんは、ぱっと顔を輝かせて玄関に飛び出した。にこにこと笑って、去ってゆく魚屋の車に、ご苦労さま~などと手を振っている。

「お兄ちゃん。それじゃあ、またね。あっくんは、音羽の家に帰ります。」

「ひよこ。もう帰って来るなよ~。」

「お兄ちゃん~、ルシガがいじめる~。」

「こら、ルシガ!怒るよ。」

「あっくん、行こう。今度来るときは、旅行のお土産持って二人でこよう。」

「うふふ~、ハネムーン~!」

やっと逢瀬の叶った牽牛と織姫二人は、腕を組み帰って行った。




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