恋するアンドロイドAU 2
まだ上田家が日本にいた頃、元々肝臓に持病を持っていた兄の厚一郎の容体が悪化した。
あっくんの大好きな厚一郎はどんどん弱ってゆき、顔色が黄色くなってベッドから起き上がれなくなった。米国に治療に渡って、主治医は手を尽くしたが既に手の施しようがなかった。
もう生体間肝移植しか生きる道はないだろうと主治医に聞いたちびのあっくんは、早く大きくなるから待っててねと口にして以来、本当に大人になってドナーになってくれた。
おかげでこうして回復し小康状態になった今は、まだ医師には止められているが、ルシガとそっと肌を合わせる位の優しいセクスも可能になっている。その執刀医は生体肝移植の名医デリンジャー博士と、博士の秘蔵っ子あっくんの恋人、秋月音羽だった。
「厚志、そんなに泣いたら目が溶けてしまうよ。きっと音羽は忙しいだけなんだよ。ぼくもメールを送っておくし、月末に検診で逢えたら、厚志が寂しがってたってちゃんと伝えておくからね。可愛い厚志の事を音羽が嫌いになるはずないだろう?」
「う……ん。お願いね。」
そして、涙を拭いたあっくんは打ち明けた。
「実は、あっくんね……この間、炊き込みご飯を失敗してしまったから、音羽が怒っていないかちょっと心配してる。」
「炊き込みご飯……って、永○園の「松茸のお吸い物」を二合のご飯に三袋入れるだけの簡単レシピ、お兄ちゃんが教えただろう?インスタント使わなかったのか?」
「う……ん。使ったんだけど、スイッチを入れる段階でふと冷蔵庫を見たらね、ホタテや牛肉や野菜、音羽に食べさせたかったいろいろな食材がいっぱい入っていたの。でね、……一杯入れてぎゅうっと蓋をして炊いたら……ぼんって。」
「爆発したのか……。」
「ふたは飛ばなかったよ。そんなこともあろうかと思って、ちゃんと縛ってあったし。」
「そうか。厚志は、どこで覚えたのか知らないけれど、亀甲縛りだけは得意だからね。」
「うん。いつもサプリメントばかり飲んでいるから、きちんとしたもの食べなきゃ音羽の身体によくないって思っていっぱい入れたんだけど、炊けなかったの……。ご飯、焦げたけどお米のままだった。」
「そう……。そんなことが。」
あっくんは、白米が炊飯器の中で対流出来ないほど、ぎゅうぎゅうにいろいろな物を詰め込んで、炊飯器のスイッチを押したらしい。
「しばらくすると、ふたの隙間から煮汁が溢れだして床が濡れてしまったの。」
と、あっくんは哀しそうに語った。アメリカでの新しい音羽の家のキッチンは、よりにもよってスタイリッシュなイタリア製のコルクタイルを使用していたから、シミになったら張替が必要になるらしい。賃貸だから、原状回復は当然だ。
「汚れは酷いのか?」
「うん、とっても。ソイソースの滲みって、拭いてもこすっても取れないの。くっすん。」
あっくんは悲しげに目を伏せ、厚一郎は天を仰いだ。
さすがに、厚一郎も音羽に同情してしまう。あっくんは、料理に関しては努力はするのだが壊滅的なセンスしかなかった。むしろ皆無と言って良いくらいだった。
レシピ通りに作ればいいものを、何故か途中でアイデアを思いついて実行してしまう。
実際、あっくんが料理をするたび、音羽の家にハウスクリーニングが必要になるのを厚一郎も知っていた。だから、この家ではあっくんは台所に出入り禁止ということになっている。
「厚一郎。頼むから、あっくんに料理をしないように言ってくれ、留守の間に大怪我をしそうで心配なんだ。もし、指に火傷でもしてしまったらと思うと、一人にさせたくないくらいなんだ。」
恋人、音羽の訴えは悲痛だった。
すれ違いの恋人たちは、互いを求め合いながら会えないでいた。
「え~ん、音羽ぁ……。」
サンタさんが来ぬまま、寂しい寂しいあっくんのクリスマスは終わった。
*****
あっくんの心配を他所に、実は音羽も最愛の恋人に会えないのを嘆いていた。
「ごめんよ、あっくん。」
不器用な音羽は、そっけないカードを贈るのが精いっぱいで、写真に向かって一人ごちていた。音羽を思って涙ぐんでいる恋人が想像できた。
秋月音羽は外科医として、肝臓生体肝移植の権威デリンジャーの愛弟子として忙しく働いている。アメリカ中、そして世界中から、音羽に会いたいと患者はやってくる。
先日のファッションショーが世界中に放映されて以来、マスコミは音羽の事を調べ尽くした。有名なデリンジャー博士が認めるほどの、腕のいい外科医だとすっかり知れ渡ってしまったから仕方がない。患者との面会予定で、休日もないほど秋月音羽のカレンダーは埋め尽くされていた。生真面目すぎる性格も邪魔をしていた。
始めの頃、自分の事よりも患者を優先する音羽のやり方は、反目する医師連中にとって点数稼ぎにしか見えなかった。正直、馴染むまでは散々陰口も叩かれていた。
「さすがに、デリンジャー博士に気に入られた器用な東洋人は働き者だな。あんなに休みなく働いて、何が面白いんだか。あんな男を恋人なぞにするから、モデルのATUSHIはたった一人のクリスマスだったんだろう。可哀想に。」
「おい。あれは君が、音羽の休暇を取り上げたんじゃないか。何日も休まずにやっと音羽はクリスマス休暇を入れたのに……あれは、さすがにちょっと気の毒だったな。」
「そうだよ。彼女ができたから、休暇を代わってくれだなんて。しかも、替わるからって申し出た28日なんて、とっくに音羽が手術日で外せないって知っていたんだろう?」
「まあ、そういうな。一月はカレンダーを見たが、ちゃんと休暇が入ってたぞ。おっと、秋月博士。休憩ですか?」
「さっきの話、聞こえたぞ。今度ばかりは、絶対交代しないからな。」
「聞かれてしまったか。ははっ、次の休暇の予定は立てたのか?」
人当たりの良い笑顔を向けて、コーヒーを手にした秋月音羽は、頷いた。既に同僚の中に馴染んでいる。最初、やっかみや妬みもあって、ぎくしゃくしていたが気取らない真っ直ぐな性格が知れると皆、音羽を好きになった。
「まとめて休みが貰えたから、厚志を連れて、静かな所に旅行に行くことにしたんだ。両親も心配しているから、日本に寄って顔を見せて来るよ。」
「ATUSHIを同道するのか!大騒ぎになるぞ。」
「ああ。それはもう覚悟したよ。大切な人だって両親にも紹介するつもりだ。彼にはまだ、話はしていないけど。」
「おお~、祝福されるよう祈ってるよ。」
秘密にしていたあっくんと音羽の関係は、テレビで流れたショーの光景であっさりと職場に広まってしまった。男性の恋人に偏見を持つ者は多いが、さすがに美形の兄弟の存在を知る関係者は何も言わなかった。緑と青の美しい玉石にみつめられたらどんな者でも、きっと恋に落ちるだろうと誰でも思う。
ベッドにつながれていた頃、病院内での厚一郎のあだ名は囚われの「アンドロメダ」だった。まんまじゃね~か……と、隣でペルセウスのルシガが鼻で笑っていたが、手術が成功した時、職員全員が喝采を叫んだ。
そしてルシガは,術後並んで眠るあっくんと厚一郎の前で、音羽に感謝を込めて膝を折った。
あっくんは、どうやら相変わらずやらかしているみたいです。
中々会えないねぇ。(´・ω・`)
(´;ω;`) あっくん:「音羽……」
何だか書いてて懐かしいです。(*⌒▽⌒*)♪ 此花咲耶
あっくんの大好きな厚一郎はどんどん弱ってゆき、顔色が黄色くなってベッドから起き上がれなくなった。米国に治療に渡って、主治医は手を尽くしたが既に手の施しようがなかった。
もう生体間肝移植しか生きる道はないだろうと主治医に聞いたちびのあっくんは、早く大きくなるから待っててねと口にして以来、本当に大人になってドナーになってくれた。
おかげでこうして回復し小康状態になった今は、まだ医師には止められているが、ルシガとそっと肌を合わせる位の優しいセクスも可能になっている。その執刀医は生体肝移植の名医デリンジャー博士と、博士の秘蔵っ子あっくんの恋人、秋月音羽だった。
「厚志、そんなに泣いたら目が溶けてしまうよ。きっと音羽は忙しいだけなんだよ。ぼくもメールを送っておくし、月末に検診で逢えたら、厚志が寂しがってたってちゃんと伝えておくからね。可愛い厚志の事を音羽が嫌いになるはずないだろう?」
「う……ん。お願いね。」
そして、涙を拭いたあっくんは打ち明けた。
「実は、あっくんね……この間、炊き込みご飯を失敗してしまったから、音羽が怒っていないかちょっと心配してる。」
「炊き込みご飯……って、永○園の「松茸のお吸い物」を二合のご飯に三袋入れるだけの簡単レシピ、お兄ちゃんが教えただろう?インスタント使わなかったのか?」
「う……ん。使ったんだけど、スイッチを入れる段階でふと冷蔵庫を見たらね、ホタテや牛肉や野菜、音羽に食べさせたかったいろいろな食材がいっぱい入っていたの。でね、……一杯入れてぎゅうっと蓋をして炊いたら……ぼんって。」
「爆発したのか……。」
「ふたは飛ばなかったよ。そんなこともあろうかと思って、ちゃんと縛ってあったし。」
「そうか。厚志は、どこで覚えたのか知らないけれど、亀甲縛りだけは得意だからね。」
「うん。いつもサプリメントばかり飲んでいるから、きちんとしたもの食べなきゃ音羽の身体によくないって思っていっぱい入れたんだけど、炊けなかったの……。ご飯、焦げたけどお米のままだった。」
「そう……。そんなことが。」
あっくんは、白米が炊飯器の中で対流出来ないほど、ぎゅうぎゅうにいろいろな物を詰め込んで、炊飯器のスイッチを押したらしい。
「しばらくすると、ふたの隙間から煮汁が溢れだして床が濡れてしまったの。」
と、あっくんは哀しそうに語った。アメリカでの新しい音羽の家のキッチンは、よりにもよってスタイリッシュなイタリア製のコルクタイルを使用していたから、シミになったら張替が必要になるらしい。賃貸だから、原状回復は当然だ。
「汚れは酷いのか?」
「うん、とっても。ソイソースの滲みって、拭いてもこすっても取れないの。くっすん。」
あっくんは悲しげに目を伏せ、厚一郎は天を仰いだ。
さすがに、厚一郎も音羽に同情してしまう。あっくんは、料理に関しては努力はするのだが壊滅的なセンスしかなかった。むしろ皆無と言って良いくらいだった。
レシピ通りに作ればいいものを、何故か途中でアイデアを思いついて実行してしまう。
実際、あっくんが料理をするたび、音羽の家にハウスクリーニングが必要になるのを厚一郎も知っていた。だから、この家ではあっくんは台所に出入り禁止ということになっている。
「厚一郎。頼むから、あっくんに料理をしないように言ってくれ、留守の間に大怪我をしそうで心配なんだ。もし、指に火傷でもしてしまったらと思うと、一人にさせたくないくらいなんだ。」
恋人、音羽の訴えは悲痛だった。
すれ違いの恋人たちは、互いを求め合いながら会えないでいた。
「え~ん、音羽ぁ……。」
サンタさんが来ぬまま、寂しい寂しいあっくんのクリスマスは終わった。
*****
あっくんの心配を他所に、実は音羽も最愛の恋人に会えないのを嘆いていた。
「ごめんよ、あっくん。」
不器用な音羽は、そっけないカードを贈るのが精いっぱいで、写真に向かって一人ごちていた。音羽を思って涙ぐんでいる恋人が想像できた。
秋月音羽は外科医として、肝臓生体肝移植の権威デリンジャーの愛弟子として忙しく働いている。アメリカ中、そして世界中から、音羽に会いたいと患者はやってくる。
先日のファッションショーが世界中に放映されて以来、マスコミは音羽の事を調べ尽くした。有名なデリンジャー博士が認めるほどの、腕のいい外科医だとすっかり知れ渡ってしまったから仕方がない。患者との面会予定で、休日もないほど秋月音羽のカレンダーは埋め尽くされていた。生真面目すぎる性格も邪魔をしていた。
始めの頃、自分の事よりも患者を優先する音羽のやり方は、反目する医師連中にとって点数稼ぎにしか見えなかった。正直、馴染むまでは散々陰口も叩かれていた。
「さすがに、デリンジャー博士に気に入られた器用な東洋人は働き者だな。あんなに休みなく働いて、何が面白いんだか。あんな男を恋人なぞにするから、モデルのATUSHIはたった一人のクリスマスだったんだろう。可哀想に。」
「おい。あれは君が、音羽の休暇を取り上げたんじゃないか。何日も休まずにやっと音羽はクリスマス休暇を入れたのに……あれは、さすがにちょっと気の毒だったな。」
「そうだよ。彼女ができたから、休暇を代わってくれだなんて。しかも、替わるからって申し出た28日なんて、とっくに音羽が手術日で外せないって知っていたんだろう?」
「まあ、そういうな。一月はカレンダーを見たが、ちゃんと休暇が入ってたぞ。おっと、秋月博士。休憩ですか?」
「さっきの話、聞こえたぞ。今度ばかりは、絶対交代しないからな。」
「聞かれてしまったか。ははっ、次の休暇の予定は立てたのか?」
人当たりの良い笑顔を向けて、コーヒーを手にした秋月音羽は、頷いた。既に同僚の中に馴染んでいる。最初、やっかみや妬みもあって、ぎくしゃくしていたが気取らない真っ直ぐな性格が知れると皆、音羽を好きになった。
「まとめて休みが貰えたから、厚志を連れて、静かな所に旅行に行くことにしたんだ。両親も心配しているから、日本に寄って顔を見せて来るよ。」
「ATUSHIを同道するのか!大騒ぎになるぞ。」
「ああ。それはもう覚悟したよ。大切な人だって両親にも紹介するつもりだ。彼にはまだ、話はしていないけど。」
「おお~、祝福されるよう祈ってるよ。」
秘密にしていたあっくんと音羽の関係は、テレビで流れたショーの光景であっさりと職場に広まってしまった。男性の恋人に偏見を持つ者は多いが、さすがに美形の兄弟の存在を知る関係者は何も言わなかった。緑と青の美しい玉石にみつめられたらどんな者でも、きっと恋に落ちるだろうと誰でも思う。
ベッドにつながれていた頃、病院内での厚一郎のあだ名は囚われの「アンドロメダ」だった。まんまじゃね~か……と、隣でペルセウスのルシガが鼻で笑っていたが、手術が成功した時、職員全員が喝采を叫んだ。
そしてルシガは,術後並んで眠るあっくんと厚一郎の前で、音羽に感謝を込めて膝を折った。
あっくんは、どうやら相変わらずやらかしているみたいです。
中々会えないねぇ。(´・ω・`)
(´;ω;`) あっくん:「音羽……」
何だか書いてて懐かしいです。(*⌒▽⌒*)♪ 此花咲耶