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恋するアンドロイドAU 4 

「あの箱の中、何が入っていると思う?ルシガ。」

厚一郎はほんの少し顔を曇らせた。あっくんが、また何かしでかしはしないかと、心配だった。

「考えたくもないが、音羽の大好物だとか言ってたな。……気の毒に、音羽の旅行計画は厚志の毒を食らって台無しになるかもしれないな。」

「せめて二人の無事を神に祈ろう、ルシガ。」

さすがに、厚一郎にも否定できなかった。あっくんの料理は、最終兵器並にキッチンを殲滅する。
二人は、同時に長いため息を吐いた。

*****

音羽に抱きしめられ、二つの発泡スチロールを抱えたあっくんは、自分たちのマンションに夢見心地のまま機嫌よく帰ってきた。抱擁をしたまま玄関で長いキスを交わす。
キス以外の水音に気付いた二人の視野に、白い発泡スチロールが目に入った。

「あ、そうだ。お魚買ったんだった~。」

しかし、箱を開けたあっくんは、その場で取り落とし凍り付いてしまった。

「きゃあああーーーーぁっ……!!音羽―――っ!」

「どうした……あっ!あっくん……!」

「あれっ、あれっ、蛇が!」

床一面に生きの良い鰻(うなぎ)がのた打ち回っている。音羽は呆然と床でのたうつ、極上天然物のうなぎを眺めていた。

「取り寄せしたのってうなぎだったのか。一体どうしてこんなものを……。」

「これが、うなぎなの?……ルシガが音羽はもうあっくんじゃ勃たないって……だから、精力付ける為にはどうしたら良いかなって考えたの。音羽はお仕事ばかりで疲れているでしょう?お魚屋さんに聞いたら滋養強壮には昔からうなぎだなって教えてくれて。だけど、うなぎが蛇に似てるなんて、思わなかったんだよ。こんなの、どうしよう……。」

音羽は、辺りでのたうちまわっているうなぎを、起用に手づかみで発泡スチロールの箱に戻すとあっくんの手を曳き、箱を持ったまま無言でバスルームへと誘った。

「音羽……?怒ってるの?ねえ?」

音羽はあっくんを抱え上げると、忙しなくほどいたネクタイであっくんの両手をまとめて一つにしてしまった。浴槽に立たせると、ざっと入っていた水ごと足元にうなぎを移し込んだ。

「ぬるぬるしてて、足が気持ち悪いよ……音羽。どうして……手を縛るの?あっくんは、リビングで音羽の膝で話をしたい。バスは後でゆっくり二人一緒がいいよ。音羽、何か言って……。」

「あっくん。昔、日本では遊女の仕置きにうなぎを使ったんだ。」

「遊女?音羽……あっくんは、芸者ガールじゃないです。」

「粗相をした遊女を、風呂に入れて腰まで熱い湯につける。そこへうなぎを入れたらどうなると思う?」

「……わ、わからない……音羽、ごめんなさい。そんな怖い顔をしないで。こんなつもりじゃなかったの。あっくんは重ねた四角い箱に入ったうなぎが届くと思っていたの。いつか音羽が好きだからって、二人で食べに行った日本料理店では箱に入っていたでしょう?だから、だからね。」

あっくんは、一生懸命うな重の話をしていたが、音羽は冷たい顔を崩さなかった。そればかりか、あっくんが蒼白になるような話をした。

「お湯が沸いてくると、うなぎは苦しがって逃げようとするだろう?元々、狭い場所に潜り込むのが習性だからね。遊女には、うなぎが隠れるような狭くて暗い場所が……二つあるんだよ。」

あっくんはぴくりと身じろぎ、恐怖を浮かべた緑の瞳を見開き音羽を見つめた。唇が震えていた。

「うなぎも必死なら、遊女も必死さ。遊女は湯船からでられないように、屈強な男衆が押さえつけていて、どこへも逃れられないんだ。あっくんの可愛いここにも、うなぎが熱い湯から逃れようと必死に入って来るんだよ。大変だよ……。しっかりと締めておかないと、ぬるぬるしたうなぎが奥まで入って来るかもしれないよ。いっぺんに二匹も入ったら大変だねぇ、あっくん。」

「ひっ……音羽……。いや。いや。怖い。」

「悪い子にはお仕置きが必要だろう。」

「あっくんは……音羽が……音羽の為に……えっ、えっん……。ごめん……なさ……い。お願い、やめて。」

胸で腕を組んでいたあっくんは、顔を覆うとふるふると頭を振った。何をしても思っているようにならないもどかしさに、涙がこみ上げてくる。大好きな音羽に迷惑をかけていると、自分でもわかっていた。一生けん命なのだが、いつもどこかちぐはぐで、音羽を困らせてばかりだった。キッチンも何度ハウスクリーニングが入ったか分からない。
あっくんは、嗚咽をかみ締めて零れる涙を払い、音羽を見つめていた。




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このお話は最愛アンドロイドAUの続編になります。登場するあっくんの兄、厚一郎(アレックス)と恋人ルシガははちみつ工房のねむりこひめさまのキャラクターをお借りしています。

(´;ω;`) あっくん:「え~ん、音羽がこわい~。」

ψ(=ФωФ)ψ 音羽:「ふっふっ……」

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