純情男道 3
満開の夜桜は、うっとりするほど綺麗だった。
本来なら気心の知れた者同士、春の宴は楽しいものとなっただろう。
だがその日、木本から聞かされた話は、周二にとって少しばかり厄介なものだった。
「なんだ、木本。門倉の事だろ?盛大に迎えてやんねぇとな。」
「そのことなんですが、親父さんは、どうあっても門倉の兄貴と会う気はないそうです。」
「は……?そんなわけねぇだろ。元はと言えば門倉が実刑食らった原因は、親父じゃねぇか。」
「それはそうなんですけど……。門倉の兄貴が「法度」を破ったけじめはつけさせろとおっしゃって。ここに、親父さんの花押入りで門倉の破門回状の写しを預かってきました。」
周二は思わず、聞き返した。
「破門回状……まじかよ?」
周二は、和紙にしたためられた回状をひったくり、まじまじと見やった。最近は葉書一枚で済ませるところの方が多いが、れっきとした破門回状だった。
「おれが反対すると分かってて、勝手に破門したのかよ、くそ親父……。」
「はもんかいじょ……ってなぁに?木本さん。」
隼は今一つ話が見えないで、こっそり木本に耳打ちしていた。
「破門回状というのは、「破門状」という回状を作って、木庭組が関わる組織に広く通知することですよ。つまり、娑婆に出てきた門倉は、木庭組とは一切無関係だと公言することです。」
「門倉さんって人が、もう、周二くんや木本さんとお付き合いできないってこと?」
「そういうことです。これがある限り、今後一切、門倉は周二坊ちゃんの本家筋、木庭組分家とも接触してはならないってことです。平たくいやぁ、出入り禁止ってことですかね。」
門倉にとって「破門回状」という重い制裁は、木庭組からの追放と、全暴力団社会に除外されるという二重に厳しいものになる。極道しか知らない門倉に、縁を切るから出所後は堅気の世界で生きろと突きつけたようなものだった。
「あいつは、前(前科)があったから、執行猶予もつかねぇで結局11年も務めたんだぞ!今更、極道以外でどうやって食っていけっていうんだ。あんのくそ親父っ!わけわかんねぇっ!」
「なあっ、木本!破門を何とかする方法はないのかよっ!」
「周二坊ちゃん。方法があっても、木本には一度決めたことを、親父さんが覆すとは思えません。私闘と報復は、先代から固く禁止されてきましたからね。まして、門倉の兄貴はずっと先代に仕えてきた方ですから、他の者に示しがつかないと思われたんでしょう。」
「くっそぉっ!」
気付けば、隼は白い顔をもっと白くして耳を押さえ、周二の怒声に怯えていた。そっと腕を伸ばして震える肩を懐に抱きこんでやる。
隼に触れていると、不思議と荒れた心が直ぐに凪ぐのを感じた。
「ごめんな……。大丈夫だから。大声出して悪かったな、隼。一緒に居る時は、でかい声を張り上げないって約束してたのにな。」
「ん……。周二くん。ぼくは大丈夫。ねぇ、何か大変な事があったの?」
「ああ。めでたいことと腹立つことが一緒にやってきて、脳みそ煮えそうになっちまった。」
周二は、かいつまんで、以前に自分の守り役だった男の話をした。
「昔な、隼と最初に病院で知り合ったころ、親父が入院してたんだって話しただろ?」
「うん。周二くんのお父さんは、誰かと間違えられて撃たれたんだよね。」
「ああ。心肺かすってたからな。まじ危なかったんだ。」
人違いで襲撃された木庭組長は、生死の境をさまよう瀕死の重傷を負った。助かったのが奇跡とさえ言われたほどの大怪我だった。
かねてから、一般人を巻き込むような抗争は控えるようにと、木庭組では代々、私闘や報復を固く禁じている。
それを、組長の一番傍で知り尽くしたはずの若頭が守れなかった。
手打ち式の帰り、仇の居場所を知った門倉は、よりによって単身、鉄砲玉のヤサを襲い犯人を始末してしまった。本人の自首もあり、組ではなく木庭組若頭、個人の暴走として何とか始末はついたが、出所するとなるとやられた方は、身柄を引き渡せと言って来るはずだ。
事実、強引に退院した木庭組長の最初の仕事は、手打ちを反故にした門倉の親として、頭を下げて回ることだった。車椅子からずり落ちるようにして、玄関の三和土(たたき)で土下座する蒼白の木庭組長と共に、同道した木本も額を擦り付け続けた。
仇を討ったその足で自首をしていた門倉の行動は、一見ただの敵討ちに見えて、極道の世界では多方面に色々面倒なことを残した、ただの自己満足でしかなかった。
周二にもそれはわかっていた。
「でもよ!……11年も前の事なんだ。」
大きな丸い目を向けた隼が、くるりと振り返るとふっと笑った。
「懐かしい人に会えるんだね。待ち遠しいね。」
「隼。極道には堅気にはわからないような、厄介なことが有るんだ。親父も内心じゃ門倉に会いたいんだろうけどな……どうしたもんかな。」
「ん~。周二くんが頑張るしかないんじゃない?」
「俺?」
「だって、どっちも会いたいのに会えないんでしょう?周二くんは会わせたいんでしょう?だったら、周二くんが頑張るしかないんじゃないのかなぁ。」
「隼坊ちゃん。そうは言いますが、事は簡単には……」
「そっか、そうだよなぁ!ややこしい話は全部、親父が頭を下げてとうに片ついてるんだ。後は、親父と門倉が和解すればいいだけの話だな。隼~!」
「きゃあ~。」
「花見の続きやるぞ!さくら餅、食わせろ。」
「や~ん。」
どうやら色々、面倒なことが起こっているようです。
隼ちゃん……能天気だね~……(´・ω・`)
隼と周二のシリーズを一気読みして下さった方。ランキングを外れていた分を一気読みしてくださった方。
ありがとうございます。(*⌒▽⌒*)♪
たくさんの拍手を、いただいてうれしかったです。キュ━.+゚*(о゚д゚о)*゚+.━ン♡
ランキング参加復活しました。(`・ω・´)拍手もポチもありがとうございます。
励みになりますので、応援よろしくお願いします。
コメント、感想等もお待ちしております。 此花咲耶
本来なら気心の知れた者同士、春の宴は楽しいものとなっただろう。
だがその日、木本から聞かされた話は、周二にとって少しばかり厄介なものだった。
「なんだ、木本。門倉の事だろ?盛大に迎えてやんねぇとな。」
「そのことなんですが、親父さんは、どうあっても門倉の兄貴と会う気はないそうです。」
「は……?そんなわけねぇだろ。元はと言えば門倉が実刑食らった原因は、親父じゃねぇか。」
「それはそうなんですけど……。門倉の兄貴が「法度」を破ったけじめはつけさせろとおっしゃって。ここに、親父さんの花押入りで門倉の破門回状の写しを預かってきました。」
周二は思わず、聞き返した。
「破門回状……まじかよ?」
周二は、和紙にしたためられた回状をひったくり、まじまじと見やった。最近は葉書一枚で済ませるところの方が多いが、れっきとした破門回状だった。
「おれが反対すると分かってて、勝手に破門したのかよ、くそ親父……。」
「はもんかいじょ……ってなぁに?木本さん。」
隼は今一つ話が見えないで、こっそり木本に耳打ちしていた。
「破門回状というのは、「破門状」という回状を作って、木庭組が関わる組織に広く通知することですよ。つまり、娑婆に出てきた門倉は、木庭組とは一切無関係だと公言することです。」
「門倉さんって人が、もう、周二くんや木本さんとお付き合いできないってこと?」
「そういうことです。これがある限り、今後一切、門倉は周二坊ちゃんの本家筋、木庭組分家とも接触してはならないってことです。平たくいやぁ、出入り禁止ってことですかね。」
門倉にとって「破門回状」という重い制裁は、木庭組からの追放と、全暴力団社会に除外されるという二重に厳しいものになる。極道しか知らない門倉に、縁を切るから出所後は堅気の世界で生きろと突きつけたようなものだった。
「あいつは、前(前科)があったから、執行猶予もつかねぇで結局11年も務めたんだぞ!今更、極道以外でどうやって食っていけっていうんだ。あんのくそ親父っ!わけわかんねぇっ!」
「なあっ、木本!破門を何とかする方法はないのかよっ!」
「周二坊ちゃん。方法があっても、木本には一度決めたことを、親父さんが覆すとは思えません。私闘と報復は、先代から固く禁止されてきましたからね。まして、門倉の兄貴はずっと先代に仕えてきた方ですから、他の者に示しがつかないと思われたんでしょう。」
「くっそぉっ!」
気付けば、隼は白い顔をもっと白くして耳を押さえ、周二の怒声に怯えていた。そっと腕を伸ばして震える肩を懐に抱きこんでやる。
隼に触れていると、不思議と荒れた心が直ぐに凪ぐのを感じた。
「ごめんな……。大丈夫だから。大声出して悪かったな、隼。一緒に居る時は、でかい声を張り上げないって約束してたのにな。」
「ん……。周二くん。ぼくは大丈夫。ねぇ、何か大変な事があったの?」
「ああ。めでたいことと腹立つことが一緒にやってきて、脳みそ煮えそうになっちまった。」
周二は、かいつまんで、以前に自分の守り役だった男の話をした。
「昔な、隼と最初に病院で知り合ったころ、親父が入院してたんだって話しただろ?」
「うん。周二くんのお父さんは、誰かと間違えられて撃たれたんだよね。」
「ああ。心肺かすってたからな。まじ危なかったんだ。」
人違いで襲撃された木庭組長は、生死の境をさまよう瀕死の重傷を負った。助かったのが奇跡とさえ言われたほどの大怪我だった。
かねてから、一般人を巻き込むような抗争は控えるようにと、木庭組では代々、私闘や報復を固く禁じている。
それを、組長の一番傍で知り尽くしたはずの若頭が守れなかった。
手打ち式の帰り、仇の居場所を知った門倉は、よりによって単身、鉄砲玉のヤサを襲い犯人を始末してしまった。本人の自首もあり、組ではなく木庭組若頭、個人の暴走として何とか始末はついたが、出所するとなるとやられた方は、身柄を引き渡せと言って来るはずだ。
事実、強引に退院した木庭組長の最初の仕事は、手打ちを反故にした門倉の親として、頭を下げて回ることだった。車椅子からずり落ちるようにして、玄関の三和土(たたき)で土下座する蒼白の木庭組長と共に、同道した木本も額を擦り付け続けた。
仇を討ったその足で自首をしていた門倉の行動は、一見ただの敵討ちに見えて、極道の世界では多方面に色々面倒なことを残した、ただの自己満足でしかなかった。
周二にもそれはわかっていた。
「でもよ!……11年も前の事なんだ。」
大きな丸い目を向けた隼が、くるりと振り返るとふっと笑った。
「懐かしい人に会えるんだね。待ち遠しいね。」
「隼。極道には堅気にはわからないような、厄介なことが有るんだ。親父も内心じゃ門倉に会いたいんだろうけどな……どうしたもんかな。」
「ん~。周二くんが頑張るしかないんじゃない?」
「俺?」
「だって、どっちも会いたいのに会えないんでしょう?周二くんは会わせたいんでしょう?だったら、周二くんが頑張るしかないんじゃないのかなぁ。」
「隼坊ちゃん。そうは言いますが、事は簡単には……」
「そっか、そうだよなぁ!ややこしい話は全部、親父が頭を下げてとうに片ついてるんだ。後は、親父と門倉が和解すればいいだけの話だな。隼~!」
「きゃあ~。」
「花見の続きやるぞ!さくら餅、食わせろ。」
「や~ん。」
どうやら色々、面倒なことが起こっているようです。
隼ちゃん……能天気だね~……(´・ω・`)
隼と周二のシリーズを一気読みして下さった方。ランキングを外れていた分を一気読みしてくださった方。
ありがとうございます。(*⌒▽⌒*)♪
たくさんの拍手を、いただいてうれしかったです。キュ━.+゚*(о゚д゚о)*゚+.━ン♡
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