純情男道 6
「大丈夫だよ。周二くん。何が起きても、周二くんもぼくも何も変わらない。大丈夫。ぼくは、周二くんを守るよ。」
隼は紙のように白くなったまま、唇だけを赤くして、自分に言って聞かせるように、もう一度、大丈夫と繰り返した。
「でも、そばにいてね。ぼくが逃げ出したりしないように、ぎゅっと手を握っていてね。」
「ああ。一緒に居る。」
付き合っていくうちに、隼は周二の稼業や生き方を少しずつ理解しようとしていた。法律が変わり、どんどん住みにくくなってゆく狭い世界の中で、木庭組の進む道は正当な暴力団とは一線を画していったかもしれない。商才のある木本の起こした商売は、どれも上手くいっていたし、木庭組自体、元々大きな組織の傘下にも入っていない一匹狼のような存在だった。それでも、代々シマを持つ極道の端くれとして木庭組は存在する。
初代の頃から変わらず、大きな組織や権力者にも媚びずおもねず、淡々とシマの堅気の衆を守ってきた。有事の際には、躊躇せずに堅気を守る為に一命を張る。そんな生き方に憧れている、極道は多い。
門脇自身も、映像でしかもう逢えない、古い時代の侠客のような先代に憧れて、盃を貰った一人だった。
*****
「ばあちゃん。じいさんの着物貸してくれないか。隼に着せるんだ。」
「隼ちゃんにかい……?あたしの着物の方が、あの子には映えるんじゃないかい。」
何かを察した先代の妾は、薄い藤色の羽二重を出して気付けをしてくれた。細いしなやかな白い肢体に、春らしい薄色はとてもよく似合っていた。柔らかな明るい色の髪を指で梳いて、隼は姿見越しに凛とした視線を向けた。
「行ってきます。」
*****
「門倉、いいか。」
どうぞと、門倉の明るい声に促され、周二は隼を連れて部屋に入った。
「……初めまして。沢木隼です。」
春色の着物を身に着けた隼の姿に、門倉は小さくほぉ……と驚きの声を上げた。その姿は門倉の想像を、いい方に裏切っていた。
豊満な女性を想像していたのが、ちんまりと小柄な隼は余りに予想と違っていたらしい。
「門倉だ。お稚児さん、行儀がいいな。年はいくつだ。」
「学年は一緒ですけど、周二くんより三歳上です。」
「三つも上?ダブリってことか?理由を聞いてもいいか?」
「はい。小さなころに……、ちょうど周二くんのお父さんが入院していた病院に、ぼくも長く入院していました。」
「そうか……なるほどね。周二坊ちゃんから話は聞いたかい?」
「はい。門倉さんと交わした約束の話を聞きました。」
「それで、泣く泣くここに来たのかい?」
「いいえ。ここに来たのは自分の意思です。ぼくが周二くんを守りたいから。」
「その細腕で、周二さんを守るのかい?じゃ、これからの事は、お前さんも納得済みだと思っていいんだね。」
声にはならなかったが、隼の口の容が「はい。」と動き、こくりと頭が揺れた。
周二は自分への怒りに血をたぎらせて、火を噴くような視線を二人に向けて会話を聞いていた。どうすれば門倉から隼を救えるか、今も必死で考えていた。
「いじらしいね。一途な子はおじさんは好きだよ。ここにおいで。」
門倉の武骨な指が、周二の目の前で隼にかかり、着物の襟を抜く。襦袢でころりと転がされた。
酔客が泊まれるように、続き部屋のある部屋に布団が用意されていた。抗う(あらがう)ことなく着物を滑りおとし、隼はその場にきちんと正座した。
いつもの「めのほよう」と違って、隼を縛めるものは何もない。周二とつながれていないのが、今はどこか心許なかった。そっと、首筋に手を当てて、二人を結ぶあの首輪が有れば良かったのにと思う。
「……何もわかりませんが、よろしくお願いします。」
驚くほど静かに、隼はその場に指を突いた。
「行儀のよいお稚児さんだ。周二さんはあんたは初めてだって言ってたが、本当にそうなのかい?見た所、これまで無事でいたとは思えないんだが……。」
「子供のころに乱暴……されたことはあります。幼すぎて、覚えてないですけど。」
「そうか。難儀だったな。男が綺麗に生まれ付くってのは、いいこともあるが悪いこともある。余程、強くなきゃあ、どぶの中に叩きこまれて終いになる。あんたは、どぶの中に一回落ちて立ち上がって来たんだな。えらかったな。」
門倉は、隼を横たえると膝の間に、ゆっくりと手を這わせた。
「あ……っ……。」
身じろいだ隼は、視線を彷徨わせ周二を捉えた。だが眉をひそめて震える唇は、助けを求めなかった。
「隼っ……。」
周二の膝の上の固い握りこぶしが、白蝋のようになって血の気を失くしていた。
(´・ω・`) 隼:「ぴんちです~。」
此花、絵を描きました。
まだまだへたっぴですが、一生懸命練習中なので、甘い目でみてください。(`・ω・´)
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