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だいじろうくんの事情 6 

日々の暮らしの中で、一度口にした台詞は、体の中に似染み込むように、大二郎の物になっている。打てば響くようにすぐに台詞が出てくるのが、天才子役と言われる所以だった。

滑り台の狭い台の上で、大二郎は母を恋う「番場の忠太郎」になった。
やっと探し続けた母親につれなくされて、身をふり絞る場面だ。

「おっ母さん。いや、お浜さん。……どうしてもおいらを、倅(せがれ)の忠太郎とは呼んで下さらないんですかい。」

醍醐が答えた。

「妾(あたし)の名前が、あんたのおっ母さんと同じ「お浜」だからと言って、どうして倅と呼べようか?妾には倅なぞ、いやしないんだ。」

「こうして母を恋うて幾年月……。おいら、おっ母さんを責めているんじゃないんだ。おっ母さんはお達者か、ご無事でいるだろうかと、顔も知らない瞼の母を、おいらはただ会いたい一心で捜してきたんだ……。」

大二郎は滑り台の手すりを掴み、醍醐に向かって声を絞った。

「頼む、おっ母さん。せめて……、せめて一度でいいから……忠太郎と、おいらの名前を呼んじゃくれないか?」

「ええ、くどいね。知らない、知らない。お前のような渡世人は妾の子じゃないって言ってるだろう!そんなところに居られちゃ迷惑だ、帰っておくれ。」

大二郎は滑り台の上で、くるりと醍醐に背を向け天を仰いだ。

「な……んで、なんで、会いに来ちまったんだ。親と名乗れず、子と呼べず……。これも浮世の罪とやら。うろたえたおかみさんの顔には、おれが倅だとちゃんと書いてあるってのに……。」

「いいさ……おいらには、上と下の目蓋を合わせ、じっと目を閉じてりゃおっ母さんの顔が浮かぶんだ……。おっ母さんに会いたくなったら、おいらこうやって、しっかりと目をつぶるんだぁ……。」

「大二郎。そこで、さあちゃんの顔を浮かべてみな。」

「おっ母さ~ん…………」

恋しい母の面影を求めた忠太郎の目蓋に、恋しいさあちゃんの顔が浮かんだ。
ぽろぽろと、涙が頬を転がってゆく。

「……さあちゃ~~~~~~~んっ!!さあちゃ~~~~ん!!……ああぁ~~んっ……さあちゃん~。」

「そうだ。よしよし、大二郎。これが人を恋うってことなんだ。忘れずに覚えておきなよ。」

「さあちゃ~ん……。」

醍醐の胸で、忠太郎が涙にくれていた。

*****

ぱちぱち……
誰もいなかったはずの公園に、いつの間にか人が集まっていた。

「いやぁ、いいものを見せてもらった。ここで舞台の練習かい?」

「はい。しばらくご当地で一座を張ります、劇団醍醐でございます。お見知りおきくださいますように。」

「今の番場の忠太郎は面白そうだねぇ。あ、もしかして……君はテレビにも出てる?何か、見たことあるなぁ。」

「はい。売出し中の柏木醍醐でございます。こちらは、倅の柏木大二郎と申します。」

大二郎は頭を下げた。
犬を連れたご婦人がきゃあ、本物の柏木醍醐~……と小さく声をあげた。

「本物でございますよ、お嬢さま。」

振り返って艶やかな微笑みを流す。それだけで、色めきたったご婦人方が押し寄せ、一気に即席の握手会のようになってしまい、大二郎はその場の父を誇らしく思った。

「劇場でお待ちしております。どうぞ、お運びください。……あ、羽鳥。」

迎えに来た羽鳥が、分かっていますと手を上げた。いつもの慣れた光景だった。

「皆様、ご声援ありがとうございます。これは些少ではございますが、お近づきの記念の品物としてどうぞお持ちください。」

その場に集まった14,5人に持参した生写真入りの豆手拭いを配るのは毎度のことだ。羽鳥はどこへゆくにも大抵、20枚くらいは持ち歩いていた。




(ノ´▽`)ノヽ(´▽`ヽ)「きゃあ~、本物よ~♡」

(`・ω・´) 醍醐 「本物でございます。」

(〃゚∇゚〃) 大二郎 「さすがはお師匠さん~」


本日もお読みいただきありがとうございます。
大二郎くんとさあちゃんは、この先会えるのでしょうか……(´・ω・`)← 此花咲耶

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