だいじろうくんの事情 8
年末大型時代劇に出演する子役を捜していたと言うその人は、その日の演目を見て迷わず大二郎に白羽の矢を立てた。
板の上では小さな大二郎が、三度笠に合羽姿で、いなせな渡世人、番場の忠太郎となり多くのご婦人を涙に誘っていた。
舞台がはねた後、大二郎を傍に呼びつけた醍醐が、満面の笑みを向けた。
「大二郎!テレビに出られるぞ。出演依頼が来た。」
「テレビ……?なぁに?」
「舞台以外の仕事は初めてだな。共演だぞ。」
大二郎は、稽古事と舞台に忙しくて、普段あまりテレビは見ることはない。子供らしくアニメなどは好きだったが、固執することはなかった。
テレビの仕事では、醍醐が真田幸村、大二郎が大阪城から真田に救出される豊臣の御曹司、秀頼を演じるのだと言う。
「史実ではなく、今回は伝承に題材を得た話なんです。今は、戦国ブームで色々な話が出尽していますから、切り口を変えてみようという事になりました。」
「熊本辺りでは、鬼のような真田が、豊臣の花のような若さまを連れて熊本城に入ったなんてわらべ歌があるんです。その若さまが、決起して徳川に一泡吹かせるために、島原の乱を起こしたと言う説もあります。相当な美少年らしかったですしね。大二郎くんにぴったりだ。きっと人気が出ますよ。」
そのプロデューサーは熱く話を語った。もし、年末に視聴率が良かったら、そのまま何本か単発で考えているという。端役で劇団員の総出演もあると言うので、台所を預かっている羽鳥も大いに乗り気になった。
*****
「羽鳥。大二郎にも、いつかはテレビ局から声がかかるだろうと思っていたが、考えていたより早かったな。」
「そうですね。思わぬ口コミもあったみたいです。」
「ふ~ん。」
「なんだ?嬉しくないのか?」
「おれ……テレビはよくわかんない。お師匠さんが良いなら、出てもいいよ。」
「テレビだと、お友達が見てくれるかもしれないぞ。」
「……本当?」
心の片隅で、さあちゃんが見るかもしれないと思った。
*****
懐かしい町でも、テレビを見ていた禎克の母親が、劇団醍醐の親子共演のニュースに気が付き夫に話をした。
「ねぇ、あなた。今日ワイドショーで見たんだけど、大二郎くんと醍醐さんね、年末に揃ってテレビに出るんですって。」
「そう?ずっと頑張っているんだね。」
「さあちゃんに教えてあげた方が良いかしら。でも、さあちゃんは、あれ以来大二郎くんのことは話さないし、知らない方が良いかもしれないわね。」
「そうだな。可哀そうな別れ方をさせてしまったからな。住む世界も違うしなぁ……。例え会ったとしても、もう何年も経つんだ。お互いもう、覚えていないかもしれないね。」
大人たちの思いは色々交錯していたが、禎克も大二郎もそんな思惑を知ることはなかった。子供の流れる時間は早い。
それぞれの場所で二人は、関わることなく成長してゆく。
離れ離れになった二人が、劇的な再会をするのは、10年以上も経ってからのことだった。
なかなか会わせてあげられなくて、ごめんね。(´・ω・`)
もう少しだけ待っててね。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
明日からは、高校生のさあちゃんです。
変わらずお読みいただければうれしいです。
(`・ω・´) 禎克「よろしくお願いします!」
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