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波濤を越えて 11 

正樹は、それからしばらく学校へ来なかった。
田神が何度電話をかけても、体調が悪いとだけ話し、それ以上の会話を進展させなかった。
焦れた田神は、とうとう様子を見に訪れた。
正樹の母は、朝早くに事務の仕事に出てゆく。田神は少し遅い時間に、玄関チャイムを鳴らした。

「正樹!俺!いるんだろ」
「……田神……うるさい」

ぽってりと腫れぼったい目をして、パジャマのまま玄関に現れた正樹を見て、田神は絶句した。

「どうしたんだ、正樹。その顔」
「なんでも……ない。少し具合が悪いだけ……だから、今日も休む」
「ひどい顔色だな。休んだ方がいいと思うけど、病院は行ったのか?」
「ううん。少し休めば大丈夫」

田神は、最近の正樹の様子がおかしいのに気が付いていた。どうみても一睡もせずに、泣いていたという顔だ。

「俺にできることある?」

ないと答えた正樹の顔は、普通の状態ではない気がする。たった数日で頬がこけ、すっかり印象の変わった友人からは、笑顔が消えていた。

「正樹、ちょっといいか」

ドアを閉めようとするパジャマ姿の正樹が、そのまま消え入りそうに見え、思わず田神は腕をつかんで家に押し入った。
玄関に腰を下ろさせて、田神は真摯に聞いた。
それは幼馴染として当然の行為だったが、正樹は目を伏せたきり田神の方をまともに見ようともしない。

「こっちを向けよ。正樹が悩んでいることって、俺に話せないのか?」
「話せない」
「どうして?」
「……軽蔑されたくない」
「何があっても正樹を軽蔑したりしないよ。俺たち、親友だろ?」
「そう思っていたけど……僕は駄目なんだ。もう見捨てられた方がいい……構わないでくれた方が気が楽だ」
「正樹。もしかすると、原因は生徒会長か?」

はっと見上げた双眸に、みるみる涙がたまりどっと溢れた。
何となくそれで腑に落ちた田神だった。

「この頃、昼休みにも呼び出されて、二人でどこかにいなくなるだろ?何度か、旧校舎の窓際に立っているのを見たこともある。あいつと何かあったのか?」
「……何もない。」
「何もないって顔じゃないだろ!」
「……一方的にキスされただけ……」
「キスされただけで、こんな状態になるものか。正樹、俺に話せ」
「いやだ……田神に嫌われたくない……言いたくない……」
「じゃあ、一つだけ質問してもいいか?」
「答えられないかもしれない……」

血の気のない唇が震えていた。




本日もお読みいただきありがとうございます。
とうとう学校にも行けなくなった正樹。
田神は正樹の救いになるのでしょうか……?(´・ω・`)

そろそろストックが危なくなってきました。着地できるように頑張ります。

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