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波濤を越えて 13 

とうとう正樹は白状した。
ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。

「……僕といるときのあいつはまるで人が変わったみたいに、僕を扱うんだ。何もわかっていないって何度も蔑むように言われたけど……僕は、きっと何も知りたくなかったんだと思う」
「無理やり知ろうとしなくても、個人差はあっても自然に知るときは来るよ。姉ちゃんの部屋の女性誌の内容なんて、すごいぞ。彼に好かれるキスとベッドテクニックとか見出しがついててさ。タイトルだけで鼻血が出そうだろ?」
「僕はずっと性的なものに興味を持つのは、なんだかいけないことのような気がしてた」
「潔癖症だな。オナニーくらい誰だってやってるぞ。やりすぎて皮がむけたやつもいるくらいだ。猿かよって、つっこんだけどな」

正樹は、悲し気にそうだったのか……とつぶやいた。

「僕って、会長の言うように、やっぱり何も知らない子供だったんだね」
「正樹……何だか、俺さ……正樹がそんな風に言うと、俺の方がおかしな気持ちになるよ」
「どうして?」

不思議そうに小首をかしげた正樹の眼もとはぷっくりと腫れていて、薄く紅を掃いたように色づいていた。

「正樹が、すごく綺麗だからだよ。うちの高校って、男ばかりだろ、会長はきっと女の子の代わりにしたかったんだよ」
「ううん、違うよ……綺麗っていうのは、走っている田神の足の筋肉の隆起を言うんだ」
「はっ?筋肉?」
「田神の太ももの筋肉は誰よりも美しいよ。短パンで走っていると、筋肉がロープのようにうねるんだ。僕はいつも引き寄せられるように目で追ってしまう。網膜に焼き付けておけたらと思ったくらいだ」
「え~っと……。盛大に褒めてもらったところ、悪いんだけどさ。その感覚は多少ずれていると思うぞ」
「え……そうなの?」
「絵を描く奴って、俺らとは感覚が違うのかもしれないな」
「とても綺麗なのに……」

どこか不思議そうな正樹だった。

「正樹。あいつとの話は俺がつけてやるから、もう気に病まなくていい。呼び出されたら、俺に叱られるから、もう行きませんって言えばいい」
「諦めてくれるかな……」
「俺たちが、付き合っているって事にすればいいんだよ」
「田神……中学の時から彼女いるじゃん」
「そうだけど、そういう事にするんだよ。でないと、いつまでもしつこく執着されるぞ。泣くほど嫌なんだろう?目の下のクマ、ひどいぞ」
「うん……」
「このまま引きこもっていても、事態は好転しない。だから、やってみよう」
「田神に迷惑かけるね、ごめんね」
「あのさ、俺とキスをするのも嫌だった?」
「ううん。気持ちよかった」
「こういうところなんだろうな」

田神は小さくため息をついた。

「ん?」
「まあいい。とにかく、明日から呼び出されても、どこにも行くな。俺の傍に張り付いていろ。いいな?他の奴らにも、気を付けといてって話しておくから」
「田神……もう一度キスして……」

正樹の瞳が、涙のせいだけではなく潤んでいた。




本日もお読みいただきありがとうございます。
相手が違うと、キスも嫌だったり嬉しいものになったりすると、気づいた正樹。
(; ・`д・´)そんな当たり前のことを知らなかったのか、正樹……
(´・ω・`)……うん。

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